始まり
「うわぁ、ホントにひどいありさまだなぁ」
「仕方ないさ。モンスターに襲撃されて、領民もみんないなくなっちまって、おまけに領主もいつの間にかどっかに行っちまってたんだろ?」
「ほんとにご愁傷さまって感じだな。まあ運がなかったってことか」
「しっかし、この土地はどうするんだろうな」
「ほんとだぜ、なんとかモンスターは撃退したけど、このままだといつかここに住みついちまうぞ」
「うわっ、それだけは勘弁してほしいな」
「じゃあ、お前ここに住むか?」
「冗談きついぜ、今のレオルタに住みたい奴なんかいるわけないだろ?」
「ま、それもそうか」
と、農民に好きかって言われていたレオルタは、今や人ひとり寄り付かない廃墟となっていた。しかし、このままだと困る人が一人いる。そう、この国を治める国王である。寂れているものの、広い土地(管理が大変で密入が多い)や作物が育ちやすい気候(モンスターにとっても良い)を手放すのはもったいない。そこである一人の人物が招集された。
「お呼びですか、王様」
「おお、よく来てくれたな、スパーロ」
スパーロと呼ばれたこの男は転生者である。前世では厳しいと有名なジムトレーナーで、この世界でも剣術や格闘術を学んで傭兵の育成を行っている。
「実は、東の方にあるレオルタという街なのだが」
「ああ、最近魔物の襲撃に遭ったとかでもぬけの殻になっているあそこですか」
「そこの領主になってほしいのだ」
「なんですとぉーー!?」
素っ頓狂な声を上げるスパーロ。それもそのはず、彼は人材育成こそ得意ではあるが、経営や統治は全く経験がないのである。
「で、では、経営と統治に長けた補佐官の同行を願います」
「心配せずとも初めからそのつもりだ、もうすぐ来るであろう」
すると、扉が開く音がした。待ってましたとばかりの顔をする王様をみて、スパーロも後ろを振り返った。
「お待たせしました。準備に手間取ってしまって」
「構わん。スパーロよ、こちらが政治担当のクローネだ」
「あっ、は、はい!よ、よろしくお願いします」
見ると、そこにいたのは手入れの行き届いた白髪にすらりとした手足、それでいてただものではない雰囲気を醸す一人の青年がいた。スパーロはその迫力に思わず頭を下げた。
「そんなかしこまらないで下さいよ、僕はあなたの部下なんですから」
「ああ、そうだったな、すまない。あまりに堂々としていたものでつい」
「ふふっ、すいません。この年齢で政務官をやっていると、何かと厄介ごとがあるもので」
柔らかな雰囲気を崩さないこの青年に、スパーロは確かな実力を見出した。
「なるほどな、改めて、これからよろしく頼む」
「はい、こちらこそ」
しっかりと握手を交わし、二人の領地改革はスタートした。