第十八話 解放VS限界突破
『異様な圧が解き放たれているとは思ったが。お前が発端か、小僧』
「ああそうだ。ところでいきなりなんだが一つ質問良いか?」
『質問だと? フン。相手にものを尋ねる人間の態度がそれか?』
ケルべズスは俺のカラドボルグへと視線を落とした。
「ああ、すまない。少し物騒だったな」
俺はカラドボルグを鞘へと納め、再度同じ言葉を口にした。
『それで? 質問とはなんだ』
俺はここに来た目的である古代魔法について尋ねた。分かっていることはたった一つ、その名前だけ。封印を解く古の魔法・リェーイス。
「何か心当たりはないか? どうしてもその古代魔法の力が必要なんだよ。見てみろよ、この大剣を」
言いながら、俺はカラドボルグを鞘から引き抜いた。
『なんだそれは』
「これは退魔の聖剣・カラドボルグだ。この聖剣の中には女神・ヴィーナが眠っているらしいんだ。俺はそいつを解放してやりたくてな。それで古代魔法の手がかりを求めてここまで遠路はるばるやってきたってワケなんだ」
『なるほど。だが俺はそのような魔法は知らん。カラドボルグだのヴィーナだのにも興味がない。だが小僧! お前だけは別だ』
「なに?」
『お前のスキル……素晴らしいパワーを秘めているな。並大抵のモンスターなら命すら脅かされるだろう。お前のような強者と出会える幸福を再び噛みしめられるとは。きっとこれも運命というヤツなのだろう。お前もそうは思わないか?』
「いや、思わないが」
『フハッ! そう釣れぬことを言うでない。ここ数千年近く、この場に訪れる人間など存在しなかった。俺はこう見えて感極まっているのだよ』
「なるほど。飼い主が飼い主ならペットもペットというわけか」
俺の言葉に、ケルべズスがピクリと反応した。
『飼い主、だと? 小僧、お前まさかサタナのことを知っているのか?』
「婚儀を執り行う仲……らしいぞ」
あくまでもサタナ曰く、だが。
『婚儀だと? あのサタナと小僧が?』
「勘違いしないでくれ。俺は――」
言いかけたところでケルべズスが哄笑を上げた。
大腕を何度も振り下ろしながら、目尻には涙まで浮かべて。
『これはいい! あの女には随分な目に遭わされたものだからな。気が変わった。小僧、お前にはここで死んでもらうぞ』
「はぁ」
『お前の生首をヤツの前に晒してやるのだ。あの女がどんな顔をするか……。クハハハ! こんなにも愉快な気分は久方ぶりだッ!!』
ブオォッ!!
ケルべズスの三本の爪が空気を切り裂く。俺はカラドボルグを盾代わりに衝撃波から身を守った。
ガキィンッ!!
『ほう、今の一撃を防ぐか。中々の強者らしいな』
「お前の攻撃が貧弱すぎるだけじゃないのか?」
『フハッ! その生意気加減、嫌いではないぞ!』
今度はなんだ? そう思っていると、ケルべズスの口の中から赤い光が漏れ始めたではないか。赤光はフロア一帯を煌々と照らした。
『喰らえ、ライジングブレス!!』
ズォオオオ!!
「下らん」
俺はカラドボルグを思い切り振り抜いた。それによって生じた風圧は、ケルべズスのライジングブレスをいとも容易く消滅させた。
『なにっ!?』
ヤツが驚いた一瞬の隙を俺は逃さない。瞬時に背後へと移動し、巨大な双翼を微塵の容赦もなく切断した。
ズシャァ!!
『グガァアッ!?』
ぼだぼだ……。
ケルべズスの双翼は切断され、紫色の液体が大量に噴出した。
「三匹同時じゃないと殺せはしない。だが、ダメージを与えられないというワケでもない。そうだろう?」
『お、おのれ……許さん!!』
ケルべズスは再度ライジングブレスの構えを取った。だが、一度視た攻撃を撃たせるほど俺はお人好しではない。
「ふん!!」
ケルべズスがライジングブレスを放つという瞬間に、俺はその脳天に思い切りカラドボルグを叩き下ろした。
ヤツの口はカラドボルグと地面とに挟まれ強引に閉じられる。結果、ライジングブレスはその体内で激しく爆発したのだった。
『ギャァアアアアアアアアッ!!』
「まるで相手にならないな。どうやらお前は俺に興味があったらしいが、サタナとやりあった俺から言わせれば――お前には少しも興味が湧かないよ」
ケルべズスはぐぐぐ、と立ち上がった。フー、フーと息を荒げ、険しい眼光で俺を睨みつけてくる。
『力を抑えていれば調子に乗りおってからに……、ぐふッ!』
「そんな有り様で凄まれてもな。もしも本当に力を隠しているならとっとと本気を出せ。出し惜しんでいる間に殺されても知らないぞ?」
『ク、クク。グワァ―ハッハッハ!! よかろう! この俺の本気を拝めるのはお前が初めてだ! あのサタナにすら隠していた秘奥義中の秘奥義なのだからな!!」
秘奥義・限界突破!!
『限界突破は俺が編み出した究極の奥義だ。元々のレベルは60しかないが、この奥義を発動した俺のレベルは二倍にまで跳ね上がる!!』
「60の二倍、つまりは120か」
『ククク、今さら後悔しても無駄だぞ。こうなった以上俺を止められる者はこの世に存在しない。何故ならあのサタナですらレベルは70なのだから! 貴様もせいぜい90がいいところだろう? 30ものレベルの差を覆せるかな?』
「それは難しいかもしれない」
『だろうなあ。だがそれも当然! 魔王共も馬鹿なものよ。この俺の真の実力を測りかね格下であると思い込んでいたのだから!!』
「は? 格下なのは事実だろう?」
『なんだと?』
「お前は一介のモンスターに過ぎないが、サタナは生まれながらの王。この時点で格付けは完了しているが?」
『……貴様、恐怖で頭がおかしくなったのか? 今の俺のレベルは120! サタナのレベルを50も上回っているのだぞッ!! つまりは、この俺が格上なのだぁあああッ!!!』
ケルべズスは文字通りの猪突猛進を繰り出した。今、奴と俺のレベルの差は30。普通に考えれば勝機はない。――普通に考えればな。
「カラドボルグッ!!」
俺が叫ぶと同時に、彼女が「はぁーい」と応じた。
「お前の力を借りる時が来たようだ。頼めるか?」
「当たり前じゃない! レイン様は我の解放者様なんだからっ!」
「とりあえずは5%ってところかな」
「えー? 3%でいいと思うんですケドォ」
「念の為だよ」
「まっ、レイン様が言うなら私は従うだけよ!」
カラドボルグ――ヴィーナは力を解放した。選ばれた人間のみが扱う事の出来る女神の力。
黄金の光が俺の全身を包み、果てしないほどの万能感が全身を駆け巡るのが理解できた。魔力が漲り、そして迸る。溢れ出るオーラは稲光のように弾け散り、フロア全体をゴゴゴゴゴ、と揺らしていた。
カラドボルグ 開放・5%!!
「くっ……。5%でこれ程のエネルギーか!」
少し油断すればエネルギーが暴発してしまいそうだが、気を引き締めていればなんとか扱うことが出来る感じだな。俺は突進してきたケルべズスに右手を差し向け、軽く振り払う動作をした。――途端。
キィイン!! ズシャアッ!
『ぐ…………ヌゥ……」
ケルべズスは上半身と下半身とで両断された。軽く手を振り払っただけでこの有り様。
カラドボルグ、恐るべし!
「どうせ再生するんだろうが、何度やっても無駄だ。30レベル程度ならカラドボルグの力5%で覆る」
『チ、チクショウ……』
呻きながらも再生を始めるケルべズス。
俺はまず、ヤツの心を圧し折ることにした。
「他の個体が生きていれば死なない――否、死ねないんだろう? 災難なことだ。これからお前は死を望むことになるのだから」
カラドボルグを片手にケルべズスへと詰め寄る俺。
ミシミシ、という不穏な音が聞こえてきたのはその時だった。
「なんだ!?」
俺は音のした方向――上空を仰ぎ見た。
と同時に、天井は爆発的な勢いで崩壊したのであった。
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