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調律魔導師バイエルン  作者: BOTAN
9/14

北の一日①


 バイエルン達の朝に話を遡る。

 北に入ったバイエルン達は、順調に山脈地帯を進んでいた。

 魔道具で飛んだバイエルン達が着地した地点は、大きな岩場が続く道で、岩場の通りを抜けると山脈地帯に入る。

 ドーチは巨体に似合わない身軽さで、岩場を何なく飛び越え、物凄い速さで駆け上がっていく。イエーティンの身体能力は、ずば抜けて凄い。バイエルンがスカーフを飛ばしても、追いつくのがやっとだ。エードリッヒはスカーフでなく、空飛ぶマントを持っていたようだ。ドーチにしっかり追いついている。

「(マントあるなら最初から付けてろよ!)」バイエルンは、先行く二人を追いかけながら、先程の慌てふためいた着地は何なんだと、内心思いつつ心配性の自分が嫌になる。

 岩場の通りを過ぎると山道に入ったが、寒さで堅くなった地面が、岩場とさして変わりないように見えた。


 ドーチの所に来ていたエルフは、大人の片腕程の小さなエルフで、イリシュという名だ。イエーティン族は昔からエルフと親交がある。ドーチがエルサードに移住してからは、エルフの食料になりそうな植物の種や調味料、乾燥させたハーブなどを頼まれるようになった。時には鏡やリボンなど、エルフが好きそうな物を買い集めては、毎月用意する。エルサードのお使いは、イリシュの役割だが、イリシュが村に戻らなければ、別のエルフが探しに来るはずなので、村には居るはずだ。

 ドーチは気になりながらも、天候が悪いかもしれない、その内来るだろうと待ってたが、ひと月以上も経っていた。


 山道を登るバイエルン達に、冷たい風が吹いてくる。段々と気温が低くなり寒さが増していく。エードリッヒが二人に声をかけた。


「ちょっと一息つきませんか。ホットワインとコーヒーがありますが。」


「んだなぁ。俺ぁ、コーヒーがええ。」


「僕もコーヒーで。」


「さあ、どうぞ。」


 こういう気が利くのは、エードリッヒだ。三人は道らしからぬ道の途中で腰かけ、体を温める。


「もう少しだがぁ。一番ちけぇ入り口で、あと30分ぐれぇだぁ。」


 ドーチがあともう少しだと言うと、バイエルンとエードリッヒは、持ってきた上着を羽織る。北に防寒は必須だ。一息つく中、エードリッヒが話しを出した。


「バイエルン、ドーチに影町の話をした方がよいのでは。」


「なんだぁ?お前ぇ、影町に行ったのがぁ?」


「はい。影町のピョンピョン通りへ行きました。」


 影町はエルサードの繁華街になっている町の一つだ。とんでもないくらい巨大な大木の影になる場所で、一日中影が消えない。大木の真ん中は、根っこが分かれてトンネルみたいになっており、根っこの間や大木の周りは昼間でもずっと薄暗い。

 暗い影の場所は、いつしか一日中、夜の娯楽を楽しめる盛り場に発展していった。食堂や酒場はもちろん、劇場やカジノ、娼館などが建ち並ぶ影町には、旅人や観光客も多い。ピョンピョン通りは娼館が立ち並ぶ通りの通称だ。


「昨日、ドーチの店に行った後、調べたいことがあったので。」

 

「ピョンピョン通りかぁ!ええ子はおらんがったのかぁ?」


 ドーチが楽しそうにニヤついた顔をして聞いたが、バイエルンは呆れ顔だ。


「情報収集ですよ。調律をしたことがある娼館の子がいましてね。バレリーという娘です。最近、怪しい客や北の話をした客がいないか聞きに行ったんです。」


「お前ぇ、娼館行ったが!がぁっはっはっ!門前払いされんかったがあ?そりゃあ、見たがったなあ!」


 ドーチは腹を抱えて大笑いだ。確かにバイエルンの素性を知らなければ、どの店でも入口で追い返すだろう。


「ドーチ、笑い過ぎですよ!こう見えて僕は、影町では顔を知られてますから。金持ちに頼まれて、彼らが入れ込んだ娘たちの調律に何度か行ってますからね!娼館のオーナーも色々とあって知り合いですし。リクエストがあれば、ドーチにもいいお店紹介しますよ。」


 バイエルンは、中指で眼鏡を直しながら自信ありそうに言う。見た目は子供でも、一応中身は立派な大人なのだ。


「そっがぁ!そりゃあ、いい!」


 ガハガハと笑いながら、ドーチは涙目になった目を拭いている。相当ウケたようだ。

 冷静な口調でバイエルンは話しを続けた。


「話しが脱線しすぎました。大事なことを言いますよ。バレリーは人気の娘でね、先月来た怪しい客の話をしてくれたんです。二人組で来た客で、もちろん部屋は1人ずつ別ですよ。

 バレリーと過ごした男は、エルサードの民でもなく観光客らしくもなかったようです。ちょっと胡散臭い感じで、バレリーは、直感的に深く関わっちゃいけないと、思ったようです。男は北とは言いませんでしたが、国境を越えると言ってたそうです。何せ人気の娘ですから、相当気に入られたようで、戻ったら必ずまた会いに来ると言って、チップもはずんでくれたそうでね。それから来てないようですが。 

 で、男の左肩には刺青があって、後で連れの男を相手した子から聞いて、二人が同じ刺青があったのがわかったらしいです。それがひと月くらい前の話で、男二人が同じ刺青はおかしいので、何か怪しい犯罪グループかもと思ったそうです。」


 エルサードの隣国は、西のオズリー王国と東の皇帝国ルシルだけで、あとは北地域しかない。国境を越えるとしか言わなかったことから、その二人連れが北地域に向かった可能性は高い。それに、エルフが来なくなった時期にも近い。

 エードリッヒが、バイエルンの話の続きに入った。


「その刺青については私が話そう。魔法陣のような模様の中に、Sの文字に十字が重なっていて、見たことのない文字が入ってたらしい。バレリーが何て書いてあるか聞くと、特別な言葉だとだけ言ったそうだ。私はね、その刺青のマークを知っているのだよ。」


「おい、それは初耳だぞ。」


 バイエルンは、耳をぴくっとさせて言った。


「そうですね、話す暇がなかったので。」


「まあいい、それで?」


「奴らが、もし本当に私が知る種族なら大問題です。何せ、我が一族を滅ぼしかけた相手ですから。ああ!忌々しい!奴らは、とうに絶滅したはずなのですよ!それが今ごろ出てくるのは信じ難いのですがね。はっきり言って、私は信じたくないのですよ!」


 エードリッヒの眼が怒りに燃えている。歯痒い表情で感情を露わにしているのがわかる。ドーチが聞いた。


「だがぁ、現れた。んだがぁ、偽者かもしれねぇ。んで、その種族ってのはあ、なんだぁ?」


「持たない者。我々は、そう呼んでました。Sの文字は、奴らの長の名前、エスから取ったのでしょう。

 奴らは魔法が使えない。信じられないのだが、魔力が体に流れない種族だ。この世界に魔力が流れない生物や物はないのに。奴らは、自然の法則に反した存在ですよ。

 その変わり、怪しい呪術を使う。その上、呪いや毒薬の付いた弓矢や銃など、殺傷目的の武器製造に長けている。ずる賢く強欲で、争いや支配を好み、何でも欲しがる。実に意地汚い憎たらしい種族なのですよ!集団、群れで動き、自分達が良ければ他は構わない。

 その昔、奴らの所為で我々一族は多くの誤解をされ、悪者にされましたからね。エルサードのかつての大魔導師がいなければ、我が一族は皆死に絶えてましたよ。奴らは、長のエスと共に、魔界に封印したはずなのに!」


 余程、恨みがあるのか、怒りで口調が強くなるエードリッヒにバイエルンは聞いた。


「で、奴らが絡んでたらどうする?」


「大問題ですよ!もし奴らなら、三賢者に報告する必要がありますね。全員捕らえなければなりません。」


「オメェ、隠してること全部話せ。」


 20年以上の付き合いがあるエードリッヒから初めて聞く話だ。バイエルンは、秘密の一つや二つ、誰もがあるので問題ではないが、エスの事は知っておくべき話だと思った。


「隠している訳ではない。言う必要が無かっただけですよ。この話は、1週間あっても足りないくらい、長くなりますからね。もう話す必要のない、終わった過去だったはずなのですよ。今は時間がないが、戻ったら詳しく話しますよ。」


「だがぁ、まだ決まった訳じゃあねぇ。悪ぃ奴ってぇのは、いつもどっからかぁ湧いてくるもんだぁ。奴らだろうが、違うもんだろうが、関係ねぇだがぁ。」


「確かにドーチの言う通りですね。僕達が、いま出来ることを優先しましょう。」


 バイエルンは、焦らず全て解るまで調べるしかないと思い直した。



⭐︎⭐︎⭐︎



 ひと息つき、体も温まってきた中、ふいに風向きが変わった。匂いに敏感なエードリッヒが鼻をピクッとさせて言う。


「これは、いけませんねぇ。噂をすれば…奴らかもしれません。」


 音や振動に敏感なバイエルンも察知した。


「近いな。」


 ドーチも嫌な感じを本能的に察知する。三人は、背中を合わせ、全方位に対峙する。

 ビュン、と静かに何かが飛んできたと思う瞬間、エードリッヒがバイエルンを押し倒し呪文を唱えた。


「シールド・ウォール!」


 地面の土が瞬時に三人を包みこむように、テントのような壁が造られた。バンバン、ビュンビュンと音がする。矢と銃弾の攻撃を受けてるようだ。壁の中で三人は話し合う。


「何だぁ、エスの奴らがぁいるのが?」


「多分、三人いるぞ。」


 バイエルンが相手の数を察知した。エードリッヒは一応、二人に聞く。


「さて、どうしましょうかね。一気にやりますか。それとも逃げますか?」


「俺ぁ、ええぞ。」


「雑魚っぽいしな。逃亡犯かもしれねーし。」


 ドーチもバイエルンもやる気満々だ。

 銃弾を撃ち込まれ続けている壁が、ポロポロと崩れ始めてきた。


「ちょっと行きますよ。」


 エードリッヒが真っ直ぐ上に飛び出た。高く飛ぶエードリッヒを銃弾が追いかけていく。こっちには、矢が飛んできている。

「(エードリッヒの奴、無茶しやがって。しょーがねー。)」バイエルンも壁から出ると、魔法で辺りの石や岩を飛ばす。適当にめちゃくちゃ沢山飛ばしたら、二人の輩に当たって倒れたのが見えた。

 エードリッヒが逃げていく一人の輩を追いかけ、脳天から飛び蹴りを入れたのが見えると、倒した輩の足を片手で持ち、引きづりながら戻ってきた。


「片付きましたね。」


 ドーチが倒れている二人の輩を担いで戻り、気を失った三人の手足を縛り岩場に括り付けた。

 バイエルンが捉えた輩の持ち物を漁っていく。身元を調べてようとしたが、ナイフや毒矢に銃など、武器らしき物しか出てこない。


「変な奴らだな。本当に体に魔力が全く流れてねー。魔力はねーけど、なんかある。闇系の呪縛か何かだな。いいもんじゃねーのは確かだ。」


「魔力がないということは、やはり…。」


 エードリッヒは、先程使われたであろう拳銃を見ると、一気に顔色が変わった。拳銃にあるのはエスのマークだ。輩達の服をめくり、肩をみると同じ刺青もあった。

 バイエルンは、バレリーの言っていた刺青だと思い、エードリッヒに聞く。


「コイツらの血、みるか?」


「いや、やめておきましょう。その血に何が仕込まれてるかわかりませんからね。」


「自分の体にか?」


「そうだ。種族の尊厳の為なら命も惜しまない。毒や呪いでも混じってたら、私もどうなるかわかりませんからね!まだ近くに仲間が居るかもしれない。ああー、忌々しい!」


 エードリッヒの怒りがエスカレートしている。段々目がつり上がっていくエードリッヒに、「(コイツ、こんなにヤバい奴だったか?)」と思ってしまう程だ。


「オメーが悪口ばっか言うの珍しいな。」


「悪口?事実ですよ!ここで会ったが何とやら。生き残りは全員魔界に送り込んで閉じ込めてやりますよ!魂ごと、地上から消し去らねばなりません!こいつらも後で魔界行きにしてやりましょう!奴らだけはね、私は許しませんよ!

 それに、もしエルフが狙われていたのなら、何か目的があるはず。エルフの宝か、エルフの持つ何か。奴らは欲しいモノを手にする為には手段を選ばない、危険な奴らですから。」


「そりゃ、あぶねーな。」


 バイエルンは「(エードリッヒ、オメェもヤバいしあぶねーよ。)」と思ったのは、口に出さなかった。


「んだらぁ、早ぐエルフの村いぐか。俺ぁ、心配だあ。」


 ドーチは、益々エルフの安否が気になる。


「そうですね、先ずはエルフの村へ行きましょう。」


 バイエルン達は輩を岩場に放置して、先に進む事にした。

 暫くすると、山道から外れた崖に、少し空間があるのが分かった。ドーチが指差す。エルフの村の入り口のようだ。


「エルフの村は、この中ですか?」


「んだぁ。そっがら入っだら、すぐ上に行げる。上がっだら、一番左に入っで、真っ直ぐだ。んだら、途中で下に穴がぁある。落ちるように入るんだぁ。何もねぇように見えっが、穴の壁にぶつかると、罠の仕掛けがあるがらぁ、ぶつかんねぇよう気いづけろ。入れそうかぁ?」


「行けるでしょう。」


 外から見る入り口は狭いが、中は少し広くなっているようだ。バイエルンは、慎重に中に入って行った。





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