12/138
宵の風
「あら、珍しいですね。」
夕暮れ時、春風の声が後ろから聞こえた。
「ただいま戻りました。」
「梅、桃、桜の花が一斉に見られることは
滅多にありません。」
と言いながら、横に座り私を見る。
着物はくたびれ、目の下には隈があった。
「ごめんなさい。急用で、
早朝に出る必要がありました。
「夏鳥や秋月に任せていたのですが、
私がするべきでした。」
私の頭を撫でて寄せる。
ついついしがみ付くかのように
寄ってしまった。
そうして、
日の落ちる庭を眺めていたのだが、
あまりに疲れ切っていたのだろう。
夕陽が沈むのに合わせて、
私に凭れるように
すやすやと眠り込んでしまった。




