『大きなカブ』を異世界リメイクしたら何だかカオスになった
元々連載作品、『レムさん家』に1エピソードとして仕上げたものを短編にしてみました。
根本設定が『レムさん家』なのでキャラもそっちの登場人物ですが何となく短編で出そうと思いました。
とある異世界での物語。
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その日、ボクは3人の娘に物語を聞かせてあげようと思い立った。
ボクの夫は異世界人。
異世界の昔話を色々知っている。
「はい、みんなおいでー。お話を聞かせてあげるね」
ボクの呼びかけに娘達がわーっと駆け寄ってきて敷物の上に座り込む。
夫に教えてもらったあっちの世界の昔話を、うろ覚えだけど語ってあげようと思う。
「今日のお話はね、『大きなカブ』だよ」
「ねぇ、リズママ……カブって何?」
長女ケイトが首を傾げる。
あー、そうか。
カブという野菜はこの世界には無い。
この子達に通じる様に細部はアレンジしないといけないよね。
「えーとね、ラプラムだよ。ラディヴァナに似た野菜で丸っこい形をしているの」
ちなみにラディヴァナは夫の世界では『ダイコン』と呼ばれているらしい。
「あ、スープに入っているヤツだよね、おかーさん。ボク、あれ大好き!」
ラプラムは三女でありボクの娘であるアリスの好物だ。
「そうそう、それだよ!」
ラプラムは結婚前に住んでいた街周辺でもよく採れていたのでなじみが深い。
ボクは店で見つけると良く買ってきてスープに入れてあげている。
葉っぱもすりつぶして一緒に煮込むと身体がポカポカするので我が家では冬の定番野菜だ。
「というわけでタイトル変更、大きなラプラム。ある朝、おじいさんが畑に行くとそれは大きなラプラムが生えていました」
「リズママ、それってまさかモンスター!?」
「ケイト、君はモンスター説から離れた方がいいよ。何か不思議な事があると何でもモンスターのせいにしたがるね?」
「おかーさん、大きいってどれくらい大きいの?」
「うーん……そうだね、お母さんとお父さんを合わせたより大きいかな」
「やっぱりモンスターじゃない!そもそも不思議なのは前日に気づかなかったのに一晩で大きくなったという事実よ。何かしらの魔法がかけられたかもしれないわ」
「ケイト、そういうものと思って話を聞かないと……」
逆に次女のリリィは冷静過ぎる気がする……
「おじいさんはラプラムを抜こうとしますが抜けません。そこでおばあさんを呼んできました。それでもラプラムは抜けません。そこでおばあさんは孫娘を呼んできました」
「ちょっと待って!何で明らかに自分より力が劣っている人ばかり呼んで来るの?そんなのいくら集まっても抜けるわけがないじゃない!!」
リリィのツッコミももっともな話だと思う。
この先もうろ覚えだけど小動物とかを呼ぶからなぁ……そうだ、ボクなりに改変しちゃおう。
「孫娘はペットのベヒーモスを呼んできました」
「ちょっと待って!孫娘は何者なの!?」
ケイトが大声を上げる。
やっぱりベヒーモスがペットというのはやりすぎたか……
「ベヒーモスが力任せにラプラムを攻撃しますがビクともしません」
「ねぇ、そのラプラムってマジで何なの?」
リリィの額に汗が浮かぶ。
「えっとね……多分、アダマンタイト製かな?」
いや、自分で言っておいてだけどアダマンタイト製のラプラムって何さ。
とりあえずベヒーモスは流石にやりすぎだからもう少し非力そうなのを呼ぼう。
「ラプラムはまだ抜けません。そこでベヒーモスはリッチーを呼んできました」
「おかーさん、リッチー呼ぶとかこの家族変だよー?」
うん、ボクも思った。
何でリッチーなんてくっそ恐ろしい奴を呼ぶんだよ。
そもそも何でボクはこいつをチョイスしたのさ!
「これはおじいさんとおばあさん自体もただものではない事が予想できるわね」
「ええ、リリィ。恐らく魔人の類よ。何よりそれでも抜けないラプラムが只ものではないわ」
何か話がどんどん変な方向に行ってるなぁ。
そろそろラプラムには抜けてもらおう。
あ、そう言えば何かみんなで力を合わせて引っ張る時にお父さんは何か掛け声を言っていたっけ。
何だったかなぁ……
「ええと、おじいさんとおばあさんと孫娘とベヒーモスとリッチーは力を合わせてラプラムを引きます……どんぶらこっこ、どんぶらこっこ」
「ちょっと待って、何か聞いた事があるわ、何だっけ、リリィ!?」
「そ、そうね。そのリズムどこかで……」
「ももたろーだ」
あ、そうだ。
桃太郎の桃が流れてくる時の効果音じゃんこれ!
「というかここで何故非力なリッチーがラプラムを引き抜こうとしてるのかしら?ケイト、私からすればこのリッチーは自分の適性がわかっていない気がするわ」
「そうね、リリィ。きっと頭が悪いのね」
あー、もう収集がつかなくなってきた。
こうなったらやけくそだ!!
「どんぶらこっこどんぶらこっこ!ようやくラプラムは抜けました。おしまい!!」
「「「最後ぶん投げたー!!」」」
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その夜、ボクは夫に小さくつぶやいた。
「子どもに昔話を聞かせるって難しいね……」
「あ、何となくわかってくれた?」
次は、次こそは上手くおはなししてやる!!