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道具として生きた記憶
此の人形は私の声に素直に応じ、
割方鮮明に読み取ることができた。
慈雨は人の苦しみを取り除く道具だった。
とある呪術師が苦しむ者達を救う為に
自身を改造し、
他人の痛みに共感する事で
自身に苦しみを移し替える
道具としての子供を産み続けた。
慈雨は其の中でも
特異な性質を持って生まれた。
感情を消し去り、
他人を魂の抜けた様な人形へと変える。
いや、他人の感情を自身の感情に
移し替えて仕舞うのだ。
呪術師が手に負えないと放置した後、
これ程強力な力を利用したい者が
争いを始めた慈雨を奪い合った。
流れ込んだ感情は限界を超え、
慈雨は何も感じなくなった。
直前に流れ込んだ誰かの
誰も争わないでほしいという思いが
鮮明に焼き付き、
今と変わらぬ様子となった。
彼の魔法使いが見つけ、
慈雨の部屋にあった人形を
容量が限界となった感情を
移し替え、外に放つ道具にした。
そして今に至る。




