カベロ婆さんと預言
エイドリアンと夕食を楽しんだダミリオンは、出かける支度をする。「(昼間に会えないなら夜に行くしかないな。)」ダミリオンは、昨日から何度もカベロ婆さんの家を訪ねているが、会えないままでいた。
「エイドリアン、仕事の用事で1〜2時間出かけてくるなー。なるべく早く帰るけど、先に寝てていーからな。明日も学院だろ?朝メシも、明日は一緒に食べような。」
「う、うん。気を…つけて。」
ダミリオンは家を出ると、鳥に姿を変えた。ダミリオンの変身魔法のスキルはかなり高いが、それを知る者は少ない。変身魔法を使えることは、知られないほうが都合の良い魔法だ。エイドリアンにも今は秘密にしている。
ダミリオンは、エードリッヒ魔法学院を卒業後、兄の勧めで国の監視局員になった。監視局は、国に入った怪しい人物や、事件を起こしそうな人物の情報捜査などをする。起きた事件の捜査は捜査局の仕事だ。監視局の仕事は国内に限っているが、ダミリオンの天職と言っていいほど、自由度も高く、変身魔法のスキルも役立っている。
カベロ婆さんは、有名な占い師で預言者でもある。
老齢期に入ってからは、これと言った預言は出してないが、これまで多くの預言を的中させている。
預言といっても、大それた何かとは限らない。カベロ婆さん曰く、勝手に現れる事が多いらしい。それは近い未来のこともあれば数年先もあったり。占いは特定したい未来を予知するときや、透視が必要なときに行う。
真実を見つけることが決して簡単ではない情報を調べている監視局は、カベロ婆さんをかなり頼ってきた。何せ、カベロ婆さんの占いや透視は、かなり精度が高いのだ。
エルサードの東の森に、カベロ婆さんの家はある。ダミリオンの家からは少し距離があるが、鳥のダミリオンなら、スカーフやボードより速いので30分もかからないだろう。
満月が美しい夜空を鳥になって飛ぶのは、ダミリオンにとって、ちょっとした散歩気分だ。
東の森は静かで、柔らかい風に揺れる木々の音だけが、囁くように響いてる。森の奥に進むと小さな湖があり、辺りにカベロ婆さんの小さな家がある。
「(やった!明かりがついてる。今日こそ逃がさないぞ。)」ダミリオンは元の姿に戻ると、ゆっくり歩いて玄関に近づいて行った。
「いらっしゃい、待ってたよ。」
ダミリオンが玄関の前に着いた途端、カベロ婆さんがドアを開けた。意外な出迎えにダミリオンは驚く。
「わお!ビックリしたなー。俺ってわかってたの?」
「あたしもあんたに用があってね。まあ、入りなさい。」
カベロは婆さんと言っても、小洒落た可愛い老人だ。若い頃はかなりモテたであろう。女性らしい顔立ちに、うっすら紅を引いて、白髪の髪もツヤツヤに整えている。
ダミリオンは、カベロに言われるがまま家に入った。蜂蜜入りのお茶が、待っていたかのようにテーブルに用意してある。ダミリオンは椅子に腰掛けると、話を切り出した。
「カベロ婆さん、俺に嘘ついてたでしょ。」
「あたしゃ嘘は言わないよ。本当に死にそうだったからね!死にたい気分になるくらい、ハートが病んでたからね。あんたにゃわかんないだろうがね。」
「なあ婆さん、俺に婆さんの事はわかんねーに決まってるじゃん。俺じゃ相談相手には頼りないかもだけどさ。あんな嘘言わないでくれよ。マジで心配してたのに。」
ダミリオンは少しふくれっ面で言う。人懐っこいダミリオンは、突き放されるのは嫌なのだ。
「預言てのはね、時には見たくないものも見てしまうものさ。預言が現れるたび、未来が見えるたびに、言うべきか言わざるべきか、あたしゃ選択しなきゃならない。言うことで世界や運命が変わるからね。」
成る程、さすが婆さん色々考えてるんだなと思うが、ダミリオンの思考はシンプルに出来ている。それに、思ったことはストレートに言うが、決してネガティヴにならないのがダミリオンだ。
「婆さんて、繊細なんだな。みんなが良くなるなら、いんじゃね?未来がわかって、悲しい事が減るなら、俺は知りたいぜ。」
「そこが難しいところさ。誰かにとっての悲しみが喜びに変わっても、他の誰かにとっては、逆になるかもしれない。預言はただ起きる事の知らせであって、変えるかどうかはまた別の話なんだよ。世界は誰のものでもないからね。」
「でもさ、婆さんの好きにしていいんじゃねーの?婆さんが好きに選んでいいから婆さんに預言が来るんじゃねーのかな。もっと気楽にしよーぜ。」
「まったく若僧のくせにわかった風に言うね!まあ、あんたの言う通りさ。あたしゃ、今回の預言を言うことにしたのさ。あんたには、今からすぐ動いてもらうよ。」
「えっ、今から⁉︎」
「そうだよ。あんたがお茶を飲む間、詳しく話すよ。」
カベロ婆さんは、淡々と話してくれたが、ダミリオンにとっては驚きでは済まない内容だった。ダミリオンは思わず腰を上げ、声を荒げる。
「婆さん、そりゃ緊急事態じゃねえか!」
ダミリオンは早急に何とかしなくてはと、兄のアランに連絡を取ることにした。頭の中は半分パニックだ。
ダミリオンは、万が一のために、アランに直接繋がる緊急連絡用の人形の魔道具を持ち歩いている。「(まさか、コレを使う時がくくるとは!)」持ってて良かったと、ダミリオンが人形に付いてるボタンを押す。目をつぶっていた人形の瞼がゆっくり開く。
「兄キ!見えるか?めちゃめちゃ緊急事態の一大事だ!大急ぎの大至急の大事件だ!」
「ダミリオン、落ち着いて。ちゃんと見えてるから、わかるように話してくれ。」
人形に向かって喚くダミリオンに、冷静なアランの声が返ってきた。
慌てふためくダミリオンの様子をみたカベロ婆さんが口を挟んだ。
「私が話そうかね。この人形に言えばいいのかい?」
「う、うん。お願いします。兄キ、カベロ婆さんだ。話を聞いてくれ。」
ダミリオンは人形をカベロに渡した。
カベロは、今起きていることと預言のこと、すぐに動いてほしいことを話す。そして、もう少し先の預言については後で話すと伝えた。カベロとアランの話がまとまったところで、ダミリオンが人形を掴み取る。
「で、兄キ、俺どうしたらいい?」
弟らしい、兄に甘える口振りで聞くダミリオン。
「私が動くから、お前は家に帰ってろ。エイドリアンが1人だろ?直ぐに片付くから。また連絡する。」
「わかった!じゃ、婆さん、俺帰るから。またなー。」
アランに帰ってろと言われたダミリオンは、一目散に家に戻る。帰り立つ勢いの良さは、カベロが声をかける間もないほどだった。
「(兄キ、後は頼んだぜ!俺の脳みそが大丈夫じゃねーよ。帰ってエイドリアンと待ってよー。)」
一大事と言ってたはずだが、全てを兄に託したダミリオンは、アランの言葉に従い真っ直ぐ家に帰った。
⭐︎⭐︎⭐︎
その頃、北地域に行ったバイエルン達の状況はかなり大変な事態になっていた。
エルフの村は崩壊寸前になっており、瀕死の重傷を負ったエードリッヒを、ドーチが抱えてエルサードに連れ戻ることになった。バイエルンは、エルフの村を捜索しながら、エルサードからの応援を待っていた。
ドーチは来る時に使った魔道具を2本使って飛んだ。エードリッヒのマントを使って着地は無事だ。2本目で麓の草原に着地した。ドーチはエードリッヒを抱えたまま、エルサードの北門ゲートに向かってひたすら走る。
「(急がねぇと、少しでも早ぐ!もっと早ぐ!)」ドーチはゲート目がけて一生懸命ひたすら走る。
ようやくゲートに辿り着くと、血塗れのエードリッヒとドーチを見た門番達は慌てふためいた。
「大丈夫ですか!一体何が…」
息絶え絶えにドーチが言った。
「ハァハァ、急いでぐでぇ…三賢者に伝えでぐれぇ。エルフの村がぁ、持たない者ってやつにやられたぁ!エードリッヒは、イサヘルに見せてぐでぇ…バイエルンがぁ、イサヘルでねぇとダメだと…ハァハァ…」
「皆、聞いたか!緊急事態だ、急げ!防衛局に至急、応援要請をしろ!ドーチ、あなたも治療を。」
ゲートの門番達が慌しく動く。と、まるで見計ったように、防衛局の部隊がゲートにやって来た。青い服に身を包んだ特殊部隊とわかる制服を纏った七人の姿は、勇ましくも神々しく見える。
「凄いタイミングで来てくれました!」
門番のリーダーらしき男が、青の部隊隊長に挨拶をした。
エルサード防衛局の特殊部隊は、危険で困難な事態に対応する。7つある部隊は七人で編成されており、魔法のレベルや魔力も桁違いに秀でた強者の集まりだ。
青服は青の部隊と呼ばれている。隊長は素早く司令を出す。
「今より、我々、青の部隊が指揮を取る!三賢者には、すでに話は通っている。エードリッヒは神殿に運んでくれ。門番達はゲート強化レベル5で待機!青の部隊、私と3名は北エリアに向かい、3名はゲートで待機だ。ゲート待機中は、副隊長シーファの指揮に従ってくれ。」
「おおー‼︎」
青の部隊の登場に、門番たちから歓声があがる。
的確で素早い司令を出したのは、アランだ。青の部隊隊長であり、エイドリアンとダミリオンの兄のアランだ。
アランは特殊部隊に最年少で入り、最短で隊長になった。類い稀な魔法の才能に加え、男前な風貌は、エルサードではスター的存在だ。圧倒的な存在感に、端正な顔立ち。天は二物を与えずというが、この男には幾つ与えたのかと思ってしまう。そんな男がアランだ。
まだ息が荒いドーチは、その場にしゃがみ込んだまま、呼吸を整えていた。門番がドーチに回復薬の小瓶を差し出す。
「ドーチ!青の部隊が来てくれましたよ!もう大丈夫です、ご安心を。あなたも回復した方がいい。こちらを飲んでください。」
「俺ぁ、大丈夫だ。ハァハァ…。こりゃ、エードリッヒの血だぁ…、ハァハァ…。応援がいるんだぁ。エルフやバイエルンがぁ、待ってる。早ぐ、応援を連れていがねぇと!」
ドーチは回復薬の小瓶を一気に飲んだ。額から生汗が止まらない。ドーチの頭には、まだ先程までの出来事が走馬灯のようにグルグル巡っていた。
また落ち着かないドーチのもとに、アランが歩み寄ってきた。ドーチの肩に手を置くと、アランは優しく言った。
「ドーチ、急がせるが準備が出来たら、すぐ出発しよう。大体のことは、カベロ婆さんに聞いて把握している。案内を頼むよ。」
「ああ…。あたりためぇだぁ。アラン、お前ぇが来てぐれんなら、大丈夫だぁ。」
語らずとも、全て任せろという安心感を与えてくれるアラン。ドーチも少しほっとしたのか、瞳にジワジワと涙が溢れてくる。しかし、感傷に浸ってはいられない。バイエルンとエルフ達を少しでも長く待たせたくない。
「うっ、すぐ出れる。行ぐぞ!」
涙を拭きながら、ドーチはしっかりと立ち上がった。
間違いを修正>_< 小さな間違い多発の未熟な私です。読んでくださってありがとうございます。