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魔法俳優  作者: オッコー勝森
第二章:新生活

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「拾う」という動作


「オレに務まるかどうか」

「大丈夫ですよ。少なくとも、女の子たちにとってはとても刺激になると思いますからっ。それを見て、男の子たちも本気になるかもしれませんし!」


 押しに負け、なし崩し的にOKしてしまった。お礼とともに、「つまみ食いしようがハーレムを作ろうが不問と致します」とも言われる。レノにどう見られているかが伝わってきた。あながち間違ってない。

 でもそれ、人間関係に決定的な亀裂が入るヤツだからね。オレ知ってる。モテるからって調子に乗ると、刺されたり毒盛られたりしちゃうんだよね。

 もう懲り懲りだ。アリがかっこいいと言ってくれた傷のうち二つは、女性関係についての諸問題で生じた勲章である。熟睡時は誰でも無力。


「オレがトラブル起こしたら、レノの夢も遠のくぞ。分かってんのか……?」


 四時前、塾に戻ってきた。授業終わりの少年少女たちが、ちらほらと集まって来ている。身なりのいい痩せっぱちが多い。知り合いはいなかった。階段で六階まで上がる。

 教室で待っていると、サージェント先生が来た。


「まったく。貴族のガキも商人のガキも、マッスルがなっとらん」

「鍛える魅力に気づく機会が今までなかったんでしょうね。空虚な人生だ。かわいそうに。で、今からなにするんすか」

「演技における基本動作の練習だ。一週間後には、普通の塾生に混じって稽古のレッスンを受けてもらう。きついが、みっちり叩き込むぞ」「うす」

「が、同年代の練習相手もいた方がいいだろう。俺のもう一人の生徒も呼んでおいた。そろそろ来るはずだが」「四時も五分回ってますけど」

「す、すみませ〜ん……。ちょっと遅れましたぁ」


 二人しかいない教室に、三人目が入ってくる。

 背の高い少女だった。千草色の、腰まで届く長い髪。儚げな容姿。寒い冬の日、地面に生えた霜柱という印象を受ける。サージェント先生の生徒っぽくない。

 座ったままは失礼か。とりあえず立ち上がる。


「オレはラキ・ベスティン」「わ、わたしは、メル・マノと言います」

「メルさんか。よろしく」「は、はひ」


 ネル義兄さんとややこしいなと感じたが、口には出さない。座り直す。


「自己紹介は終わったか? じゃあ今日の練習課題を発表するぞ。ズバリ、『拾う動作』と『ウルティア』だ」「……?」


 拾う。落ちている物を手に取る行為。

 ウルティア。水を出す魔法。


「どっちも物心つく前から日常的にやってきたことっすよ。出来て当たり前。赤ちゃんじゃあるまいし、今さら練習する必要なんてないのでは?」

「フハハ。当然の疑問だな」


 サージェント先生は笑った。そのままポケットに手を入れて、地味な小石を取り出す。床に落とした。三回ほどバウンドして、止まる。


「拾ってみな」「……こうっすか?」


 足の指でも拾えそうな大きさ。しかし靴を履いている。素直に腰を曲げ、腕を伸ばして拾った。


「お前さんはそういう風に拾うんだな」「誰でもこうじゃないっすか?」

「メル。お前もやってみな。いつも通りに。ラキ、よく見てろ」


 落ちた小石を前にして、メルは膝を折り曲げ、屈んだ。位置が悪く、腕を精一杯に伸ばしても届かない。仕方なさそうに膝と片手を地面に付け、もう片方の手で拾い上げる。体が硬いんだ、この子。立つ時にはコケそうになっていた。バランス感覚も悪い。「はひ〜」と、一仕事終えてやったみたいな溜息。

 オレとは全然違う。


「分かったか? じゃあ、お次はこれだ」


 ピン、と太い親指を弾く。サージェント先生の手から飛び出したのは、光り輝く金貨だった。


「キンカッ」


 お恥ずかしい限りなのだが、幼い頃から染み付いたギトギトの貧乏根性は、未だに拭い去れていなかった。鼠を見つけた野良猫の如く、勢いよく飛びかかる。

 二回転受け身。相殺し切れず(くう)で宙返り。綺麗に着地を決める。


「はわわ、やばいです。同じ人間とは思えません〜。人間ですか?」

「身体強化なしでそれか。ヨルナちゃんから聞いてはいたが、すげえなお前さん。スタントマンとしてなら、今すぐにでも映画に出れる」

「すたんとまん?」「俳優の代わりにアクションをやる係さ」


 へえ。まあ、そりゃ、演技が出来るからって運動も出来るわけじゃねえだろうし。下手に苦手なことに挑戦しても死ぬだけだしな。


「この通り、同じ『拾う』という動作でも、人によって、物によって、あるいは状況によって、『拾い方』はまったく変わってくる。お前たちが演じるのは、自分じゃない。登場人物という他人だ。それを忘れて、物や状況を鑑みず、いつも通り『拾っ』ても、求められる演技にはならない」


 ようやく、サージェント先生の意図を理解する。隣でメルが、うんうんと頷いていた。出遅れている気分になる。焦るな。言葉に集中しろ。


「『拾え』と指示を出された時に、素直に拾うだけじゃあダメだ。横着するな。考えろ。設定を吟味しろ。大事なのは、自然な動作を、いかに『それっぽく』行うかだ」


 それっぽさ。他人に、自分のやってることを分かりやすく見せる。作られた虚構を、より本物らしくする。必要なのは、クリアな客観的視点というわけか?

 オレには足りてないかも。


「行動には、魔法じゃ出せねえ機微がある。編集任せにならないように。では練習を始めよう。他人になったつもりで、『拾う』動作と『ウルティア』を演じてみろ」

「他人って言われても。誰になればいいんすか?」

「何のために二人集めたと思っている?」


 長い白髭を撫でつけながら、彼は面白そうに言う。


「お互い、相手になったつもりでやってみろ」


明日は休みます。

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