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魔法俳優  作者: オッコー勝森
「卵の卵」編 第一章:義兄

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ハッピーハント


「一狩り行こうぜ!」


 自室の扉が開け放たれる。計算や文法など、基礎教養の勉強中に、コスタスさんにかっこよくそう言われた。この人、ノリと勢いで生きてる感が結構あるな。オレもだけど。信頼と安心を度外視したパワー極振り魔力エンジンを搭載してそう。

 運動気分がムラムラと湧き上がってきたのでついていく。暇を持て余していたのか、ネル義兄さんも一緒に来るようだ。彼が引きこもりをやめて三日、ベスティン家の仲は極めて良好だ。使用人交えてボードゲームとかやったもん。コスタスさんと最下位争いしたもん。負けたコスタスさんのヒゲをみんなでいじりまくったもん。


「どこで狩りするんすか?」

「アウト・オブ・ミナスのフォレストだ! もちろん大自然」

「大自然!」「人間みんなで?」「ハッピーハント!」

「生き物仲良く?」「生存競争っ!」

「「イェーイ!」」

「なんだこのノリ。パパってこんなにアホだったっけ……?」


 森があるのは、貴族屋敷区画の反対側だ。ミナス行政が運営している無料の大型公共魔車(バス)(引いてるトカゲがめっちゃデカい)に乗り、森側の出入り口に向かう。タダで乗れるのは、路上演劇に配慮し、自家用車の運行にキツい規制がかかっていることの代わりらしい。

 意外にも空いている。車窓が曇っており、演劇が見れないからだろうか。

 三十分ほどで終点に到着した。すぐ近くの出入り口を通ると、目の前に森が現れる。コスタスさんの狩り仲間が、すでに六人集まっていた。あと十人は来るという。俳優業の関係者だ。

 垂れ目がちハンサムな茶髪のおっさんが、オレに話しかけてくる。


「君がヨルナさんの言ってたラキ君か。よろしく」「よろしくっす」

「すごいかっこいいなあ。若い頃のコスタス君みたいだ。モテるでしょ?」

「まあ、それなりには」

「娘に近づいたらぶっ殺すからな」


 え。こわ。急に豹変した。警告ののちすぐ笑顔に戻り、離れていく。戦闘的な面での強者には見えないが、娘への愛は本物だ。


「コスタスさん。誰っすか?」

「リューク・クラッセル。魔法俳優科の頃の同期だ。娘の名はフレア」

「ありがとうございます。気をつけます」

「親バカなのはともかく、奴は本物の魔法俳優だ。同業者の名は今のうちに押さえておけよ。あとで映画を山ほど貸してやる」「助かります」

「あれ。ラキじゃないか」


 呼びかけられた。振り向く。ジャックだ。ジャック・ホロー。狩人とワイバーンの演劇で、主役を務めていた少年。


「狩人をテーマにした劇を演ると言ったら、父さんにここを紹介されたんだ」

「初めてなのか?」「そうだよ。楽しみだ。ワクワクしてる」

「魔物に喰われるんじゃねーぞ」「横のちっちゃい子は? 妹さん?」

義兄(あに)だ」「これは失礼を言いました」

「いいよ。女の子と間違えられるのはもう慣れてるから」


『集まったようだな。廃部届を出さずに済みそうで何より』


 朗らかな笑いが生まれる。コスタスさんの声だった。魔法で風を操り、音を聞き取りやすくしているらしい。逆に、オレたち以外には届かないようにしている。森の魔物を刺激しないためだろう。

 リュークさんがヤジを飛ばす。


「これが部活動だったのは、もう三十年も昔の話だろ!」

「へえ。なんの部活だったんすか?」

「肉体改造部だよ」「肉体改造部」

『血湧き肉踊る森でのハント大会。部活動で鍛え上げたマッスルを生かすべく、このような実践演習を取り入れたのが始まりのキッカケだ。今年で154回目』


 年に五回も開催されてるのか。オレは毎日ハントしてたけど。生活のために。


「君は実にいい肉体をしているねえ。ミナス俳優学校に入学したら、ぜひ肉体改造部に入ってよ」「まだ続いてるんすね。なんかバカそうな名前なのに」

「俳優にとって筋肉は資本の一つだからさあ。イカしたカラダをしてるからって、娘を誘惑するんじゃねえぞ、ああん?」

「しないっすよ。オレが本気で女の子を誘惑したらハーレムが出来ちまう!」

「大した自信だね。娘のため今殺しておくか」

「返り討ちにしてやる」

『ちょっとチョットォ。そこ男子二人、殺し合うならハントが始まってカラ☆』

「「ハァイ☆」」

『では、ハントのルールを説明する』


 ルールとかあんのか。まあ、仕事じゃなくゲームとしてやるなら、その方が楽しいのかもしんない。勝ち負けとかも付けるんだろうし。


『まずは範囲の指定だ。森には危険が付き纏う。特に奥には。ゆえに、「これより先立ち入るべからず」を表す境界線が、結界石によって引かれている。侵入を拒むものではなく、通過者を確かめるだけだ。これに検知されれば失格とする』


 都市すぐ近くの森だからか、安全面が配慮されているようだ。結界の能力が抑えてあるのは、森の生態系を壊さないためか。


『森には普通の動物と、あと弱い魔物がいる。大きさや種類を問わず、前者は一匹につき三点、後者は五点。ただし、損壊があまりに激しい場合、公平な第三者による審議が入る。獲物の所有権は獲った者に帰する。また、いないとは思うが、危険な魔物と遭遇した場合は光量強めのルークレを打ち上げてくれ。門に詰める警ら隊の観測後、境界線内側にいる者は、転移魔法で強制的に、ミナス入り口まで戻される。本当に危険だと思ったら遠慮するなよ。制限時間は四時間』


 大きさや種類に点数が左右されないなら、イキッたり欲張ったりしてもほぼ無意味だな。売って儲けるための冒険もありだけど、当分金には困らなさそうだから、狙いを付けやすくかつ運びにくくない、中型の獣がいい。

 それに、転移魔法か。傭兵団に入ってた時、隣の国(ここからは遠い)との戦争で使って以来だ。個人が呪文を唱えるだけで発動する代物じゃねえし。


『グループ分けについて、普段は各グループにつき一人か二人子供の面倒を見る体制にしていると思うが、此度はラキというイレギュラーがいる。彼はまだ子供だが、ヨルナさん曰く、狩りで生計を立てていたようだ。お遊び程度の俺たちが、彼に腕で勝てるとは思えん。そこでだ。ハンデとして、子供は子供で分けよう』

「え?」

『ラキ。ネルたちをよろしく頼むぞ』


 大人は大人で四グループに分けられ、ゲームが始まった。

 そして、オレの目の前には、見ただけで「厳しい大自然では足手まとい」と分かる四人の子供がいた。


息抜き展開ですが、後にとってそれなりに重要なエピソードです。

これが終われば、本格的な俳優修行に移ります。

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