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調律魔導師バイエルン  作者: BOTAN
2/14

新入生入学歓迎パーティー②

 「ハジマルヨー、ライブダヨー」 「ハジマルヨー」

 

 カラフルな鳥たちが、次の予定を喋ってまわっている。

 今から、上級生の余興のライブだ。食事もほぼ終わり、大半のテーブルは片付き、いつの間にか広場中央にはステージが用意されていた。


 バイエルンも先生の任務を果たし、広場を見回っていた。ゆっくり歩いてくるエイドリアンを見つけたので、声をかけてみる。


「エイドリアン君、楽しんでますか。」


「う、うん。お庭が…綺麗だった。」


「エイドリアン君、何を持ってるんですか?」


「こ、これはね…、友だちになったの。」


 両手を合わせて隠すように、何かを持っているエイドリアン。手をバイエルンの顔に近づけて、嬉しそうに両手の隙間を開けた。隙間から中を覗くと、小さなカエルが見えた。


「エイドリアン君、お友だちは暫く僕が預かりましょう。今からライブが始まりますから。音も煩いですし、人混みに連れてはいけません。」


「あ…、で、でも…。」


 エイドリアンの寂しそうな表情に、バイエルンは罪悪感を感じ、胸がキュンとなる。

「(はぁー、またやべーよ、つい甘やかしたくなる!)」


「後でちゃんと返しますから。それに、もし落ちたりして誰かに踏まれでもしたら大変です。エサもあげないと。」


「そ、そうですね…、お願いします。」


 エイドリアンは素直にカエルを渡した。バイエルンは、受け取ったカエルを胸のポケットに入れ、逃げないように片手でポケットの口を軽く抑えた。


「そうだ、タイガ君!こっちへ。」


 バイエルンは、丁度いい所に適切な人材を見つけた。タイガを手招きして呼ぶと、まん丸く目を見開きながら、黒髪を揺らし足取りよく飛んで来た。ハツラツとして見るからに活発そうだ。


「先生、オレに何か用?」


 声も元気いい。


「エイドリアン君を一緒に連れていってくれないか。エイドリアン君、彼はタイガ君。君と同じ新入生だ。一緒に行くといい。」

 

「オーケー、任せて!よろしく、エイドリアン。あっちでライブ見ようぜ。」


「う、うん。」


 タイガはエイドリアンの肩に馴れ馴れしく腕をかけながら、こっちだと引き連れて行った。エイドリアンはタイガの勢いに押されながらも、なぜか悪い気はしなかった。何より、つまづかないよう歩調をあわせて付いていくのに必死だった。


 


⭐︎⭐︎⭐︎




 バイエルンは、カエルを受け取ると直ぐにエードリッヒ学院長の部屋へ向かい、ノックもせず勝手に入った。


「どうしたんだい。」


 エードリッヒは来客用のソファに横たわり、うとうと眠りかけていた。


「これを。」


 バイエルンは、カエルをエードリッヒの目の前にあるテーブルに出して見せた。カエルは大人しくじっとしてしている。

 エードリッヒは、半分しか目が開いてない。横たわったまま、目の前に置かれたカエルをボッーと眺める。


「ほー、これは可愛い侵入者ですねえ。」


「ストーカーです。」


「誰の?」


 ストーカー?エードリッヒはボヤけた思考のまま言葉を返す。侵入者と言いながら、警戒する様子もない。


「オメェ、ダミリオンだろ。早く姿現せ。」


 バイエルンが粗雑な言い方をすると、カエルの形が崩れ、みるみる赤毛の青年の姿に変わっていく。

 エイドリアンの兄で3兄弟の次男、ダミリオンだ。エードリッヒ魔法学院は、一昨年卒業した。


「バイエルン先生、よく俺ってわかりましたねー。学院長、お久しぶりでーす。相変わらずお美しい!」 


「オメェの()はインプット済み。用件は?わざと捕まっただろ?」


「相変わらず察しが良すぎるとこ、好きだなー。」 


 そう言いながら、ダミリオンは向かいの椅子にどっかり腰を落とす。エードリッヒは開かない目を擦りながら、


「ダミリオン君、元気そうで何より。普通に入ってくればいいのに。なんでカエルなの?」


「あははー、エイドリアンに来ないでって言われちゃって。」

 

「今日は、監視局の仕事はないのかい?」


「そうそう、それな。仕事中でもあるからして、公にも姿を現せず…。」


 ダミリオンは明るい口調で悪びれなく話す。


「なんでカエルにしたの?」


 エードリッヒはカエルになったことが気になったのか、もう一度聞く。ダミリオンの返事より先に、バイエルンが声を上げた。


「オメェ、仕事ならすぐこっち来い。何でエイドリアンに付いてんだ?ストーカーしてただろ?」


「バイエルン先生、俺にもエイドリアンみたく優しくしてくれよー。っつか、マジ、俺の弟可愛いくね?」


 日頃は丁寧に話すバイエルンだが、ダミリオンには気心が知れてるのか粗雑な物言いだ。気遣いのない物言いに、ダミリオンが気にする様子もない。


「弟が可愛いのは認めるが、ストーカーはダメだ。それより用件は?」


「まあまあ、そんな急かさない。もうちょっと俺を歓迎してよー。」


「オメェは、厄介な面倒事しか持って来ねーだろ。」


「まあ、早く話してくれないと、私も意識が保てない…」


 眠りかけていたエードリッヒも話しを急かす。


「学院長、もうちょい頑張って!寝ぼけて聞いてもいいからさ。実はさ、ちょっと厄介な件が発生してさ。先生方にご協力願おうって話なんだけど。」


「オメェ、やっぱり厄介じゃねーか。内容はなんだ?」


 バイエルンがぶっきらぼうに言う。


「それは、ご協力いただいてから詳しくお話しさせてもらいますよ。」


「オメェ、ざけんなよ。オメェのはどんだけ面倒臭えかわかってんのかよ。」


「俺もね、好きで頼んでる訳じゃなくって、仕事だからさー。此処にお願いに来るの、なんでか俺の係みたいなってるし。だけど今回はさ、俺からもお願い!まだはっきりとしないけど、俺は11年前の事件と関係あるとみてる。」


 明るい表情がわずかに曇り、ダミリオンが頭を下げる姿は、眠気で薄くなるエードリッヒの視界でも認識できた。


「なるほど…いいでしょう。」


「さすが学院長!寝顔も美しいっすよ!でさ、北出身の先生や生徒のリストが欲しいんだ。北に親戚いるとか、短期でも行ったことある奴とかも全部出してくれたら、めっちゃ嬉しいんですけど。」


 返事をもらうとすぐに調子のいいダミリオンに戻り、ここぞとばかりに話しを進めていく。


「わかりました。リストは3日以内に対応しましょう。バイエルン、後は頼む。私は…まだ眠い…。」


 エードリッヒは完全に目を閉じた。


「コイツは暫く起きねえな。ダミリオン、学院で何を見たか、全て教えてもらおうか。」


 バイエルンが冷たい口調で冷たい眼差しを向ける。


「たいしたことは見てねーって。それより、さっきの続き!

監視局にはいつ来てくれる?俺、返事持って帰らなきゃ。」


「リストと一緒でいいだろ。3日後にしとけ。ストーカーのほうが問題だ。オメェはよ、学院生のときから面倒や問題が多いんだよ。」


「ストーカーはしてないって!来たついでにエイドリアン見ておこうと思っただけだよー。俺ってバレちゃヤバいし、小さくなるのにカエルしか思いつかなかったのよ。

 でもアイツ、俺のことカエルさーんって呼んで追いかけ来てよー。もう14歳にもなって、学院で最初のお友だちだよーとか、あの可愛いすぎる笑顔で言うんだぜ!」


 デレデレ嬉しそうに話すダミリオン。エイドリアンに対する気持ちには、バイエルンも納得してしまう。


「そういや、アランはどうしてる?」


「兄キは、多分暫く帰ってこれそうにないな。今朝、父さんに呼ばれてたから。」


「オメェも色々大変だな。エードリッヒの奴、こりゃ本気で寝やがったな。」

 

 エードリッヒの寝息がグーグーと音を立て始めた。


「先生がいるからじゃねーの。最近、寝てなかったのかな。」


「朝から学院長様の挨拶やったからな。日差しも強かったしな。オメェ、見たんじゃねーの?おまけにオメェがまた忙しくさせるしな。コイツのことだ、起きたらすぐ動くだろうから、エナジー蓄えてんだろ。」


 話しながら、バイエルンはお茶を入れ始めた。勝手知ったるようだ。


「挨拶は見れなかったな。広場に着いてエイドリアン見つけたらさ、バイエルン先生が離れていくときだったよ。」


「本当だろうな、ストーカー疑惑はまだ晴れてねえからな。後でカエルになれよ、おんなじカエルにな。エイドリアンの悲しい顔はみたくねー。」

 

 先程見たエイドリアンの寂しそうな表情が頭を過ぎったバイエルン。カエルを返す約束は守りたいのだ。


「次は普通に入れよ。」


 バイエルンは念押しした。


「オーケー、オーケー。」


 全く懲りてないダミリオンの様子に、呆れたのか諦めたのか、バイエルンはお茶を差し出した。


「ま、茶でも飲んでけ。エサやるって言ったしな。」


「おやつないの?」


「オメェ、ほんと厚かましーな。」


 そう言いながらも、バイエルンは戸棚から菓子を見つけてきて皿に出す。


「カベロ婆さんとこには、行ってねーのか?」


「うん、体の具合が良くない。もう年だし、あまり無理はさせられないしさ。最近は、こっちから依頼しないようになってさー。婆さんに呼ばれたときは行くけどね。」


「オメェ、そりゃ騙されてるぞ。あの婆さん、あと100年は生きるぜ。いい男でも見つけたか、サボりてーだけだろ。」


「マジで⁉︎俺、最後に会ったとき、寝たきりってベットで死にそうな顔してたけど…」


「オメェの面倒事から逃げたかったんだろうよ。」


「そんなこと…わざわざするかな?」


「あの婆さんなら、する。監視局続けるなら心得とけ。」


 ダミリオンはがっくりと肩を落とした。自分がつく軽い嘘のレベルではないのだ。後でカベロ婆さんに会って確かめようと決めた。


「オメェ、もうすぐカエルになる時間だぞ。エイドリアンから上手く離れろよ。」


「確かに…。そこは、あんま考えてなかったわ…。」


 2人は静かにお茶を啜った。









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