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五月闇
あれ、私はどうして此処に居るのか。
もう、疲れていたのに、
あの雪山で倒れて死ぬのだと思ったのに。
「冷えますよ。」
春風が隣に座る。
空は黒く厚い雲に覆われていた。
「私は、忘れようとしていました。」
「凜、私と暮らしていた人の言葉、
『悪い事をして生きるくらいなら、
良い事をして死んだ方がましだ。』」
「その言葉に従っても逆らっても、
上手くいきませんでした。」
「だから、一人で生きることにしました。」
「でも、長い道のりに歩き疲れました。」
「あの時、雪山の月や星たちを
見て眠ろうと思いました。」
「私は全てを捨てようとしていました。
私を育ててくれた人の思いも、
人を裏切った時の苦しみも、
全部全部背負うのが苦しくて、
此処に来たはずなのに、
まだ苦しまなければならないのですか。」
「どうして生きているのでしょうか。」




