短編小説 こんな話を聞いた「ラーメン」
毎月25日になると、必ずやって来る老人がいる。決まって醤油ラーメンだ。「ラーメン」と一言注文し無言で食べていく。その食べ方は、実に不味そうな食べっぷりだ。眉間にシワを寄せ、いわゆる苦虫を潰した様な表情で食べる。
「そんなに不味いなら食べなきゃいいのに」
先輩は呟いた。
ある時、その老人がめずらしく話しかけてきた。
「にいちゃん、俺の顔黒くないかい?」
「少し黒いですね。日焼けでもしましたか?」
「やっぱり黒いか…」
「原爆の光、浴びたからかな」
「何ですか?」
「俺、昔、長崎に居たんだよ」
「……よく助かりましたね」
「防空壕の一番奥に居たからな、」
「あの時、いつものように空襲警報が鳴ってさ、俺ら、また鳴ってら〜と思って渋々防空壕に入ったんだよ。そしたら、もの凄い音と熱風が吹いてさ地震がしたんだよ。次から次へと人が入って来てさ、一番奥になっちゃたんだよ。前の方の奴ら溶けてたよ」
「……おじさん、何歳なんですか?」
「90歳だよ」
「90まで生きたら、超長生きすっよ。影響ないすっよ、」
「……」
しばらくして、その老人は来なくなった。
「あのじいさん来なくなったな。清々したよ」と先輩が呟いた。
「……」
ある月25日、中年の男性がやって来た。
「ラーメン」と注文した。
男性は、黙々とラーメンを食べた。
「お勘定、」男性はお金を渡した。
「にいちゃん、ラーメン美味しかったよ」
「ありがとうございます」
「……親父の言ってたとおりだ」
男性は去って行った。