第十三話 お茶会(?)
第二章開幕です。
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「うふふ、美味しいお茶ですね、レインさん」
「うむ! なんとも美味だな、レインよ」
どうしてこうなった、パート2。
俺は今、メアリさんの誘いでお茶をしていた。そしてその場にはどういう訳だか魔王・サタナの姿もあった。いや本当、どうしてこうなったんだよ。
「ところでレインさん?」
「な、なんだ?」
俺はズズ、とお茶を啜った。角砂糖を幾つか入れていたはずなんだが、おかしいな。甘いんだか苦いんだかまるで分からない。
「なんだ? じゃありません。どうしてこの場に彼女が居るんですか!! 説明してください!!」
彼女、という呼び方はメアリさんなりの配慮である。【魔王】などと呼んだ日にはここら一帯がパニックに陥るし、国のお偉いさんが動き出す大騒ぎになるのは火を見るよりも明らかだからな。
「奇遇だな。俺もそれを知りたいところだったんだ」
「ふざけないで下さいっ! こんなことが公に知れ渡ったらどう責任を取るんですか!? というか、そうならない為の隠蔽工作にどれだけ苦労したと思っているんですか!!」
どう責任を取るのか、と言われてもな。隠蔽工作の苦労は察するに余りあるが、俺の口からは「どうすることもできない」としか言えないのが現実だ。
「まぁまぁ、そんなに気を立てるでない人間よ。ここは一つ、妾が事の顛末を説明してやろうではないか」
かくしてサタナはある事ない事をペラペラと語り始めたのだった。
「……まさか妾のスキルを見抜いたうえで自らのスキルと相殺させるとはな。昔から人間のことは気に入っていたが、今回はもーっと好きになったぞ!」
それに、とサタナは続ける。
「妾はレインと婚儀を執り行おうと誓いを立てた仲だからな!」
「こ、婚儀!?」
「いやちょっと待て」
俺はすかさず否定した。
なんとなく嫌な予感がしたからである。
「それはお前の妄想だ、サタナ。婚儀の件はあくまでもお前の口から出ただけに過ぎず、俺はそれを了承してなどはいないし、当然納得もしていない。そもそもだな、いきなりそんな言葉を投げ掛けられる側の身にもなってみろよ。それに俺たちは初対面、しかも異種族だろうが」
「ははは、照れおってからに、可愛いヤツめ」
ダメだ、まるで話が通じない。
「メアリさん。俺から言えることは一つだけだ」
「はい」
「見ての通り、こいつの頭は少しばかりおかしいらしい」
「……は、ははは。そうみたい、ですね」
眉を八の字に曲げながら、メアリさんはお茶を啜る。
それを見て思い出したかのようにサタナもお茶を啜った。
「ん-、この甘いのはなんというのじゃ?」
「それは角砂糖だよ。甘いのが好きなのか?」
「好きじゃ! 口の中に広がるこの甘味、癖になる! 全部寄越すのじゃ!!」
「わっ、ばか、やめろ! それ以上入れたらお茶がお茶じゃなくなるぞ!!」
「黙れ。甘ければ美味いのじゃ。どうせ人類の叡智……聖書とやらにもそう書いてあるのだろう?」
そんなこと書いてあるはずがないだろう。
人間の叡智をバカにするんじゃない。
「まあいいじゃありませんかレインさん。楽しみ方一つ分からない哀れな方なのだと、そう心に留め置いてあげることもまた優しさというものですよ」
「ほほう? 人間よ。今、妾のことを愚弄したのか?」
「そんなわけないじゃありませんか。貴女ほどの方を怒らせてはどうなるか分かりませんもの。赤子のように癇癪を起こされては困りものですからね」
「殺せ、という三文字をよくもまあそんなに回りくどく言えたものだな。その何の役にも立たないであろう無駄な才能には感服の意を表するぞ」
「……ふふ。面白い方ですね、貴女は」
「……ふふ。お主も中々だぞ? 人間」
なんなんだこの空気は。なんでそんな棘のある言い回しを? もっと仲良くできないものなのか?
「ところでレインさん。これからどうするんですか? 彼女を味方につけたということは、全ての魔族を従えたも同義だと思うのですが」
それに関しての話し合いが本題だったはずなのだが随分と回り道をしたな。などと思いつつ、俺は口を開いた。
「そのことなんだが、どうやら事はそんなに単純ではないらしいんだ」
「と言いますと?」
メアリさんが問うと、サタナが得意げに「ふふんっ」と鼻を鳴らした。
「人間よ、少し頭を使ってみてはどうだ? 聞いてばかりが脳ではあるまい」
「黙ってもらえますか? 魔物風情が」
またもや険悪な空気。
いやだから、なんでこうなるんだ?
「二人とも! 何が気に入らないのかは分からないが、今は矛を収めてくれ。まるで話し合いにならないじゃないか」
俺が言うと二人ともしゅん、と目に見えて落ち込んだ。
「まあいいでしょう。レインさんが言うなら仕方ありません」
「じゃな。レインが言うのであれば致し方なしじゃ」
「よーし、それでいい。で、話の続きだが」
本当ならサタナの口から直接説明した方が手っ取り早いのだが、何故か二人の仲はあまり良くないらしい。ということで、俺は二人の様子を慎重に伺いながら、メアリさんに事情を説明した。
「完全自由主義、ですか」
「そのとーり! 妾は他者を縛ることを嫌い、また、他者に縛られることを嫌っているのじゃ」
というわけで、サタナの配下はほぼ放任状態なのだという。
「誰が誰に何をしようとも妾は一切干渉しない。実力ある者こそが正義にして王! それが妾が治める管轄の掟なのじゃ」
「「……え?」」
今、さらっととんでもないことを言わなかったか?
気のせいだと信じたかったが、メアリさんと目が合ったということはそうでもなさそうだ。
「なあサタナ」
「なんじゃ、レイン? キスでもしたくなったか? 妾はいつでも――」
ドンッ! とメアリさんがテーブルを叩いた。
ぽちゃり、とお茶が零れたのを見て激高しかけたサタナだったが。
「そう怒るんじゃない。とりあえず今だけは俺の為だと思って落ち着いてくれ」
「むう……、仕方ないのう」
もっと仲良くしてくれよ……。
まあいい、そんなことより。
「サタナ、一つだけ答えてくれ。『管轄』というのはどういうことだ?」
「はあ? レインよ、そんなことも分からないのか? 管轄というのは、とある存在が治める範囲のことじゃ」
「いや、そういうことじゃなくてですね」
「んん~? それじゃあどういうことなのじゃ?」
首を傾げるサタナに、俺は単刀直入に疑問を投げ掛けた。
その方が手っ取り早そうだったからな。
「サタナ。もしかしてだが、魔王っていうのは一人じゃないのか?」
しばし沈黙が舞い降りたかと思うと。
やがて、サタナが「ふっ」と噴き出したではないか。
「あはっ! 何を言っておるのじゃレイン! この世界に存在している魔王は全部で四人。それぞれがそれぞれに自分の領域を持っておるのじゃぞ? そんな当たり前のことも知らなかっただなんて、人間とは案外バカなのじゃなあ。 あー、お腹痛い」
衝撃的な事実である。歴史的大発見と言ってもいいかもしれない。つまり、人類が未だに見つけ出せていない未開の地が、この世界には最低でも三つ存在しているということなのだから。
「魔王が四人、だと……」
「ああ、なんということでしょう」
俺とメアリさんは悲観に暮れた。強さ事態は問題ではない。
問題はその性格だ。
こんなのがあと三人もいるのかよ。
マジで勘弁してほしい気分だ。
重苦しい空気が周囲に漂い始めた、その時のことだった。
「ちょっとアンタたち、いつまでイチャイチャしてるつもり? いい加減イライラしてきたんですケド」
どこからともなく声が聞こえてきたのは。
俺とメアリさんは頭上に『?』マークを浮かべていた。だがサタナだけは違った。
「ふふ、そう嫉妬するでない。別に良いではないか。見ての通り妾らは仲良しなのじゃ」
「サタナさん……一体誰と話しているのですか?」
「はあ? 誰とって聞かれてものう。ここには四人しかいないではないか」
「すまないサタナ。その四人目というのは誰なんだ? 俺たちにはまるで姿が見えないんだが」
「はあ? 姿が見えないですって!? どうしてそんなヒドい事を言うの。あなたは……レイン様は解放者様じゃなかったの!? あのグズから我を解放してくれたのはレイン様じゃない!!」
声は、俺の背後から聞こえてきていた。
声を聞いて、俺の頬をツー、と冷や汗が伝った。
「ま、まさか。おいサタナ。まさか、そうなのか?」
「うふふ、本当に面白い奴だなレインよ。そんなすぐそばに置いておきながらずっと気付かずにいたとは。ああ、そんなところも可愛くて愛おしくて……」
ああ、なんということだ。まさかこんなことがあろうとは。
俺は背中に携えた退魔の聖剣を鞘から抜いた。そしてそれに目線を据えながら。
「まさか、お前か?」
「あー! やっと気づいてくれた!! やっぱり格好良いわぁ、我の解放者様!!」
「……」
俺はお茶を一口啜った。
メアリさんも同じくお茶を啜った。
多分二人とも同じことを思ったのだろうな。
(そんなバカなことがあってたまるか!!)
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