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今度こそ――

 

「……おにぃ……」


 真っ暗な暗闇の中。

 聞き慣れた声がぼんやりと聞こえてくる。


「お兄ってば!」


 声とともに体を揺すられ、意識が次第に覚醒(かくせい)していく。

 目を開くと、目の前には三つ年が離れている妹の顔があった。


「……シスタ……おはよう……」


「おはよ。朝ごはんできたからいい加減起きて」


「あぁ……」


 妹のシスタは俺を起こすと部屋から出て、一階にバタバタと降りていった。

 寝ていた体を起こし、部屋を眺める。

 ベッドの感触……部屋の匂い……妹の顔……。

 胸元に触れると、青い宝石がついた指輪のリングネックレスが首にかかっていた。


「……」


 寝癖でボサボサの髪を掻きながら部屋を出て、階段を下りていくと少しずつ騒ぎ声が聞こえてくる。


「あっ、リアンが起きてきた」


「みんな突撃だー!」


「「「わぁぁぁぁー!」」」


 一階のリビングに顔を出すと、幼い子供たちの中では年が上の方のしっかり者のレイラがこちらに気が付き、レイラと同い年のガキ大将的立場のグレイの掛け声によって他の四人の子供たちがこちらに向かって勢いよく走ってきた。

 本人たちはタックルのつもりなのだろうが、複数人とはいえ相手は一メートル程度しかない幼い子供たち。


「おっ、とと……」


 少しだけふらつきながらもタックルしてきた子供たちが転んだりしないように優しく受け止める。

 起きてきた人にみんなでタックルをするというこの家の幼い子供たちによる毎朝恒例の謎の流れだ。

 タックルしてきた四人の幼い子供のうち、男の子二人がカイルとフェイル、女の子二人がリーンとアリシャという名前で、四人ともまだ十歳にも満たない子供だ。


「「「「おはよ!リアン!」」」」


「あぁ、おはよう。今日もみんな元気だな」


 子供たちが俺の顔を見上げて挨拶をしてくれたので、俺も子供たちに挨拶を返す。

 一人ずつ頭をわしわしと撫でてやると無邪気に嬉しそうにしてくれた。


「リア、また寝坊?」


 子供たちの頭を撫でていると、呆れを若干孕んだ声が聞こえてきた。

 幼い子供たちから顔を上げ、テーブルの方を見ると、テーブル席についていた三人がこちらの様子を眺めていた。


「もういい歳なんだから、いい加減一人で起きなさいよ」


「まあ、そう言ってやるな、サラン。別にいいじゃねぇか。寝る子は育つって言うしな」


「親父殿は甘過ぎるよ。早起きくらいはそろそろ出来なきゃ、ね?リアン」


「そうだね、モナ姉。ごめんな、サラ」


「別にいい……。こんなことでいちいち謝らないで」


 どこかツンケンしていて、綺麗な銀髪をもみあげが少し長いショートボブにしているのが二つ年下のサラン。

 俺を優しく諭してくれて、雰囲気がのほほんとしている明るい栗色の茶髪のハーフアップが二つ年上のモナこと、モナ姉。

 緩く落ち着いた雰囲気でこの家の子供たちの中で一番の年上でもあることからこの家ではお姉さん的存在になっている。

 そして、モナ姉に親父殿と呼ばれたボサボサの黒髪をかきあげている短パンアロハシャツを着た無精髭(ぶしょうひげ)がこの家で唯一の大人である親父だ。

 三人とも既に朝食を食べ終えているようで、食後の飲み物が三人の前に置かれている。


「三人ともおはよう」


「おはよ」


「おう」


「おはよ~」


 サラは顔を背けながら、親父は明るい笑顔で、モナ姉はのほほんとした穏やかな雰囲気でそれぞれ三種三様な挨拶をしてくれる。


「お兄。冷めちゃうから早く食べちゃってよー」


「あぁ、わかってる」


 台所で既に子供たちが食べ終えた皿を片付けていた妹のシスタに早く朝食を食べるように急かされた。


「ねえ、ヴィルは?」


「外でまた分厚い本読んでるー」


「またぁ?朝ご飯だから誰か呼んできてくれない?」


「ご飯いらないって言ってたよ?」


「えー……せっかく作ったのにぃ……。じゃあ、お兄たちで食べちゃってよ」


 そう言って、いつも本を読んでいる変わり者の十二歳・ヴィルの為に作った朝食がテーブルに置かれた。

 俺が朝食が置かれている席に着こうとすると、外へとつながる扉が開け放たれる。


「みんな、おはよ!」


 扉から首にマフラータオルをかけた銀髪の少年が現れた。

 俺と同じ十七歳のロウ。

 おそらく毎朝の習慣になっているランニングの後に汗を流すためにいつも通り近くに流れている川で水浴びでもしてきたのだろう。

 髪がびしょびしょに濡れていた。


「ロウだー!」


「ロー!」


「くっらえー!」


 幼い子供たちは俺にもしたようにその少年に向かって次々とタックルしていき、少年の周囲に群がっていった。

 少年は群がる子供たちを嫌がる様子もなく、挨拶をしながら頭を撫でたりして一人ひとり相手をしている。

 その様子を眺めていると少年はこちらの視線に気がつき、笑顔を向けてきた。


「おはよう、リアン」


「あぁ。おはよう、ロウ……」


「ロウも朝ご飯できたから早く食べちゃってよ」


「うん、わかった」


 ロウは首にかけていたタオルで濡れた頭をしっかりと拭きながら、サラとモナ姉と親父の三人に挨拶をして、自分の朝食が置かれている席に着いた。


「よーし!みんな外で鬼ごっこやるぞー!」


 幼い子供たちはガキ大将のグレイの先導によってワイワイと騒ぎながら外に出ていった。


「危ないからあまり遠くには行かないようにねー!」


「わかってるー!」


 モナ姉の注意にグレイが走りながら手を挙げて答え、幼い子供たちは賑やかに走っていった。

 人里から少し離れた山の中にある無駄にデカいこの家には俺も含めた十人の子供と一人の大人が暮らしている。

 俺たちは家族のように何年もこの家で一緒に暮らしてきたけれど、実はこの家にいる人間には血の繋がりがない。

 俺と妹のシスタだけは唯一血の繋がりがある実の兄妹だが、他の家族とは血は繋がっていない。

 血の繋がりもない俺たちが一緒に暮らしているのには理由がある。

 それはこの家に暮らしている子供は誰一人例外なく、この家の唯一の大人である親父に引き取られてこの場所にいるからだ。

 親父が引き取ったとは言ってもこの家は孤児院のような立派な施設じゃない。

 この場所は文字通り、ただ親父が拾ってきた捨て子や戦争孤児が住んでいるだけの家だ。

 親父は三十代で結婚していてもおかしくない歳なのに未だに独身のままで、そのくせ一人でいるのは寂しくて、騒がしいのが好きだからと、身寄りのない捨て子や戦争孤児を拾ってきてはこの家に住まわせて、育てている。

 言ってしまえば、変人だ。

 親父は俺たち孤児を住まわせているのはただの趣味だと言っていたけれど、犬や猫じゃあるまいし、人間の子供を拾うのが趣味とは悪趣味にも程があるだろう。

 けれど、この家に住んでいる子供たちは全員、親父がいなければ野垂れ死にしていたかもしれない命だ。

 俺も親父の悪趣味に命を救われた一人だから文句は言えない。

 この家の人間はみんな親父に救われた。

 だから、この家にいる子供たちは血は繋がっていないけれど、親父のことを親父やお父さん、パパなどとそれぞれが呼び、親父のことを本当の父親のように慕っている。

 全員、命の恩人である親父には感謝しているのだ。

 俺はこの家にいる人たちが好きだ。

 幼い子供たちは外で和気あいあいと楽しそうに遊んでいて、俺とロウはシアンの作ってくれた朝食を食べている。

 サランとモナ姉は会話に花を咲かせ、妹のシアンは子供たちが食べ終えた皿を洗い、親父はこの家で飼っている蒼眸鳥という薄らと水色がかった白い羽と透き通るような青い瞳が特徴的な鳥に餌を与えていた。


「……」


 今度こそ……今度こそ――。


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