第十一話 ヴェンとソラの最期
「とりあえずお前はここで這いつくばっててくれ。まずはヴェンから片付けないとだからな」
俺はスキル【超威圧】のレベルを2に設定し、対象をソラに指定した。ただの勘だが、もしもレベルを3にしていた場合ソラは死ぬかもしれない。だから2に設定した。
「あっ――、あ、ああぁ……」
俺の【超威圧】に直接曝されたソラは身動き一つ取れなくなった。おそらく極限にも近しい恐怖の感情に支配されているのだろう。
「すまないね、ヴェン。あのバカが空気も読まずに逃げ出すものだから。だが安心してくれ。今からじっくりとお前を可愛がってやるからな」
「……も”う、ゆるじで」
「いや、許す訳ないだろ。お前は俺を裏切り殺そうとしたんだぞ? だったら相応の仕返しをされるのが道理だというものだろう。親から教わらなかったか? 自分がされて嫌なことは人にしてはいけませんって。そんな簡単なことすら理解できない低能だから、こうなるんだよ」
ボキンッ!
これで四本目。もう右手は使い物にならないだろうな。ま、最終的には全身の骨を粉々にした挙句にモンスターの餌にしてやるつもりなのだが。
「ほらほら、早く謝らないと取り返しのつかないことになるぞ?」
「あ、ああ、ああああああ! ごべんなッ! ~~~~~ッ!!」
ゴキャッ!
「ギッ! ~~~ッ」
「ふっ、ふはッ! フハハハハッ!! 傑作! 滑稽!! 実に無様だなぁ、ヴェン・ル―ゼン!!」
かつて俺が言われた言葉。
かつて俺が味わった屈辱、そして深い悲しみ。
俺はそれを再現しつつヴェンの拷問を続けた。
やがてヴェンは声を発しなくなった。
どうやらショックで気を失ったらしい。
「はあ、つまらんゴミだな。ゴミならゴミらしく人間様に貢献しろよ」
とはいえ壊れた玩具に用は無い。あとは餌となって死んでもらうだけだ。ならば次はソラ・ルミナスの番である。
俺はソラの方を振り返り、優しく微笑みかけた。
「怖がることは無いんだよ、ソラちゃん。大丈夫。ただ、生まれてこない方が幸せだったんじゃないかって、そう思わせてあげるだけだからさ」
「ひぃっ! や、やめ! こっちに来ないで、お願いっ!!」
「いいや行くね。俄然行くね!」
「いや、いや、いや! 嫌だ、私まだ……死にたくない!!」
俺はその言葉で停止した。
死にたくない、だって?
今、こいつは死にたくないと言ったのか?
俺を殺そうとしたこいつが? その為にアンチスキル剤を調合したこいつが?
「……るな」
「え?」
俺は思いっきり拳を握り、歯を食いしばった。
そして、目頭が熱くなるのを必死にこらえながら声を荒げた。
「ふざけるなっ!! お、俺だって……。俺だって死にたくなかった!! 信じてた。仲間だって――信じていたのに。仲間だって思ってたのに! こんなことッ!!」
俺はガクリとその場に膝を突いた。
ああ、なんだよこれ。
なんでこんな涙なんかが出てくるんだよ。クソ、ふざけやがって。
「俺だってこんなことしたくなかったよ……」
「な……仲直り、しましょうよ。ね? 話し合えばきっと、分かり合えるハズだから。そうでしょう? だって私たちあんなに仲良しだったじゃ――ガぁッ!!」
思わず全力で回し蹴りを喰らわせてしまった。
ソラの頭部は胴体と分かたれ、まるでボールのように飛んでいった。
――グシャッ!!
「……あーあ」
もっと痛い目に遭わせる予定だったんだがな。仕方ない。とりあえずはヴェンを奥の間へと連れて行こう。ここから先には凶暴なモンスターがうじゃうじゃと湧いているからな。
捕食される時、このゴミ虫はどんな顔をしてくれるのだろうかね。
頬が緩むのを実感しつつ、俺はヴェンを引き摺りながら奥の間へと足を踏み入れた。
☆ ☆ ☆
しばらく待機していたのだが、一向に目を覚ます気配のないヴェン。
俺は痺れを切らし、回復薬を使用した。
「う、うう……」
「やあ、おはよう」
「ぐ、う」
ヴェンは起き上がろうとしたが、それは不可能であった。なぜなら両腕両足の骨を圧し折られているからだ。そろそろ痛覚も機能するだろう。
「ぐぁっ! がッ!! なンダ、これは――」
「なんだもなにもない。お前の両腕と両足はもう粉々だ。無駄に動こうとすると苦痛が強まるだけだぞ」
「なあレイン。頼む、俺の話を聞いてくれ。まずは謝る! 本当にすまなかった! こ、この通りだ」
「ははっ、どの通りだよ。笑わせないでくれ」
「ぐうう! 頼む、許してくれ! 俺はただ英雄になりたかっただけなんだ! 英雄になって……それで、バカにしてきた奴らを見返したかったんだよ!!」
「あっそう。で、だから? それって俺に何か関係あるのか?」
俺はヴェンを冷たくあしらい続けた。
するとやがて。
「う、うう、うぅあああ。痛いよお、怖いよお……」
「……は?」
「助けてママぁ。パパぁ。ひぐっ、誰かあ! 助けてえ。僕、まだ死にたくないぃぃ! うぅ、えぐっ! 神様あ、ごめんなさい! もうしませんからあ。いい子にしますからあ……」
流石に限界だった。
俺は腹を抱え、目尻に涙を浮かべながら笑い転げた。
「あははははははっ!! おっ、お前、なんだそれお前!! あはっ! あははっ! あははははは、ふふ、ふふふふ、ははははっ!! ああ痛い、お腹が痛い!! このダメージは!! ハハッ、な、中々だぞ、ヴェン!! ふふふ、あはははは!!」
「ああ~……ママァ……」
あまりにも情けないヴェンの姿を見て、俺は心底満足した。もういい。これ以上この汚物を視界に入れるのは目に毒だ。
「というわけで、お前の人生はここまでだ」
「あ~、ママ~! パパ~!」
どうやら正気を失っているらしい。
ま、自業自得でしかないがな。
「ほうらっ! 餌だぞッ!!」
俺の目の前にはSSSランクモンスター、デス・オークがいる。奴は雑食で、草だろうが肉だろうがモンスターだろうが鉄屑だろうがなんでも口にすることで有名だ。別名、暴食の狂人。
『グオ? グオオ?』
多分「え? これ食っていいの?」とでも言っているのだろう。
俺はうんうんと頷きながら「どうぞ」と微笑んだ。
『グオオ! グオオオオオオオオッッ!!! グオ―――――――ッ!!』
デス・オークが嬉しそうで何よりだ。
対照的に、ヴェンは絶望の表情で俺を見つめているが。
「やだ! やだっ!! 食べられるのだけは嫌だ!! 頼む、せめてお前の手で! お前の剣で救済してくれ!! あっ、ああ、嫌だッ! ママァ~~~~~ッ!!」
グシャッ! バキボキ! ゴリゴリッ!
ゴチャ、グチャッグチャッ……。
――ゴクン。
「……終わった、か」
思ったよりも呆気ない復讐劇ではあったが。
なにはともあれ、これにて一件落着だ。
ここから先は【玉座の間】へと続く一本道。
スキル【超威圧】を発動すれば数秒で到達できるだろう。
だが――。
「まずは中ボスエリアに戻らなくては」
俺はくるりと踵を返し来た道を戻った。
そして中ボスエリアにて、目当ての物を回収した。
「これが退魔の聖剣・カラドボルグか」
一握りで理解した。
もしもこの聖剣の真価をヴェンが引き出せていたならば。
俺は間違いなく敗北していただろうと。
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