まだプロローグ
ひっそりと執筆されていく恋の話。BLです。
「よっすー。お、新太新作書いてるの?」
「ん、そう」
幼馴染の新太の部屋へ遊びに行くと、パソコンに向かってカタカタと打ち込む姿。
新太は物書きだ。といっても、プロではなく小説サイトに個人的にあげているものだけど。
「前のも人気出てたな、ランキング上がってたよ」
「へえ、そうなの」
「見てないんかい」
自分のことに無頓着だなあ。本人に言わせれば、読んでもらうために書いてるわけじゃないとのこと。
文才はあるんだろうけど、難もある気はする。
それは作品にもよく反映されている。
「新太の作品は大抵最後みんな死ぬよね」
そう、新太の書く話は癖が強い。
途中まではどんなに良い話でも絶対に最後死ぬ。もはやテンプレ。
ある意味落ちがネタバレなのに人気があるのは、やっぱり才能なのかな。
特異なファンが多いだけ、な気がしないでもないけど。
「たまにはハッピーエンド書こ」
「バッドエンドしか書いてないわけじゃないよ」
「でも死ぬじゃん」
「物語を終わらせるのは殺すに限る」
「なんてひどい親だ…」
そう言いながらもカタカタと手は止まらない。
しばらく手元を覗きこんでいたが、飽きて新太のベッドに寝転がりながらその横顔を見る。
引きこもりがちなせいで色白で、線が細くて、瞳の色素も薄い。
全体的に霞がかるような、不思議な雰囲気がある。
思わずスマホで写真を撮った。
「何撮ってんの」
「やーだってきれいだなあと思って」
「寝ぼけてんでしょカナくん」
新太が手を止めて立ち上がると、ベッドに腰掛けて俺のスマホを取り上げる。
俺は特に抵抗もしないで、そのまま空になった手で新太の頭を撫でた。
「冗談抜きで、昔から美人だよ」
子供のときから思ってたことだ。
「うらやましいなあ」
なんて、とふざけて笑うときにはすっかり眠気がそばにいて。
撫でていた手を投げ出して、そのまま目を閉じた。
「…しらないとおもうけど。昔から綺麗なのは、カナくんだよ」
そう呟いて、眠るカナくんの手を取る。
骨っぽい手。愛しくて手のひらに口付けて、そのまま頬擦りする。
ああ、だいすき。
きっとカナくんは知らない。
カナくんがきれいだって褒める俺が、日常的に君に欲情してること。
どうにかしてしまいたいほど、君を好きなこと。
ふと寝顔を見る。髪の隙間から見える耳にはまだ開けたばかりのピアスホール。
「可愛いなあ。すーぐいいなりになっちゃって」
本人は気付いてないけど、カナくんは俺の言うことをすぐに聞いてしまう。
ピアス似合いそう、と何気なく言った翌日には穴あけてた。
貫通したばかりの痛々しい耳とは裏腹に、似合う?と笑って尋ねられてむらっとした。
俺が選んだピアスだけつけてもらおう。絶対。
たぶんその独占欲も叶う。不思議なほどの従属感。
手に頬を寄せたまま親指の付け根を軽く食む。
「まーた悪戯してんの」
声が聞こえて一気に気分が沈む。邪魔するなよ、もう。
ドアへ視線を向けると、兄の千弘が覗いていた。
「勝手に覗かないでって言ってんでしょ変態」
「新太に言われたくないよねえ、お前のがよほど変態じゃん…寝てる幼馴染にやらしいことして」
「カナくんは俺のだからいいの」
「すんごい自信」
引くわあ、と笑ってずかずかと部屋に入ってくる千弘。
入ってくんな、と睨むけどあまり効果はない。こいつは空気が読めない。
「よく寝てるなあ花奏。狼の前ですやすやと」
「うるさいなあ、見んなよ減るから」
あっち行って、と手をひらひらさせて睨む。
ハイハイと部屋を出て行くも、わざと大きな音を立ててドアを閉めやがった。
小さな声を漏らしてカナくんが目を開ける。気づかれる前に手を離した。
「…やっべ、寝てた…」
「寝ててもいいよ、俺まだ書くし」
「んんーいや、起きる起きる。様子見に来ただけだし、買い物頼まれてんだ」
新太もなんかいる?と尋ねられて、飲むヨーグルトとだけ頼んだ。
外から二階に向けて手を振るカナくんに手を振り返して、ため息。
「まだ早い、もうちょっと」
焦らず、ゆっくりと。まだプロローグでしかない。
この情欲を抑えるために、また執筆へと意識を向けた。
花奏新太より年上
新太花奏より年下
千弘花奏より年上
すんごいさっくりしか設定付けてないので、そのうち肉付けていきます。