第十二話 魔王 サタナ・エイリーン
皆様の応援のお陰で、日間ハイファンタジー部門88位に入ることが出来ました。ありがとうございます!! 皆様のご期待に添えられるよう、そして少しでも楽しんで頂けるよう精進いたしますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!!
中ボスエリアを進み、【玉座の間】へと続く一本道を歩く。道中、相も変わらず廃人と化したヴェンの姿があったが、俺は気に留めることなく先に進んだ。
金縁の装飾が施された両開き式の重厚な門扉。
その奥から、とてつもない圧迫感を感じた。
「この先に、魔王が……」
俺は緊張した面持ちで門扉を開き、大広間へと足を踏み入れた。まるで王室のような空間が眼前に広がり――。その最奥部に、ソレは居た。
「あぁ――。一体どれ程この日を待ち詫びただろうか」
黒色の正装(のような衣装)に身を包んだ青髪の少女が、ゆったりとした仕草で立ち上がる。同時に、膝丈のスカートがふわりと舞った。少女が今しがた座っていたのは玉座、だろうか?
少女の発する声は鈴の音のようだった。
美しい歌声のように、聞く者を癒す効果があるかのように感じられた。
「人間よ、名乗ることを許可しよう」
もの凄い威圧感だ。レベルは俺の方が高い筈なのに。
これが格の違いというものなのだろうか?
「俺の名はレイン。レイン・ロッドだ」
「そうか。ふふ、良い名前だな」
言いながら、少女はカツン……カツン……と靴を鳴らしながら、階段を降りてくる。
「妾の名はサタナ。サタナ・エイリーンじゃ」
ようやく、少女の――魔王・サタナの姿がハッキリと視界に映る。
伏し目がちな赤眼に長いまつ毛、そして透き通るような白い肌。なんとも蠱惑的な見た目だが、そうやって魅了するのも作戦の一つなのかもしれない。
「……」
俺はカラドボルグを構え、キッとサタナを睨みつけた。
「ふふ、そう警戒するでない。妾は少し話がしたいのだ」
「話だと? 人間と魔王が何を話すと言うんだ」
惑わされるな俺。奴のペースに乗ってはならない。
おそらく奴は実力の差に気付いている。だから、こうやって隙を伺っているのだ。
「良いではないか、人間と魔王が話をしても。それを縛る者などどこにもおらぬのだから。いたとしても妾が叩き潰す」
「思考が物騒だな」
「物騒? ふははっ! レインよ、お前は中々に面白いことを言うのだな。自分が今しがた何をしたのか、それを忘れたのか?」
「それは……」
「まあ良い。相応の理由があったのだろう。別に深入りするつもりはないから安心せい」
なん、だこいつは。
話しているとまるで思考に靄がかかるような。
「ふふ、怖いか?」
「なんだと!?」
「妾は生まれながらにしての王。有象無象どもとは格が違うのだ。レベルの差など些事に過ぎぬ。細胞レベルで、遺伝子レベルで……レイン、お前は妾に屈服しているのだよ」
「もういい、御託は十分だ。俺が屈服している、ねぇ。ま、確かにお前と話していると思考が鈍るよ。それは認めよう。だが、これでも同じ口が利けるかな?」
スキル【超威圧】レベル5!!
ズズズズズ……!!
「おっ? お、おお、ぉおおおおおおっ!?」
俺のスキルの効力を直に受けたサタナは――。
「ふふっ」と笑った。
「ふ、ふふっ、うふふふふふふ、ふふふふふははは!!」
「ふうむ、どうやらよっぽど……」
「素晴らしいぞレイン!! 人間の分際でよくぞここまでッ!!」
戦闘狂らしいな、このサタナという魔王は。
「お前の遊びに付き合うつもりはない」
俺はカラドボルグを構え臨戦態勢に入った。
腰は低く、目線はしかとサタナを捉えている。
「うふあっ! そう釣れぬことを言うでないレインよ! きっとこの出会いは奇跡なのだから!!」
「なにが奇跡だ馬鹿らしい」
俺はカラドボルグを振り下ろす。無論、回避されるのは大前提。
二手、三手先を読み攻撃を繰り出していく。
「あふぁっ! まるでダンスのようではないかレインよ!」
「そう思っているのはお前だけだよ!」
通常、相手が剣を持っていれば、警戒するのは刃である。
俺はその固定観念を利用し――。
ドスッ!!
カラドボルグの柄でサタナの右脇腹を殴打した。
「かふっ――!」
サタナは吐血しながらよろめき、二歩、三歩と後退した。手応えは抜群。おそらく肋骨の数本は逝っただろう。だが、顔を上げたサタナの表情は。
「ふふっ」
やはり笑っていた。
「まさかこの私がたった一人の人間に手傷を負わされるとはな。何万年振りだ? えーと、前に封印されたのが千年くらい前じゃろ? で、えーと……」
「よそ見とは随分と余裕じゃないか!!」
シャキィンッ!!
「おっとと。そう殺気立つでない」
いや、普通は殺気立つだろう。
これは魔王討伐クエストなのだから。
「ふふ、この私が流血か。仕方がない。レイン、お前には特別に妾のスキルを見せてやるぞ?」
「――!!」
ついに来るのか、ヤツのあれが!
「しかとその魂に刻むがよい。妾のスキル【属性極化】、その恐ろしさをな!!」
サタナはスキル【属性極化】を発動し、自身の得意属性である氷結の効力を最大限にまで引き上げた。
その状況下で発動される魔王級魔法、オール・ブリザードは【最果ての洞窟】全域を一瞬の内に氷結させる……のみならず!
パキキィイイイイ……!!
時間という概念さえをも凍結させたのであった!
「眼に焼き付けることは叶わぬ故、魂に刻むしかない。この奥義の虚しきところよな」
凍結した時間の中を動けるのはサタナのみ。これにて勝負は決着した。レベルの差などは些事に過ぎぬというサタナの言葉とおり。
レイン・ロッドは魔王――サタナ・エイリーンに敗北したのである!!
「ああ、愛おしい表情をしおるな、レイン」
サタナは優しくレインの頬に触れた。柔らかな指使いで、次は唇を。指の動きは絡めつく茨のようで。
サタナは満足いくまでレインの氷像を愛でようと心に決めた。
――次の瞬間。
バリィインッ!!
「……は?」
サタナは驚きの声を上げた。
何が起きたのか理解できず、思考が停止する。
「短い冬眠だったな。おはよう、サタナ」
挨拶代わりにまずは一発。
俺はガラ空きのサタナの腹部に拳をめり込ませ、全速力でフルスイングした。
「がッ!!!!!」
受け身を取る余裕すらないだろう。
サタナは猛スピードで吹き飛んでいく。
ドゴォオオオオンッ!!
サタナが直撃した階段部分は、まるで爆破魔法を受けたかのように損壊した。しばしの間、砂塵が舞い上がっていたが。
ガシャアンッ!!
「ま、これくらいでダウンするくらいなら魔王は名乗れないよな」
瓦礫片の山の中からサタナが姿を現した。
服はボロボロだし口からは出血している。
だが、それでもなお――。
「がはっ! ……ふ、ふふふ」
サタナは笑っていた!
「レイン。今のはいい一撃だった」
「まだ笑うか。本当にタフな奴だな」
「どうやって妾の時間凍結を打ち破った?」
当然の疑問である。おそらくあの魔法はサタナの奥義。今まで打ち破られたことなどは無かっただろうな。
「冥途の土産に教えてやるよ。俺はそもそも時間凍結を打ち破ってなどはいない。それが答えだ」
「……なんだと?」
「さらに言うならば、お前はそもそも時間を凍結していない」
「そんなバカな話があるか……ぐっ!」
立ち上がったサタナがガクリと膝を突く。自分で思っている以上にダメージが大きいようだ。そんなサタナをよそに、俺は解説を続けた。
「魔法もスキルも同じなんだよ。同等の力がぶつかり合えば、それは相殺するんだ」
「同等の力――まさかっ!」
サタナは合点がいったという様子だ。
俺は生徒を褒める教師のように、満面の笑顔で拍手をした。
「その通り。俺はとある理由があってスキルを鍛えていてな。同等とは言ったが、ハッキリ言うと俺のスキルの力の方が場に干渉する力が強いんだ。相手の力量も分からない内に何故断言できる? そう思うかもしれないけど、これに関しては勝算があった。努力に裏付けされた確信って奴だな」
「ふー、ふー……。なる、ほどな。それで妾のスキルが効力を発揮できず、結果、氷魔法は本来の力を出せなかったというわけか」
「とはいえこれは対等な勝負とは言えないがな。俺たち人間側には先人たちが積み重ねてきた叡智がある。俺たちはそれを聖書と呼んでいるがな。それがなければ、今回のような対策は取れなかっただろう」
「レインよ」
サタナは息を荒げながらも語り掛けてきた。
「それもまた人間の力なのだぞ? なにも恥ずべきことではない。……魔族が悠久なる時を生き永らえることができるように、人間もまた悠久なる時の中で己が意思を紡ぎ、託し――そうして生き永らえてきたのだからな」
サタナはゆらりと立ち上がり、優しげな笑みを携えて、言った。
「この勝負はお前の勝ちだ。誇れ人間よ。お前は単身、魔王を討ち果たしたのだ」
言いながら、サタナがふらふらと近づいて来る。
なんだ……? と思っていると。
――ギュゥ。
「……え?」
いきなり俺はサタナに抱きつかれた。
うむ、まるで思考が追い付かない。
「レインよ。この胸のときめきは……、この胸の高鳴りは……。噂には聞いていた。だが、まさか自らが経験することになろうとはな」
「はい? あの、ちょっと。おーい、サタナさん? ちょ、やめ、ん、んむっ!!」
そしてサタナはあろうことか、キスまでしてきたのであった!
「レインよ。妾はお前に惚れてしまったようだ」
「は?」
「これが好き、という感情なのだな」
サタナは一人満足げに恍惚とした表情を浮かべていた。
余韻にでも浸っているのか? などと思っていると。
「レイン! 妾と婚儀を挙げようではないか!!」
サタナは衝撃的な言葉を俺に告げたのであった。
「……はあ?」
こうなる要素なんてどこにもなかったはずなのだが。
どうしてこうなった?
それが一番に抱いた感想であった。
これにて第一章は終了になります。
ここまで読んで頂きありがとうございました!!
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