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この手をつかみたくて3  作者: えみっち
15/28

15

「美鈴…」


聞き覚えのある声が横で聞こえた。

目元をそっと触れていく感触に薄っすらと目を開けた。

陸が見えた。陸が自分の事を見つめている。


「リク…」


自分の事を見ていた陸の顔が歪み視線が下がる。


「ごめん。ごめんな…美鈴。

俺のせいでこんな事になってしまって…」


陸の頰に涙が伝う。

相模が言った言葉が聞こえてくる。陸は自分を責めている。

美鈴は手を伸ばすと陸の頰に触れる。


「私さっきまで夢を見ていたんだ。

朗が出てきていろいろな話をしたんだ。陸の事も話したよ」


陸は涙を拭うと美鈴を見た。


「俺の事?」

「うん。あとね…」


言葉を止めると陸の顔を見た。目の下にはクマが出来ており口元には痛々しい青アザがある。


「お腹の子は、朗が連れて行ってくれたんだ。生まれ変わってまた会えるって」


陸の顔は再び歪み頭をたれた。目元には涙が滲んでいた。


「だからそんな顔しないで。私も赤ちゃんも大丈夫だよ。泣いてたら心配して生まれ変われないよ」


美鈴の瞳も涙でにじむ。


「うん…」


陸の返事に美鈴は微笑んだ。

今こんな気持ちで陸に言葉をかけられるのは相模のお陰だった。


陸は落ち着くと美鈴が眠っていた間のことを話してくれた。


「2日間も眠ったままだったから皆んな心配してたんだ。夜理も高坂さんも何度も来てくれてたから後で連絡しとくよ」

「ありがとう。お願いします」


陸は頷くとベットの上にあるボタンを取った。


「ナースコール押すよ。診てもらわないと」


美鈴も頷いた。

インターフォン越しに看護師との会話を終えた陸を見ながら美鈴はポツリと言った。


「陸が無事でよかった」


自分の事を見ている美鈴に陸の顔は徐々に赤くなる。


「当たり前だろう。死ぬかよ」


美鈴は頷く。陸は赤い顔のままそっぽを向いてしまった。

本当によかった。大丈夫。私は頑張れるよ。




「兼松もやっと退院だな」


美鈴は裕助と居酒屋で飲みながら高野海人の近況を聞いていた。


退院してから仕事も始め2ヶ月が経っていた。

陸ともあれから何度か会ったが美鈴が聞かない限り海人の話はしないし、兼松の事も組の事も話さなかった。


「襲ってきた組も捜し出し潰したらしい」


美鈴は頷いただけで前にあるグラスに触れる。


「分かっているとは思うが海人にはこれ以上関わりを持たない方がいい」


裕助の言葉に美鈴は複雑な顔をしてため息をついた。


「私は持っていないんだけど…」


裕助は美鈴のため息の理由をすぐに察した。


「夜理か」


美鈴は頷いた。


「まったく先輩似だな。危ない男に惹かれるなんてなあ」


裕助の言葉に何も言い返せない。


「海人さんの方もあんな事があった後だし拒んではいたみたいなんだけど、夜理ちゃんのあまりの熱心さに負けてしまったみたいなんだよね。で、お付き合いしているらしい」


裕助は苦笑いした。

美鈴は再びため息をついたが鞄の中で鳴り出した携帯に気がついて慌ててとる。


「お疲れ様。うんうん、今裕助と外で飲んでいるんだ」

「陸か?」


会話を聞きながらたずねる裕助に美鈴は頷く。


「暇なら来いって言ったらどうだ?」


裕助の声が聞こえたのか陸は美鈴がたずねる前に返事をする。


『行ってもいいなら行く 』


美鈴は笑いながら場所を告げた。

携帯を机の上に置きながら美鈴は裕助の顔を見た。


「陸変わったよね。なんか以前に比べて落ち着いてきた?」


裕助は笑う。


「大人になろうとしているんだろう」

「19歳でもう大人か…」


美鈴は思い出を紐解く。


「私はまだwIにいた頃か。まだ未来が見えなくて無茶していたかな」

「そうだな。あの頃は面倒事ばかりで大変だった」

「本当に裕助には面倒ばかりかけていたけど、私W Iに入って良かったと思う」

「あんなに悩んで傷だらけになった場所にか?」


苦笑いになったが美鈴は頷いた。


「悪い思い出も確かにあるけど、あそこは皆んなに会えた大切な場所だからね。

裕助にも怜にも翔にも竜にも夜理ちゃんにもあそこで会った。博士もずっと見守ってくれていた。私にとって皆んな大切な家族みたいな人たちだから…」


黙って聞いていた裕助は笑う。


「お節介な兄貴達がたくさんで大変だな。そして目が離せない妹分もいるしな」


美鈴は笑ってしまった。

裕助が言うように悩んで苦しんでいた頃の事を笑えるだけの時間が経ったのだった。




「珍しいな。美鈴がこんなになるまで飲むなんて」


ヨレヨレと少々蛇行しながら歩く美鈴の横にいる陸は言った。

あの後、陸が来てから一緒に飲んでいたのだがついつい2人のペースにつられて美鈴もいつも以上に飲んでしまったのだ。


「いやいや、そこまでは飲んでいないしこんなにもなってません」


訳の分からない事を言っている美鈴の腕を掴むと足を止めさせた。後ろから走ってきた車をやり過ごすと陸はため息をついた。


「酔っ払いのオヤジみたいなこと言ってるし」

「失礼だな陸。ちょっと気持ちはハイかもしれないけれど『酔っ払いオヤジ』じゃないし。あと、明日仕事でしょ。1人で帰れるし大丈夫だよ」


元気よく歩き出す美鈴を追いながら陸は文句を言った。


「放置したらそれこそ大変だろう。車だって飛び出してきた酔っ払いひいたなんていい迷惑だよ。それに明日は仕事、両方とも休みだから別にかまわないし」


陸の言葉を聞いて時計を見た美鈴は振り返った。


「それじゃあますます駄目だよ。もう1時になるから帰って寝な。明日を有意義に使わないと!」

「ほんと何言ってんだかな。こんな所で帰るぐらいなら最初から送るなんて言わないよ。それにマンションすぐじゃん」


確かに美鈴が住むマンションはもう見えていた。

入り口に着くと陸は美鈴の方を向くと手を出した。


「キー貸して」


美鈴の手からキーケースを取ると慣れた手つきでエントランスの鍵を開ける。入り口に立ったままでいた美鈴の手を引っ張ると中に入りエレベーターのボタンを押す。すぐに扉が開き陸が先に入り美鈴を見た。


「ここまでで大丈夫だよ」

「大丈夫じゃないよ。それより早く乗りな」


仕方なく美鈴も乗る。陸はボタンを押すと壁に寄りかかった。


「たぶんその調子だと後で吐くよ」

「そうだとしても自分の面倒くらいみれるし」


美鈴の言葉を聞いているのかいないのか開いたドアからさっさと出て行く。後からついて行く美鈴が追いついた時には部屋の鍵を開けて待っている所だった。


「ちょっと入るよ」


美鈴が玄関の中に入ってから陸は靴を脱ぐと、廊下の電気を点けてからリビングへと行く。キッチンへ入ると氷水を作ってカウンターの上に置いた。


「水分とってアルコールを中和させといた方がいいよ」


それからリビングのカーテンを閉めたりとテキパキと動き回っていたが全てが終わったらしく美鈴の方へ歩いてくると言った。


「んじゃあ俺帰るから、鍵しときなよ」


美鈴が返事をする前に陸は玄関へと歩いて行く。


「電車もうないんじゃないの?」

「別に歩いて帰れない距離じゃないし大丈夫だよ」


靴を履きながら陸は振り返った。

美鈴は陸の腕を掴んだ。


「それは駄目だよ。空いている部屋があるから泊まっていきな」


美鈴の言葉に陸は驚いたように見ていたがプッと吹き出した。


「さっきはさっさと帰れって言ってたのに、今度は泊まってけって?」

「だって、こんな時間に電車もないのに帰すって薄情じゃん」


美鈴はもごもごと言う。笑いながら陸は言った。


「俺知らないぜ。同じ屋根の下で寝るなんてさ」


陸の言葉に美鈴は文句を言う。


「だから、空いている部屋って言ったよね」


陸は美鈴の顔を見ながら暫く黙っていたが頷いた。


「んじゃ、泊めてもらう」


陸はそう言うと玄関の鍵を閉めた。靴を脱ぐとリビングへと戻って行く。


「シャワーだけ借りてもいい?」

「いいよ。俊のだけど服もスエットとTシャツがあるから出しておく」


空いている部屋のベットの用意をしてからリビングへ戻ると陸が作ってくれた水を飲んだ。コップは水滴で濡れており氷は溶けていた。コップをカウンターに置くとソファに腰を下ろした。頭の中はモヤがかかったようで何も考えられない。すでに着替えており化粧も落としたのでこのまま寝ても何も問題はなかった。陸にも部屋の事は言ってある。うとうとしていると陸の声が聞こえた。


「シャワー空いたけど…寝るなら布団で寝なよ」

「うん…寝る。冷蔵庫にあるの適当に飲んでいいから。…おやすみ…」


それだけ言うとリビングの隣の和室にひいていある布団に倒れ込む。

頭はにぶく痺れているようであった。


「…おやすみ」


陸の声が返ってきたが遠い場所からのようであった。



陸は冷や汗で濡れた首筋をぬぐいながら体を起こした。

店での銃撃事件が起きてから、あの時の事が夢に出て来ては陸を苦しめる。陸を庇って撃たれた兼松は幼い頃から陸の側にいてお守り役として守ってくれていた。兄の海人より兄らしく、または父親のようでもあった。生死の境をさまよっていた兼松も今ではすっかり復活して海人のもとで働いている。

守られている自分。

あのときの光景が頭から離れない。何も変わっていない事がひしひしと感じる。

陸はキッチンへ行くと水を飲んだ。

ふと、美鈴が寝ている和室の方に目をやった。静かである。

壁掛けの時計は3時半過ぎを指している。布団に入ってからそう時間は経っていなかった。

コップを流しに置くと陸は静かに50センチほど開いている襖から和室へ入った。布団がひとつひかれており後は目覚まし時計と屑入れくらいしか置かれていない部屋に美鈴は寝ていた。布団の横にあぐらをかくと顔を覗きこむ。静かな寝息が聞こえる。何か切ない気持ちになりそっと髪を撫でてみたが起きる気配はなかった。


「こんな広いマンションで1人なんて寂しくないの?」


陸は眠っている美鈴に話しかける。


「不安になったりしない?俺…不安だらけだよ」


布団から出ている美鈴の手に触れて握る。


「強がってるけど、こんなに心が弱くて力がなくて兼松にも美鈴にも助けられて…すっげぇ情けなくて悔しいよ」


陸の顔が歪み目が閉じられた。しかし目がゆっくりと開かれ美鈴を見つめた。


「美鈴も苦しんで乗り越えて来たんだよな。今だってそうだよな。もっと俺も頑張らないとな…」



目が覚めて横を見たとき思わず固まってしまった。

自分の布団の横に陸が布団もかけずに寝ていたからだ。

美鈴は起き上がると陸の冷えた体に布団をかけた。陸はもぞもぞと布団に丸々ように顔を埋める。思わず微笑んでしまう。美鈴は静かに部屋から出るとリビングのカーテンを開けた。


「シャワー浴びてご飯でも作るか」



「おーい、起きて。ご飯だよ」


美鈴の声に陸は目を覚ましたが自分がどうして畳で寝ているのかイマイチよく分からないでいた。昨晩悪夢を見て美鈴の部屋に来たことを思い出す。和室から出てきた陸の頭は寝癖で髪が変な方向にツンツンと立っている上に顔には畳の跡が付いていた。美鈴は思わず笑ってしまったが陸は焦ったように弁解した。


「俺っ、昨日ちゃんと寝ているか見に行って、その…なんか横で寝てしまったみたいで、ごめん」

「大丈夫。気にしてないよ。それより覚めちゃうからご飯食べよ」


美鈴に促されて陸は席につく。窓からは朝日が差し込みテレビからは朝のニュースが聞こえる。机の上には、ご飯に味噌汁、目玉焼きにウィンナーと漬物。自分には縁がなかった朝の風景であった。


「なんか何もなくてごめんね。朝は簡単に済ませてしまうから」

「ううん。俺こういう朝飯食ったことないし全然大丈夫」


陸の言葉に美鈴は箸の持つ手が止まってしまった。


「そっか。んじゃあ食べて。いただきます!」


美鈴の声に陸もボソボソと続けて言った。


「いただきます」


味噌汁に口をつける陸に何かドキドキしながら美鈴は様子を伺う。


「うまい…」

「本当?よかった…。家にいた頃飲んでいた味噌を取り寄せているんだ。美味しいよね、ここの味噌」


嬉しそうに話す美鈴に陸は小さく笑ってしまった。


「そういえば今日休みって言ってたよね」


食事も終える頃美鈴は陸に尋ねる。


「うん、休みだよ。明日は店の方だけだから夜からだし」

「そっか…。じゃあ予定がなければ付き合ってもらいたい場所があるんだけどいいかな?」

「いいけど、どこ?」

「住所しか分からないんだけど、神奈川県。どんな場所で何があるかとかは全然分からない」

「…なにそれ? ミステリーツアー?」


陸の言葉に美鈴は笑ってしまった。


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