第十九話 レベル700
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一方その頃。
サタナは、かつての愛犬と感動の再会を果たしていたのだが……。
『特別だ! 貴様には最初から本気のパワーで相手をしてやろう!!』
秘奥義・限界突破!!
「ぉおっ、なんだそのオーラは! かつてのお主とは段違いではないか!!」
サタナは驚きに目を見張った。
かつてペットとして扱っていたモンスター、ケルベロス改めケルべズス。その強さが明らかに跳ね上がったのだ。
生物としてのレベル・次元が以前とは比べ物にならなくなっている。元飼い主として、こんなにも喜ばしいことはなかった。
「うぅ、少し見ない間にそんなに立派になったのだな、ケルベロスよ」
感動のあまり涙するサタナだが、ケルべズスからは恐怖の涙に見えていた。
『ハーハッハッハッハッ!! すっかりと怯えてしまったようだなサタナ! それも無理はない。貴様のレベルはたかが70。対する俺はこの秘奥義により120になっているのだからな!』
「うんうん、分かるぞケルベロスよ。そんなにも強くなってさぞかし嬉しいのだろう。遠慮することはない、全身全霊を以って潰しに来い。ともに踊ろうではないかっ!!」
『ほざけェッ!!』
ゴゴガガガッ!!
ケルべズスは両腕をハンマーのように振り下ろした。神速を誇るスピードから繰り出される鉄槌は地盤を砕き、舞い散る破片は散弾のようにサタナに襲い掛かる。
『逃がすかッ!』
ギリギリのところで避けたサタナだが、その身体は身動きの取れない空中にあった。ケルべズスの繰り出した音速超えの右ストレートは、サタナの全身を確実に捉えた。
ミシミシッ!
「――ッ!!」
ヒュンッ、ドゴォオオンッ!!
あまりの威力に風切り音を立てながら吹き飛ぶサタナ。
ケルべズスはそれでもなお追撃の手を緩めない。
『ヒャヤッハァ!!』
ズシィィイイン!!
壁面にめり込んだサタナに、ケルべズスの巨大な足が容赦なく振り下ろされた。
さらには。
ズドドドドドドドドッ!!
連打に次ぐ連打!
圧倒的な速度で繰り出されるパンチは凄まじく、残像によって、その巨腕の数は百を超えるかに感じられる程だった。
『まだまだぁ! このまま粉微塵にしてくれるわッ!!』
ドゴゴゴゴゴゴゴッ!!
壁面への衝撃を通じ、蜘蛛の巣状の亀裂は地面へと、天井へと伸びていった。いつ何時このフロアが崩壊してもおかしくはない。それほどの攻撃をケルべズスは休むことなく繰り出し続けていたのだ。
『ヒャッハァァアア!!』
一方的な蹂躙。
圧倒的な暴力。
全能的な快感。
ケルべズスの体内から溢れ出るアドレナリンは。
しかしながら、たった一筋の赤光によって分泌を停止しする。背筋がゾクッ! と泡立ち、ケルべズスは反射的に後方へと飛び退いた。
(な、なんだ今の殺気は!)
まさか、生きているとでもいうのか?
あれ程までの攻撃を受けてなお死んでいないとでも!? そんなバカな!!
『へ、へへ。ちょっと張り切りすぎちまったかな。ここいらでちょっと休憩を――』
現実からの逃避。
だが、それを許すほどサタナという存在は生温くはない。
ドガシャァアンッ! と瓦礫が吹き飛び。
砕け散った破片の隙間から、その者は姿を現した。
「ふふっ、中々にいい攻撃だった。本当に成長したのだな、ケルベロス」
慈愛に満ちた優しい笑顔。
それを携えながら、彼女の赤眼はすっと、ケルべズスを見据えていた。
『そんなバカな! レベルの差は50も開いている!! 70の貴様に対して俺のレベルは120だぞ!? それなのになぜ死なないんだ!!』
「そんな簡単なことも分からぬのか、愚か者が」
特別に教えてやる。
言いながら、サタナは乱れた青髪を手で梳いた。
「妾が魔王だからだ。生まれついての王。生まれついての頂点。故に、格下の手で死ぬことは決してない。ただそれだけのことよ」
『格下……だとォ? バカも休み休み言え!!』
ケルべズスは激高しながら突進した。
殺意満載のタックルは、しかし軽やかに避けられる。
『俺のレベルは120! 貴様のレベルは70! つまり俺の方が格上でお前の方が格下、火を見るよりも明らかだろうがよォッ!!』
サタナは「やれやれ」と溜息混じりに眉を顰めた。心底呆れ、げんなりしたという様子である。
「お主は本当に馬鹿だなあ。なぜ勘違いしてしまったのだ?」
『何をだッ!!』
「簡単なことじゃ。妾はこう問うているのだ。”何故限界突破が自分にしか使えないと勘違いしてしまったのか?”とな」
『……え?』
「お主に出来ることを妾が出来ぬわけがなかろうが」
『……え?』
「うふっ、喜ぶとよいぞ! お主は妾を楽しませてくれた。かつての仲もあるし特別に見せてやるとしよう。妾の真の力をな」
『ま、まさか……。う、嘘だ。嘘に決まってる! 限界突破は俺が編み出した――』
「痴れ者が。お主が編み出す遥か以前から妾が習得しておるわ」
『そんな、そん……』
限界突破!!
サタナは、限界突破の発動を嫌う。何故なら、それを発動してしまっては勝負にならないからだ。
バトルとはダンス。実力の近しい者同士でなければ一方的なものとなりつまらなくなる。それがサタナの持論であった。
「ところでお主、二倍程度で喜んでいたが……」
サタナの限界突破は通常のそれを遥かに凌駕する。レインが己のスキルを鍛え上げたように、サタナもまた限界突破を鍛え上げていたのだ。
結果、彼女のレベルは――。
「妾は自身のレベルを十倍まで底上げすることが出来るのだぞ? まだまだ精進が足りないな。来世で修行し直してくるとよい」
サタナ・エイリーン Ver限界突破。
そのレベル、700!!
『レベル700……だと。はっ、はは、うわはははははははははは!!』
ひとしきり笑い終えた後、ケルべズスは逆ギレした。
あまりにも理不尽な現実に絶望したのかもしれない。
『この化け物がああああああああああッッ!!!!!』
絶叫するケルべズスをよそに。
サタナは花のような笑顔で宣言した。
「さあ、蹂躙を始めよう」
『ヒッ、ヒェアアアアアッ!!』
必死の形相で逃げ出すケルべズス。
襲い掛かるは、無限にも見紛う程の無数の氷刃。
逃げ場など、どこにもあるはずはなかった。
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