第十五話 いざ【古代神殿】へ
そんな俺をよそに、サタナはなにやら「ん~」と唸っていた。何を考えているのだろう? と思っていると、サタナはおもむろに立ち上がり、煌びやかな笑顔でこう言った。
「人間よ!」
「はい?」
「お主は受付嬢をやっているのだったな?」
「ええ、その通りですが。それがどうかしましたか?」
「ふふ、ふふふ。喜ぶがいい、ヴィーナよ。妾は素晴らしいことを考え付いてしまったぞ!」
「え、なになに? 一体どんな名案を思い付いちゃったワケ!?」
「つまりじゃな、この人間にそれっぽいダンジョンを探させればよいのだ!」
「はあ?」
メアリさんがこんな反応を示すのも無理はない。それっぽいダンジョンと言われてもまるで意味が分からないからな。そんな俺たちの心情を察したかのような面持ちでサタナは続けた。
「ダンジョンには様々なお宝が眠っておる。例えばそれは、失われた歴史の1ページだったりもする。つまり、【古代の】とか【古の】とか【退廃せし】とか、そんな感じの古臭い言葉で命名されたダンジョンを片っ端から攻略していけばよいのじゃ!!」
「随分と滅茶苦茶なことを言いますね、貴女は」
「ふふ、人間程度には到底理解できぬ領域よな。まあ無理もない。妾が偉大過ぎるのが悪いのだから」
「あまり調子に乗るんじゃないわよっ! ……でも、アンタにしてはそこそこな案を出してきたじゃない。特別に褒めてあげるわ、泣いて感謝しなさい」
「誰が泣くか、戯けが」
「よし分かった、一旦落ち着こう。サタナの言い分はよく分かった。確かに現状の情報の少なさを鑑みると、草の根運動も悪手とは言い難いだろう。とはいえ、その方法は負担が大きすぎるのもまた事実」
その通りです、とメアリさんが頷いた。
「【古代の】だの【古の】だの、そんな名前のダンジョンは山のようにありますからね。その全てを一から十まで踏破するのは不可能です」
「む、むう……」
「そんなぁ~」
落ち込むサタナとカラドボルグに、俺は代替案を出した。
「代わりにだ。期間を設けよう。例えばそうだな、三日くらいがいいかな? その間はサタナの考えた案を実行する。それで成果が出なければ別の作戦を考えよう」
二人を最低限納得させつつ、かつメアリさんの負担をなるべく減らすための折衷案だ。
「さすがレイン様! 解放者様は頭のデキが違いますね!」
「ふふ、妾が惚れただけのことはある。流石のリーダーシップじゃ」
俺は溜息とともにお茶を一口啜り。ちらり、と横目でメアリさんを伺った。メアリさんは「やれやれ」とでも言いたげな表情をしていた。
「なるべくそれっぽいダンジョンを見つけ出せるよう努力はします。ですが過度な期待はしないで下さいね? ダンジョンの名称だけでお宝の内容を予測するだなんて無謀な事なんですから。」
カラドボルグのように伝説に記されている代物であれば話は別だが、と俺は心の中で付け加えた。
「なに言ってんのよ。下手な剣撃も数打ちゃ当たるのよっ! 運良く当たりを引ければラッキー! 外れてもレイン様がなんとかしてくれるんだから、大船に乗ったつもりでいないさい!」
ああ、なんという事だ。一瞬で重圧の比率がメアリさんから俺に傾いたではないか。俺は尽力するとは言ったが、必ず封印を解いてやるとは断言していないのだがな。
カラドボルグよ、お前が乗っているのは大船ではなく泥船なのだぞ? 俺は、そう忠告してやりたい気分になった。
☆ ☆ ☆
明けて翌日。
俺たちはメアリさんが作成したリストを元に、SSS難度ダンジョンへと訪れていた。
「このダンジョンは【古代神殿】と呼ばれている場所ですね。推奨レベルは60。クリア者がいないため、我々受付嬢の間では未踏の地とも言われています。三匹のボスモンスターが別々のフロアに生息しているのが攻略難易度を高めているようです」
「なるほどのう。して、ここのボスモンスターはなんというのじゃ?」
サタナは腕を組みながら巨大な神殿を仰ぎ見た。いや、ひょっとしたら逆なのかもしれない。この神殿に見下されているのが俺たちなのかもしれない。ふとそんなふうに感じた。
「ここのボスモンスターはケルべズスというモンスターですね。このモンスターがまた厄介で、三匹同時に倒さなければ復活してしまうのだとか」
メアリさんが言うと、サタナは「お~!」と赤眼を輝かせた。
「なるほどなるほど、合点がいったぞ! 懐かしいのう」
「知り合いなのか?」
俺が聞くと、サタナはふにゃりと力無い笑みを浮かべた。
「妾のペットじゃ。遥か昔の話じゃがな」
「ペットだと!?」
俺はメアリさんと目を見合わせた。
もしかしたらこれはラッキーかもしれない。
「ということは、戦わずに済むかもしれないってことですか?」
「いや、それは無理じゃな」
サタナは即答した。
「そもそもケルべズスはの、ケルベロスという三位一体のモンスターじゃった。そしてお互いの合意の元、従者と眷属という関係性を築いておったのじゃ。じゃが、ある日妾がおやつの時間を忘れてしまい喧嘩になってな。今まで可愛がっていた恩を忘れてきたことにブチギレた妾はヤツの魂を三枚におろしてやったというワケなのじゃ! 妾は今でもあの時のことを許してはおらぬ。相対すれば戦闘は免れんだろうなあ。ま、戦いになるはずもないのだが」
「なるほど」
聞かなきゃよかった。
というか、討伐条件が難化したのってつまりはサタナのせいじゃないか! 俺はがっかりと項垂れる。
「なあに、そう落ち込むこともない。このダンジョン全てを凍らせてしまえば瞬時に終わることじゃろうが」
「それはなりません!」
メアリさんが慌てた様子で静止する。
至極まっとうな反応だ。
「むう? それは何故じゃ?」
「人間には人間のルールがあるのです。ダンジョンというのは我々にとって生活の源! 多くの人間が冒険者として生活し、ダンジョンを攻略することで生計を立てています。しかし貴女の魔法はダンジョンを大きく損壊してしまう! それにお宝だって傷物になってしまうかもしれません。ここに来た目的をもう忘れたんですか!?」
「うう……。そんなに凄まなくてもよいではないか」
「ダメですっ! 貴女はちょっと頭が足りないですからね! こうやってちゃんと教育しないと!」
「だー! 分かった分かった。面倒じゃが、正攻法で行くとするぞ」
「最初からそのつもりでしたよ! というか、中に他の冒険者がいたらどうするつもりだったんですか? いいですか、他の冒険者を巻き添えにした場合には大規模な裁判が開かれ――」
メアリさん、よっぽど機嫌が悪いらしい。まあ無理もない。なんたって今朝早くに臨時休の申請を出し、ギルドの上層部と激しい口論を繰り広げてきたらしいのだから。
せめてボスモンスターのケルベズスがメアリさんのサンドバッグになってくれればいいのだが。
そんなことを考えながら、俺はいがみ合う二人の後をついていった。
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