誰かが側にいるだけで
「二人で夜更かしなんて、
一度してみたかったので、
冬花が居て本当に良かったです。
一つ夢が叶いました。」
普段、大人びた姉の存在が
少し幼く感じた。
「心を許せる人が隣に居てくれるだけで、
それはとても有難いのです。」
そして、気が緩んだのか
彼女は昔話を始めた。
「昔、
私には契りを交わした方が居りました。」
「戦争の多い事、
私の家族は幼き時に亡くしました。」
「身寄りのない私は
親族に引き取られましたが、
その方達は私を便利な物としか
見ていませんでした。」
「私は彼らに虐げられ、
こき使われる日々を過ごしていました。」
「そして、成人と認められる歳になった時、
ある殿方に差し出されました。」
「心が荒んだまま大人になった私は、
未来にも他人にも
期待などありませんでした。」
「これからも道具のように使われる事しか
思い浮かびませんでした。」
「そんな様子を察したのか、
彼は私に手を付けませんでした。」
「寧ろ、私の事を気にして、
いつも優しく接してくれました。」
「いつでも、
私を見ては声をかけてくれる。」
「ずっと見られなかった、
野に咲く草花、満天の星空も、
青く染まる海も、教えてくれました。」
姉の眼は涙ぐんでいた。
「誰かが側に居てくれるだけで
本当に嬉しいのです。」
そう言って、
潤った眼を私の方に向けて微笑む。
「何?そんな顔して。笑いなさいよ。」
両頬を横に、にいっと引っ張られた。




