第二十二話 作戦変更
ポイントの動きが良かったので、予定変更で更新します。
ブクマ、評価くれた方ありがとうございます!!
二日目に向かったダンジョンは【太古の石塔】というSS難度のダンジョンだった。出現モンスターの強さとダンジョンの深さから嫌煙されがちのダンジョンで、未だに中層階までしか踏破されていないという。
「それじゃあ行ってくるよ」
手を振る俺の姿を遠目に、サタナは血涙を流していた。そんな彼女を、背に携えた退魔の聖剣・カラドボルグがこれでもかというくらいに煽り立てていた。
「あまりイジワルしてやるな」
ダンジョンを攻略しギルドへと帰還した後。
二人の間に散るであろう火花を考えると、俺は呆れるしかなかった。
「無理に仲良くしろとまでは言わないが、余計な喧嘩はよしてくれ。サタナが本気で暴れたら、多分この街は消し飛ぶぞ」
「多分じゃなくて絶対ね! 断言できるわ」
「分かってるなら尚更だよ」
「うう、ごめんなさぁい。怒らないでよレイン様ぁ」
別に怒ってはいないのだがな。
そう思いながら馬車を待っていると。
「お~い!」
やがて、見慣れた顔が手を振るのが見えた。
彼は確か。
「あっ! バーシーさん!?」
「へへっ、覚えていてくれやしたか! こりゃあ嬉しいですね」
街を出るまでの間、俺はバーシーさんと並んで歩いた。
この前のお礼もしたかったし、丁度良い機会だ。
「いやあ、驚きましたよ。ついこの間まで【ボポンの森】に挑んでいたレイン様が、今や【太古の石塔】に挑むと言うんですから」
「退魔のアイテムを貰ってね」
主要部分を誤魔化しながら、俺はバーシーさんとの会話を楽しんだ。
「なるほど。効率的にレアアイテムだけを集め、その後からレベルを上げるっていう作戦な訳ですね? 中々考えやしたね!」
嘘を吐くのは心苦しかったが、致し方なしというヤツだ。
一から十までを正直に喋ったら大変な騒ぎになるからな。
「そうだ、これを」
俺は懐からハンカチを取り出した。
それはかつてバーシーさんに手渡されたものである。
「今では笑い事だけど、あの時の俺は仲間からパーティを追い出されたばかりでね。無意識下では深く傷ついていたんだ。だから、バーシーさんには感謝しているよ」
俺が言うと、バーシーさんは照れくさそうに頬を掻いた。
「なに、当然のことをしたまでですよ。……この仕事を続けてかれこれ四十年くらい経ちますがね。なんとなくですが、冒険者のお方を見れば、その人がどういう人物なのかが分かるようになってくるんです。レイン様を一目見た時、アッシは思いましたよ。ああ、この人はいつか大きなことをしでかすぞ! とね」
「買い被りすぎだよ」
「そうでもないでしょう。事実、こんな方法で上のランクに行こうとしている。……そのハンカチはもう少しだけ預かってて下せい。レイン様とアッシを繋ぐ唯一の絆ですから。いつかレイン様が大物になった暁には、ちょっとくらいはご馳走して下さいよ?」
そういう事なら、と俺はハンカチを懐にしまい込んだ。
いつか返せる時が来るよう、精進しなくてはな。
「ささっ、そろそろお乗り下さい」
バーシーさんに促され、俺は馬車に乗った。
「知り合いなの?」
小声で問うカラドボルグに、俺は「ああ」と頷いた。
「少し大げさかもしれないが、恩人と言ってもいいかもしれない」
あの時の俺にとっては。
バーシーさんの優しさは、それ程までに有難いものだったのだ。
☆ ☆ ☆
【太古の石塔】の最深部には【蛇姫の指輪】というアイテムが眠っていた。状態異常:石化を100%の確率で防ぐことが出来るらしいが。
「みんな外れか」
この日、俺たちは別行動をしていた。一つのダンジョンを三人で攻略するより、単身で攻略する方が効率的だからな。が、しかし。
「私の所は金塊が三つだけでした」
メアリさんは溜息混じりに言った。金塊三つ、これはかなりの大金だ。強盗に狙われてもおかしくはない。だが、今の俺たちが求めているのはゴールドではないのだ。
「妾のところは何もなかったぞ」
「何もない?」
俺は首を傾げた。ダンジョンの最深部にはお宝が眠っている。これは常識中の常識で、だからこそ数多くの人間が冒険者をやっているのだ。なのに何もないとは?
「極まれにそういうダンジョンがあるんですよね」
メアリさんは肩を落としながら言った。
「いわゆる、『大外れ』ってやつです」
「つまりは完全な無駄骨ということじゃな」
収穫はゼロ、か。
だがそれも当然だろう。そもそも、サタナが生まれる以前といったらどれくらい昔なんだ? というか、サタナって何歳なんだ?
一瞬聞いてみようかと思ったが、すぐに考えを改めた。
魔王とはいえ女性である以上、最低限の気遣いはしなくては。
「明日が最後、か。カラドボルグ」
俺は彼女に諭すように語り掛けた。
「繰り返しにはなるが、これといった成果が出せなくても怒らないでくれよ? そもそもが無理難題なんだから」
「ああ、その件なんですが、少し作戦を変更しませんか?」
メアリさんが人差し指を立てながら言った。
何か名案でも浮かんだのだろうか?
「少し考えてみたんですが、もっと効率的な方法があることに気付いたんですよ」
「ええ、本当!?」
カラドボルグが黄色い声音を発した。
「ふむ、興味深い」
サタナも興味津々といった様子だ。
「原点回帰、とでも例えましょうか」
「原点回帰?」
「はい。私たちの居る場所を思い出してみて下さい」
言われてみて、俺は「なるほどな」と相槌を打った。
「魔法都市・カツシア。マナクルス魔法学園を中枢に据え、大きく暮らしを発展させてきた学園都市、だったな」
「ご名答。であれば、古代魔法について調べるのに最もうってつけな場所はマナクルス魔法学園だとは思いませんか?」
「おお、それは言えてるな!」
サタナは得心した様子で頷いた。
「そういうことなのでレインさん」
「ん?」
「マナクルス魔法学園に編入して下さい!」
流石に無理があるだろう、と言いかけたが。そこで俺は思い出した。メアリさんがかつて教職に就いていたということを。
「あっ、学費などの心配は無用ですよ。あそこの校長と私は旧知の仲ですからね。編入の手続きも明日には済ませてくれるでしょう」
「……マジか」
「はい、マジです」
メアリさんは太陽のように微笑んだ。
ああ、なんとも眩しい笑顔だ。
「話はついたようじゃな! じゃ、妾はもう帰るとするかのう」
「帰るってどこに?」
思えば、サタナはここ数日どこで寝泊まりしていたのだろうか? まさか野宿をしていたわけでもあるまいし。
「ふふっ、妾は精神に特異な領域を有しておるからな。日常生活はそこで自由自在に送ることが出来るのじゃ。でも」
数瞬の間の後、サタナは頬を赤らめながら言った。
「許してくれるというのなら……。レイン、お主と一つ屋根の下で眠ることも吝かではないぞ?」
「ふざけないで下さい」
間髪入れずにメアリさんが言った。
「とっととその精神領域とやらに帰って下さい」
「むう? そんなに怒らなくてもよいではないか。ぬぬっ、まさかお主! 嫉妬しておるのか? 妾とレインの仲睦まじいこの様子に!!」
「なっ、なにを!! 嫉妬だなんて、するわけないじゃありませんか!!」
「またまたぁ。そんなに照れるでない。自分の気持ちには素直になった方が良いぞ? ただでさえ人間の寿命は刹那とも思える程に短いのだから」
「黙れっ!」
ああ、また始まった。
どうして二人はこんなにも仲が悪いのだろうか。
「ちょっとぉ、静かにしなさいよアンタたち! 我のレイン様が困ってるじゃない!!」
あ、二人じゃなかった。
カラドボルグも含めたら三人だ。
全く、やれやれだな。
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