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魔法俳優  作者: オッコー勝森
第三章:合流
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夜のお散歩


「森で会ったクリーチャー、っすか?」


 ヨルナさんに小さな曲がり角へと連れ込まれ、質問された。尋ね返す。


「ええ。化け物と相対し、倒したのが君だという話が、ようやく私の耳にも届いてきました。それで、どういう系統の化け物だった?」


 暗くて見えづらいが、真剣な表情だった。授業終わりの疲労による程よい心地良さが、たちまち消え失せる。もちろんいい意味で。

 シャッキリしちまった。はあ。


「あの街で戦った、魔物化した人間のような紫色でした。ただ、形は人間とはかけ離れてたっす。ぶよぶよとした不定形で、気味が悪かったですねぇ。人を殺した後の夢に出てきそうな」

「形、人間とはかけ離れてた? 何もかも?」


 もっと詳しく思い出して。そういうニュアンスが込められていた。戦場で斥候を任されていたことがあるくらいだから、映像記憶には自信がある。


「人の指や骨みたいなのが引っ付いてましたね。薄皮一枚下の筋模様もたくさんあったっす。臓器チックな気持ち悪いもんも……」

「まるで、バラバラにされた人間パズル?」

「え、ええ。はい」「やっぱり」


 頷くヨルナさん。化け物の存在に、思い当たる節があるようだった。どういうわけか寒気がする。今立ってるここみたいな、街灯の明かりで溢れた通りと、暗くて黒い小径の狭間では、昔から落ち着かない。

 いつの間にか取り出していた通信精霊をポケットにしまってから、ヨルナさんは言う。


「コスタスさんには連絡しておきました。狩りの森へ行くよ」

「今からっすか? なんで」「君も私も、自由に動ける時間は限られてるでしょ」


 まあ、ミナス俳優学校魔法俳優科に入学するべく、演技も勉強も歌もみっちりやらされる予定ですからね。ダンスの授業も明日から始まる。

 ヨルナさんだって、自分で嘆いてたけど、売れっ子俳優と学校理事との二足の草鞋は、相当忙しいはずだ。

 双方暇じゃないというのは理解出来るが、なぜヨルナさんとオレが森に行かなければならないのかが不明だ。眉を顰める。しかし尋ねる前に、彼女はさっさと口を開いた。


「屋根伝いに直線で行きます。良いですか?」

「はあ。月下のコソ泥って感じっすね。悪いことをしてる気がします。やれと言われたらまあやれますけど。転移は使わないんすか?」

「ほら。その、あれは魔力をほとんど使っちゃうから」「ああ」


 彼女はふわりと浮遊した。壁を蹴って上がっていく。宙に浮ける魔法は色々あるが、無詠唱だった。ヴァルキュリア様特有の能力だろうか。

 短い呪文を口ずさみ、体重を軽くしかつ気配を隠してから、オレも身体強化で屋根まで昇った。とりあえず、ヨルナさんの後を追う。二十分ほど空を駆け抜け、森と面する門に辿り着いた。


「飛び越えるんすか?」「それだと、結界に引っ掛かって面倒です」


 彼女はそう言って、虚空から銀色のステッキを取り出す。魔法の杖だ。先っぽを、門番の兵士たちに向ける。一瞬、青色の魔力が迸った。


「行きましょう」「え? さすがに夜には出してもらえないんじゃ」


 堂々と歩いていく彼女に、慌ててついていく。門そのものに開く小さな扉を通してもらえた。「軽い洗脳魔法だよ」と微笑む。洗脳魔法は軽くない。怖いぜ。

 二人で夜の森を歩く。


「やっぱり自然は、清々しくていいですね」

「昼ならね。夜はおどろおどろしくて敵わんすよ。いつ魔物か敵兵に飛びかかられるかと、ビクついちまうので」

「ああ。傭兵団の一員として、北部の戦争に参加していたんだね? 太い魔脈の影響で、深い森林地帯もあると聞きます。そういえば、入っていた傭兵団の名前は?」

「『奈落の戒め』っす」「あはは。イターい」


 ケラケラ笑うヨルナさん。酷い感想だ。本当の彼女、つまり、十歳ほどの子供の姿を想起させられる。あのくらいのガキなら、思ったことをストレートに言っても不思議じゃねえ。オレだって、五年前まではそうだったし。

 現場に近づいてきた。気を取り直して話しかける。


「ちょうど、探知用結界を抜けた辺りの場所で化け物に出くわしました」

「ここにもありましたね。探知されたら仕事が多くなる。私と手を繋いで。君の魔力漏れをシャットアウトします」


 人体からは、微弱ながらも、常に魔力が放出されている。探知用結界は、それを拾って人の通過を認識する。可能なのかと疑いつつも、ヨルナさんの手を握った。

 大人の女性の手だ。真の姿が子供とは思えない。凄まじい変身魔法。戦争だったら敵に回したくない精度だ。こちらの主要人物に化けられれば、味方サイドは数日もたずに瓦解させられるだろう。

 結界の境を抜ける。探知されてないかどうか、オレからは分からない。残念ながら。


「ああ。ここっすね。オレが燃やした木がある」

「んー。なんの変哲もない、ただの森の一部ですね」

「最初に目撃されたのは違う場所っす」「そうなの?」

「えーっと。ここからなら、確かあの方角から光球(ルークレ)が打ち上がって、狩猟大会が中止になりました」

「参加者の誰かが別の所で化け物と遭遇して、危険を察知しルークレを打ったってこと?」「はい。そう聞いてるっす」

「……中止後、どのくらいで化け物をやっつけたの?」

「十分も経たないうちに」「それって、おかしくない?」


 はたと気づく。ルークレの上がった地点は、今いる場所からはかなり離れている。森でのゲリラ戦も経験しているオレならともかく、不定形の化け物が、そう素早く動けるとは思えない。

 出来るなら、ジャックとマリアの二人は喰われていたはずだ。助けも間に合わず。


「じゃあつまり、複数いたってことっすか?」

「そうなるわね」


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