表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法俳優  作者: オッコー勝森
第二章:新生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/36

互いに演技


「…………」「…………」


 横目でメルを眺める。視線が合った。全力で逸らされる。

 相手になったつもりで演じる。そう言われても、メル・マノという少女とは初対面だ。ほとんど情報がないと言っていい。「拾う」については、先ほど見せてもらった動きを真似れば良いのかもしれない。しかし、水を出す魔法「ウルティア」を彼女がどういう風に使うのか、全然イメージ出来ない。

 サージェント先生は、椅子に座って見物を決め込んでいる。アドバイスはくれなさそうだ。ニヤニヤ笑ってやがる。ムカつくぜ。

 オレたちだけで乗り越えろってか。


「とりあえず、まずはお互いをもっと知らなきゃな……」

「お互いを、もっと、知る。その。あの」


 メルは顔を赤らめた。おいおい、そういう反応をされると、なんだかこっちまで恥ずかしくなっちゃうぜ。まだ何も知らなかった頃を思い出す。心がくすぐったいじゃんかよ。

 彼女は言った。


「せ、性行為とかすると、いいんでしょうか、ね?」


 噴き出した。


「あのジジイの前でか」「あのジジイとはなんだ。早く金貨返せ」

「すいやせん。えっと。初対面からいきなり三段階ぶっ飛びましたね」

「しょ、初対面から三段階踏んだらヤるんですかっ!? ひええ」

「いつもそう全開じゃないから。最速の話っす」「最速」

「無理しなくても、別にマイルドに自己紹介からでいいだろ」

「でも。本に。その。えっと。裸で温め合えば、双方の理解が深まるって」

「インモラルな本だなぁ。それ単体でお互いを知れるわけないじゃん。そういう魔物じゃあるまいし。本質はこうだ。ヤレるだけの関係に持っていって、融け合った事後、ムードの助けを借りて互いの本心を曝け出す。それでようやく相手の心に深く踏み込める」

「は、ひゃ、はぁ〜……大人って難しい」

「ジジイの前で生々しい話やめてくんない? 枯れた自分を自覚しちゃうだろうが。あと金貨返せ」「すいやせん」


 びっくりしたぜ。突然とんでもないことを言い出すものだから。ミナスほどの都会は、昔ほど大っぴらじゃなくなった。コスタスさんはそう言っていたが、全員が全員お堅いってわけでもねえのか。むしろ、皆が隠すようになったからこそ、裏で溜まっているという奴も多そうだ。

 メルは明らかにそのタイプだ。煮え滾るマグマを必死に抑えてきた。じゃなきゃこんなとこで爆発しねえだろ。恋人どころか、友達すらいなさそう。とにかく、メル・マノの一面が見えた。見えたが……彼女の「拾う」「ウルティア」を演じるにあたって、役立つ情報じゃない。だから、真っ当な自己紹介を……、

 待てよ。真っ当な自己紹介って何だ。役に立つ情報、参考になるものが、そもそも分かっていないのに。オレが「物を拾うメル・マノ」「ウルティアを使うメル・マノ」を演じるために必要なピースは、なに?

 頭が混乱してきた。最近、疑問が増えてばかりだ。


「へ、へへ。家族とサージェント先生以外の人と喋るの久しぶり過ぎて、つい慌ててしまいました。やばいですねわたし」

「やばかったな。はあ。マイルドに自己紹介でいいって言ったけど、どういう自分を知ってもらわなきゃいけないのか、イメージが付かねえ」

「と、とりあえず。お互いの持ち物を出してみませんか? その、『拾う』は『持つ』と関係が深いと思うので」

「! 確かにそうだ。なるほど」


 持ち物を並べる。カードゲームで、持ち札を戦わせる前と似たワクワク感。

 メルは両手で、恥ずかしげに顔を隠した。


「うわあ。えっちぃ画集」「持ってきたの忘れてましたぁ……」

「落としたらどう拾う?」「素早く。シャッと。こういう感じで」


 彼女は実例を示そうとして、勢いのままコケる。しかも空振り。絶望的な運動能力だ。もしメルが孤児になったら、一週間と保たずに死ぬだろう。「大丈夫か」と声をかけつつ、手を伸ばす。

 綺麗な、柔らかい手だった。擦り切れもタコもない。


「身体強化を使えばいいだろ。一般人レベルにはなる」

「うう。どうして一般人レベルにしかならないと看破してるのですか。ああ、死にたいなぁ。わたしみたいなカス虫に、生きてる資格はないのです」

「生きろ。オレの持ち物で、拾って欲しいものはあるか?」

「その、ぐるぐる巻いてる太いの……初めて見ますが、どういう器具ですか?」

「ハンドグリップ? 握力を鍛えるんだ。こうやって」

「わあぁ。武器じゃないんですね。わたしじゃ一生かかっても握れなさそう」


 ハンドグリップは大事な物だが、今持っている物に対して思い入れがあるわけじゃない。消耗品だし。失くしたらまた買えばいいと考えている。小石とあまり変わらぬ要領で拾った。


「えっと〜。じゃあ次は、このギザギザ杖をお願いします」


 床に置く。拾おうとした途端に、杖自らが掌に吸い付いてきた。


「アンティーク風の店で出会った不思議な杖なんだ」

「そうなんですねえ。かっこいいなあ。いいなあ」

「店なら教えられるけど。杖についちゃ素人ではあるが、こういう変なのがゴロゴロ転がってるとは思えねえな」「ですねえ。残念」


 一通りお互いの「拾う」行為を観察したのち、「ウルティア」についても同様に進めていく。出せる量はどのくらいか、どのくらいの量をコントロール出来るか、どのくらい形を自由に取れるか、どういう時に使うのか。色々な状況を書き出していく。

 とりあえず準備はした。どうにかイメージはついてきた、そのはずだった。

 しかし、いざ相手の演技をする段になって、お互い、まったく上手く出来なかった。二十時過ぎまで練習したのに、少しのコツすら掴めた気がしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ