ラキの素
新しい章始まります。
ゆったりとやっていきます。
言うまでもないが、街の被害は甚大だった。
ヒラの警ら隊に加え、治安隊に救助隊も遅まきながらやってくる。彼らからの厳しい追及は青髪の美女に躱してもらい(この人がいなければ騒ぎの主犯にされてたかも)、彼女の魔車まで連れて行かれる。動力源の半分は魔力、もう半分は動物というハイブリッド型だった。引いてくれるのは、二足歩行の大きなトカゲ。「よお」と挨拶すれば、「クウェ!」と嬉しそうに鳴いた。
トカゲを操る御者は、帽子を目深に被った寡黙そうな男。戦ったらかなり手強いだろうと感じる。護衛も兼ねてるな。こいつがいたから、青髪の美女も魔車も無事だったのだなと推し量る。
「オレはラキっす」「私はヨルナ・シャウィーノ。ヨルナって呼んで」
「えっと。どこ行くんすか?」
「今すぐ演技の聖地『ミナス』へ、と言いたいところだけれど。君、怪我だらけじゃない。まずは病院のある街に行きましょう。服もボロボロね。とりあえずロバート、あなたの服を貸してやって」
御者ロバートは何も答えない。「肯定的沈黙です」とヨルナさんは言い、彼の荷物を漁る。ポンと服を手渡された。魔法で体を清めてから着替える。たったこれだけの動作が痛い。恐らく、アバラの数本はヤってる。
服の肌触りは、今まで着てきたものの百倍は良かった。
「ラキ。年はいくつ?」「十三っす。で来週で十四」
「若いね。身長高いし、十八かそこらだと思った」「よく言われます」
発車する。石で舗装されているとはいえ、数多の瓦礫が転がっているにもかかわらず、驚くほど揺れない。ツルツルのガラス板を、等速で滑っていってるかのような心地良さだ。
「まだ十四か。うん。いい。すごくいい。君ならただの俳優より、さらに上のステージを目指せます」「上のステージ?」
「魔法俳優」「魔法を使える俳優?」
「違います。もっとすごい人たちよ」「スターってことっすか?」
「ま。概ねその認識で間違ってません。ところで」
話題が変わる。
「君が告白してた女の子はどこに?」「……死にました」
肘を車窓の縁に乗っ掛け、蹂躙され尽くされた街を眺めた。寂寥感に囚われる。淀んだ灰色。
壊れる時は壊れるのだと。諸行無常というヤツ。
なんだか大人になった気分だ。
「オレを守って。オレはアリを、守れなかったんす」
「……そう」
しばらくすると、魔物が多く出没する危険地帯に入った。魔車用道路の両脇が、魔除けのかかった鉄柵で覆われている。クラスBまでの魔物には有効だろうが、クラスA以上、特に竜種に対して意味をなすとは思えない。事実、あちこちに壊れた跡が残っている。
旅に危険は付き物だ。
幸い襲われることもなく、昼頃には隣街に到着した。付近の地域における、文化や経済の中心地だ。傭兵団が解散されたのち、最初はここに住もうと考えてたのだが、身元保証のねえオレと姉には縁がなかった。
「病院はどこかしら」
「四番ストリート、通称コナーズ通りの奥っす。ただ、あそこは狭い歩道で、魔車の乗り入れは出来ないんで、三番ストリートに入ってすぐ左にある駐車場に停めてください」「詳しいのですね」
「傭兵あがりなもんで。斥候もよくやりました。一度訪れた場所は把握しておく癖がついてるんす」「すごくいい心がけだと思います」
ロバートさんとトカゲは相性のいいコンビのようで、バック駐車を一度で成功させた。
車の外に出る。「肩を貸さなくて大丈夫ですか?」とヨルナさんに問われたが、断っておく。歩けないほどじゃあない。それに、ヨルナさんみたいな美女と密着するのは気恥ずかしいし、かと言ってロバートさんに寄りかかるのは気まずい。
大丈夫。そう思っていたが、足を踏み出した途端にフラついた。コケそうだと感じる。が、見栄を張った手前、「やっぱ補助お願いします」と言うのはプライドに関わる。昨晩と比べたら、魔力もだいぶ回復してきた。身体強化を行って平然とした風を装う。
喧嘩や戦闘中でもねえのにこれを使ったのは、十歳になった頃、ジュースと間違えアルコールをがぶ飲みし、ベロンベロンに酔った時以来だ。
ヨルナさんにじっと見つめられる。多分バレた。彼女はどこか嬉しそうに微笑んだが、しかし何も言ってこない。
三番ストリートから四番ストリートへ向かう途中、後ろでドサリと、何かの落ちる音がする。おばあちゃんが買い物袋を手放しちまったらしい。
戻って屈み、拾うのを手伝ってやる。体の節々がめっちゃ痛い。でも我慢。
「ありがとぉねぇ」「いいっすよ。じゃ! 気をつけて!」
「ラキくん。今、私の中で、君のポイントとても高いよ」
「そうっすか? 百点貯まったら何かください」「マイナス五点」
「そんな。ひでえっす」
「ふふ。でも、優しいんですね。最初に見かけた時は、もうちょっと怖い印象だったんだけれど」
「ヤクザと取引して生計を得てましたからね。舐められないよう硬派を気取ったんす。ずっと演技してたってわけ。正直窮屈でしたねえ。こっちが素です」
「なるほどね」
話している間に、病院へと到達した。平日の昼間だというに、それなりに混んでいる。皆が皆、朗らかな様子で座っていた。重病人はおらず、また隣街半壊の一報が届いていないらしいと察する。
待っている間に尋ねた。
「すみませんっす。治療費って……」
「ふふ。君への投資と思うことにします」「プレッシャーっすね」
「この程度で潰れてもらっちゃ困ります。真の投資はこれからだからね」
治療費だけでも結構高い。期待は嬉しいけど、身震いせざるを得ない。
三十分後に診察され、怪我を処置された。すでに治り始めていたようで、「あんたホントに人間?」と問われた。明日の朝には万全に動ける、何もせずとも五日後には走り回れただろうとも言われる。
ちょっぴり魔物化してるとかはないはず。回復力は元々強い。
このまま魔車に乗ってミナスへ行く選択もあったけど、大事を見て一泊することになった。高級ホテルで、初めてワイバーンと対面した時よりもビビっちまった。一階のレストランにて豪勢な食事、そしてチェックイン。
二部屋取るらしい。オレ・ロバートさんとヨルナさんで分けるのかなと思いきや、オレとヨルナさんが同部屋だった。
「……え?」「君、まだ十三歳なんでしょう? 子供じゃない」
「いやでも」「ん?」「はあ……」
「あ。魔法で清めたようだけど、一応お風呂入っとけば?」
ヨルナ・シャウィーノ。
シャウィーノ侯爵家は、オレでも知ってる有名なロイヤルファミリーである。
孤児出身の傭兵崩れなゴロツキとの性的認識における差異をとても感じたし、当たり前だが、もちろん何もなかった。




