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春の御前
「この景色に
見惚れてしまうのも分かります。
春を司る神様も、この景色をお気に召し、
この場所に住まわれたようです。」
振り向くと、鳥居があった。
境内は辺りの雪景色と異なり、
花は咲き、草木が生い茂っていた。
「さあ、行きましょうか。」
彼女が目を伏せて行く様子を見て、
作法を知らない私は少し戸惑った。
「私の動きを真似してください。」
と言われ、彼女をじっと見ながら進んだ。
鳥居を潜ると春のような暖かさがあった。
石階段の両側には桜の花弁が舞っている。
だが彼女を真似しようと必死な私には、
それを見て楽しむ余裕はなかった。
「そんなに緊張なさらなくてもいいのに。」
少し困ったように言う声が聞こえた。
本殿の前に着くと、膝をついて伏せた。
襖の奥に暖かな気配を感じると
彼女はその存在に向かって話し始めた。