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魔法俳優  作者: オッコー勝森
第三章:合流
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話のリアリティ


 とりあえず、日付が変わる頃合いまで付近を探してみたが、化け物を見つけることは出来なかった。

 紫は暗色だ。向こうから襲ってくれなければ、夜の森で探すのは難しい。寝たのは二時を過ぎてから。起床時間は六時。睡眠時間を削られただけに終わったし、結局、どうしてヨルナさんがクリーチャーを気にかけるのか、聞くのを忘れた。


「ねみぃ」「だ、だいじょうぶですか?」


 睡眠不足。朝からメルに心配される。徹夜の行軍が日常だったのは、もう三年も前の話だ。これだけ背が高くなっても、まだ成長期は終わってない模様。

 サージェント先生による座学と演技のレクチャー後、一般生徒と初のダンス授業を受けたけど、眠過ぎて記憶が朧げだ。フレアに甲斐甲斐しくフォローされた気がする。少なくとも、怒られは発生しなかったはず。

 帰ってすぐ寝たかった。しかし、夜にはレノたちの劇団と合流する約束があった。初代「劇王」誕生祭の演劇発表に関する打ち合わせという名目で。

 フラフラ、アークセラフィム劇団の拠点に赴く。「ウィース」と、気の抜けた挨拶とともに、扉を開いた。結構いる。レノは当然として、ジャックにマリア、赤毛のリーンと茶髪のミーナ。他にも、男子二人女子四人。

 ほぼ初対面の少年たちからは怪訝な目つきで、少女たちからは戸惑いの視線で見られる(一応、路上演劇の際に顔を合わせてはいるのだが)。新入りだから仕方ない。ジャックの近くに行く。


「あまり元気がなさそうだね」「昨日遅くてさ」

「新キャラが来ましたし、本格的な打ち合わせに入っていきましょう」


 新キャラって。

 前に立つレノはそう言って、大きめの魔晶壁(スクリーン)に文字を映す。ハンターたちが村からワイバーン退治を請け負う→ワイバーンを殺す→ワイバーンは村人の森林伐採で住処を追われたと判明→夜な夜な木を伐採する村人たちを懲らしめる、という流れが表示された。


「舞台装置のクォリティは大幅に改善します。ラキさんが加入するということで新キャラも増やしますが、基本的な流れは変えずに行こうと思います。異議はありますか?」


 誰も申し立てをしない。目を丸くしつつ、手を上げた。


「はい、ラキさん」「三週間前、観た時の感想を言ってもいいか?」


 皆から注目される。レノも、興味深げに頷いた。


「演技が好きだって気持ちは伝わってきた。感情がノってたぜ。お前らの演じる熱意には触発もされた。でも正直、違和感も多かった。それが顕著だったのがストーリー」

「どういうところがおかしいと?」

「ワイバーンは、村程度の集団に追い払われるほど弱くねえよ。夜の危険な森で木こりの真似事も出来ない。普通はな」「普通でなかったら?」

「最初から、トカゲ退治を旅の狩人になんか頼んだりしねえ」

「なんでそう言い切れるんだよ」


 名前を知らない男子二人のうち、一人が口を開く。赤みのかかった茶髪が特徴だ。棘のある言い方だった。俗にいう喧嘩腰。

 疎まれてるぜ。なるべく丁寧に説明する。


「理屈は難しくねえ。どんなに弱えヤツでも、少なくとも普通のクマ二十匹分は強い。力が強いし、飛べるし、魔法も使えるしな。そして、クマが二十匹もいりゃあ、村なら壊滅状態に陥るだろ」

「そうなの?」「村って弱いんだ」

「そんなわけないだろ! そうまで脆くて、人が暮らせるはずがない!」

「行ったことねえのかい、限界村落って所に。魔物の少ない平和な地帯ならともかく、ワイバーンのいる魔境の村なんて、例えば戦場の兵站設営跡地に出来た、街や都市じゃやってけない落ちこぼれの溜まり場だぜ? 戦える奴もそうはいない。毎日毎日、クマにすらビクビクしながら暮らしてる」

「っ……。ワ、ワイバーンは所詮、クラスBからCの魔物と聞くが」

「魔物化していないクマは、魔物換算するならクラスDからEだ。そして、戦いの才能がない一般人はさらに弱い」

「だから、なんでそう分かるんだよ!」

「何度も戦ったことがあるからな。ワイバーンとも、クマとも、戦いの才能がない一般人とも」「う、嘘つけ!」


 ソッポを向いてしまった。肩を竦める。

 今度はレノが尋ねかけてきた。


「普通じゃない村もあるんですよね?」

「限界村落でもやってける物好きな凶悪犯罪者が、村の用心棒として付いている場合もある。奴らは強え。ワイバーンの一匹ならペット扱い出来るだろうな」

「ふむう。なるほど。本筋は変えないとすれば、どうすれば元のストーリーの違和感をなくせますかね?」

「えっと。尺はどのくらいだ?」「三十分から四十五分です」

「聞いても感覚が掴めねえなあ。村人サイドに強い悪党を登場させて、もっとエグい悪巧みをさせられるか? 例えば、村付きのワルが、旅の狩人たちの装備を狙ってるなら、ワイバーン退治の依頼を出すってことは十分考えられるのさ。戦闘後、狩人たちが疲れ切ったところで、身包み剥いで殺しちまうのよぉ」

「なんて恐ろしい」「非道いよ」「ゲスが」「悪魔だ」


 慄かれた。親の仇みたいな視線を向けられる。

 念のために言っておくけど、オレの話じゃないからね。


「救いがない悪者ですね。でも、分かりやすいし面白いです。話にドラマが生まれます。悪党を懲らしめるカタルシスも演出出来ます。ラキさん、村付きの用心棒をやってもらえませんか?」

「はは。正義の味方を演るよりはよほど似合ってるだろーな」

「お、おい。ちょっと待てよ。こんなポッと出の奴の言うことを聞くのか?」


 赤茶髪の少年が制止をかける。


「前の話を少し膨らませるだけで十分じゃないか。リアリティよりもっと大事なものってあるだろ!」

「そうですね。はい。では、リアリティより大事なものとはなんですか?」

「そりゃあ、面白さとかさ」

「はい。面白さはリアリティよりも大事ですね。しかし、リアリティを追求した上での彼の提案は、面白くないですか? 前の単調で不完全な脚本より、少なくともマシなものは出来ると思いますが。トーリさんはそう思いませんか?」

「……えっと」

「ラキさんの提案に反対する明確な理由を教えてください。いえ。教えてもらうまでもありませんか。推理してみせましょう。新入りのラキさんに対する子供っぽい反発心と、稽古のやり直しを避けたいと考える、ただの怠け心ではないのですか?」


 レノははっきり、そう言った。

 おいおい。おいおいおいおい。

 空気が凍りつく。冷や汗を流しつつ、赤茶髪のトーリ君に視線を向けた。顔を赤くし俯いている。ボソり、「そんなキツい言い方って」と嘆いた。

 今にも泣きそうだ。

 彼の様子を無視して、レノは淡々と説明を続ける。ゴクリと唾を呑む。

 確かにお前は、今のグダッたアークセラフィム劇団に、もう一度熱を与えたいというようなことを言ってたけど。

 で、オレに手伝って欲しいと言ってたけどさ。

 それって、こういうやり方で?


多忙な状況が続いてます。しばらく更新出来ません。ごめんなさい。

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