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『絶対』

美紅「早くっ!もっと早くっ!!」


美紅は、血塗れの渡辺恵美を抱えて、チヒロの家に向かっていた。


3階の教室を飛び出し、階段を下に降りずに、上へ進み屋上へ昇った。


いくらスピード強化型のスーツだとしても、普通に道を進んで遠回りをするなんてことは考えもしなかった。

ただ一直線にあおいのいるチヒロの家に行くことしか。


正直、スーツの性能もわからない。

跳躍してビルや屋根の上を走って行けるのか不安はあった。


しかし、美紅は見事にそれをやってのけた。

スーツも、それをこなせるぐらいの跳躍力や反射神経を強化してくれていた。


『このスーツ凄い・・・』


そう思った時には、学校から徒歩15分のチヒロの家に、1分もかからずに飛び込んでいた。


あまりにも速かったせいで、あおいも花も美紅が変身して近付いて来ていることに気が付いた時には、もう部屋に入っていた。


美紅「あおい・・ちゃん、はぁ・・助けてっ!」


さすがに息切れしながら美紅が言う。


子猫とインコがびっくりして目を見開く。


あおい「ど、どうしたんだっ?」

花「は、はいっ!美紅さまっ?!」

美紅「恵美をっ・・恵美を助けてっ!はぁはぁ・・」


あおいの前に恵美を静かに降ろし、変身したまま跪いて必死で言った。


見知らぬ子だが、血で赤黒く染まった制服を見て、ただならぬ事態が起きていると思ったあおいは、美紅を見て頷いた。


あおい「まかせて!」


そう言うと、なぜか美紅の姿に化け、片手を恵美の血塗れの服の上に、反対の手を美紅の頭の上に置いた。


その両手が光りだす。


あおい「この子は大丈夫!」


美紅に美紅の姿のあおいが笑いかける。


あおい「頭や脊髄がやられてたらまずかったけど、刺し傷は応急措置でほぼ塞がってたし、血液はこの子の血液を利用して増やす大丈夫!後遺症どころか傷すら残らないよ」

美紅「はぁはぁ・・よかっ・たぁ・・・」


美紅は変身を解くと、ヘナヘナと崩れ


美紅「あれ・・また・・力が・・」


意識はあるが身体に力が入らなくなり、恵美に並んで寝転がってしまった。


花「はいっ!美紅様っ?!大丈夫でございますかっ?!」

あおい「スーツの能力を限界近くまで出したみたいだね・・でも、理由はそれだけじゃなさそうだな・・」

美紅「で、でも、私・・戻らなきゃ・・」


必死で力を込めるが、身体が全く動かない。


あおい「大丈夫!巨乳の先生は僕らの仲間みたいだから、チヒロのことは大丈夫だと思うよ!」


きょとんとする美紅


美紅「え?わかるの?」

あおい「うん!今、美紅の頭を読んだからね!事情は理解したよ!」

美紅「す、凄いんだね・あおいちゃん」

あおい「・・・余計なことまで読んじゃうのが玉にキズなんだけどね!」


あおいの顔にゲスい笑みが浮かぶ。


美紅「え?ま、まさか・・」


美紅の顔がひきつるが、それを無視して花を見ると


あおい「花、僕はまだ治療に時間がかかるから、チヒロを見て来てくれないか?」

花「はいっ!かしこまりましたっ!」

あおい「大丈夫だとは思うけど、念の為に!」

花「はいっ!」


花はそう言い残すと、カラフルな翼を羽ばたいて窓から飛び出し学校へと向かった。





その頃、正直、チヒロは大丈夫じゃなかった。


羽と言うより翼に近い金色のものが目の隅に映り、それが自分から生えていることにはすぐに気がついた。


『さっき先生がくれたパーツだな』


それはわかった。

それはわかったんだけど・・・


急に増えた翼でどうやったら飛べるのかどころか、動かし方すらわからない。


ホクゲ「なんだその出来損ないのスーツはっ?」


ホクゲが笑った。


『やばい・・・』


汗が止まらない・・・


『えぇいっ!やけくそっ!』


両翼を掴むと、盾のようにしてホクゲに向かって走りだした。


チヒロ「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」

ホクゲ「く、来るなぁぁぁっ!」


針が飛び、翼に当たって爆発する。


『お!イケるっ!!』


爆発しても翼はビクともしないことを知ると、そのままホクゲに体当たりをして体制を崩すことに成功し、勢いのまま森に入った。


チヒロ「よしっ!ステルスっ!」


すかさず少ない機能の1つを作動する。


実はチヒロが考えるだけでスーツの機能は作動するのだが、そんな説明をあおいにしてもらっていないチヒロは、とりあえず口に出して言った。


まだフル装備ではないので迷彩柄になるだけだよとあおいが言っていたが、その迷彩柄を森で利用しようと考えていた。


そして、その作戦は見事に成功し、追いかけてきたホクゲはチヒロを見失った。


ホクゲ「どこに行ったっ?!」


完全に人の姿ではなくなり2本足で立つ針ネズミになっているホクゲは、人でいう胸のあたりに顔がある為、身体ごと左右に動いて周りを見回している。


ホクゲ「くそっ!どこだ緋色っ!」


チヒロは、木の上からホクゲを見ていた。


なんとなく力任せに両手で掴んでいる翼を扇いでみたら、木の上に飛び乗ることができた。


『でも、ここからどうする・・・』


強化されている外装は、目と口、そして股関節のみ。


手や足が強化されているのであれば、パンチやキックで攻撃することもできたであろうが、現状ヒップアタックか、おっぴろげジャンプか・・・


ホクゲが検討違いの所を手当たり次第に針で攻撃しているのを上から見ながら必死で考えていた。





花は、学校内にチヒロの反応がなかった為、小さな爆発音が複数聞こえる学校裏の森に飛んできた。


真っ黒な大きい針ネズミが、何か叫びながら木々を小さく爆発させている。


『はいっ!あの化け物が美紅様達を襲った奴ですねっ!』


森の上空を回りながら、チヒロを探した。


森の中にチヒロの反応を感じる。

でも姿が全く見えない。


『は、はいっ!チヒロ様っ!どこにいらっしゃるのでしょうか?』


チヒロは自分がどうなっているのかを気付いていなかった。

『ステルス』機能は、チヒロのスーツを迷彩柄にした訳ではなく、保護色となり、チヒロの姿は景色と同化していた。


足は木々の色に。

右腕は葉の色に。

身体の左側は空の青に。

完全に溶け込んでいた。


花「はいっ!チヒロ様っ!どこにいらっしゃるのですかっ?」


探しきれずに小声で言った花の真下にチヒロはいた。


チヒロ「花っ!ここだっ!」

花「はいっ?!どこですかっ?」

チヒロ「ここだよっ!」


意識した為に保護色が解け、姿を見せたチヒロ。


花「はいっ!チヒロ様発見ですっ!」


花が近付く。


ホクゲ「そこにいたかっ!」

チヒロ「やべっ!」


見上げたホクゲが針爆弾を飛ばし、チヒロは近付いてくる花を庇う為に乗っていた木を蹴った。


『あ・・落ちるっ・・』


片手で花を抱え、翼で針を塞ぎながら思った。


チヒロの身体はもちろん重力に逆らえずに落下し、5メートル程の高さからおもいっきり地面に激突・・


寸前にふわりと、そしてゆっくりと足から着地した。


チヒロ「あ、焦ったぁ・・」


翼の性能のおかげで助かったのは言うまでもない。


花「はいっ!チヒロ様ありがとうございますっ!」

チヒロ「とりあえずオレの背中に隠れてろ!」

花「はいっ!」


花がチヒロの後ろに回り


花「はいっ!チヒロ様にも翼が生えてますっ!」


そう言って翼の根元辺りを足で掴んだ。


花「はいっ!この翼で軽ぁるくやっつけちゃってくださいっ!」

チヒロ「お!その手があったか!」


攻撃方法を思い付いたチヒロは、ホクゲに向き合った。


チヒロ「ホクゲっ!いや久家先生!なぜオレ達を攻撃したんですかっ?」


真っ直ぐにホクゲだった者を見た。

仮に攻撃されたとしても聞きたいことがあった。


チヒロ「なぜ今になって正体を現したんですか?」


その問いをホクゲも真っ直ぐにチヒロを見て聞いている。


チヒロ「先生の姿で隠れていればよかったんじゃないんですか?現にずっと人間のフリをして生活してきたんじゃないんですかっ?」


最後の方は叫び声に近い。


どちらかと言えば好きな先生だった。

今年も担任が久家先生でよかったと喜んでいた。


でも、恵美に危害を加え、美紅を泣かせたことは何があっても許せない。

だからこそ絶対に聞いておきたかった。


チヒロ「答えろよっ!」


チヒロが叫ぶ。


ホクゲ「緋色・・駄目なんだ・・」


ホクゲが呟くように答える。


ホクゲ「駄目なんだよ・・あの御方が来たら、私みたいな小者は何かの役に立たないと消去されるんだよ・・」

チヒロ「・・・」

ホクゲ「来るんだろ?またこの世界に・・」

チヒロ「・・そうみたいです」

ホクゲ「じゃあ、もう、人間に紛れて生きるなんてことはできないんだよっ!」


泣いているようであった。


ホクゲ「絶対なんだ!絶対なんだよっ!」


恐怖で支配されているんだとチヒロは思った。


ホクゲ「あの御方は絶対なんだよ・・・」


語尾が小声になる。

自分に言い聞かせているようであった。


ホクゲ「だから緋色、死んでくれ!」


チヒロは泣きそうになった。

そんな言葉を、今は姿は違うが久家先生の口から聞きたくはなかった。


ホクゲが丸く猫背になり、全身の毛がチヒロに向かって逆立ち始めた。

飛ばしまくって減ってきていた毛も、今の会話の間に完全に生え揃っていた。


チヒロ「久家先生・・・」


金色の翼がチヒロの意思で動き、身体を覆うように庇う。


ホクゲ「死んでくれぇぇぇぇぇっ!!」


針爆弾がチヒロに向かって全て飛んできた。

針ネズミと化した久家先生の全身全霊を込めた最強の攻撃であった。


チヒロ「くっそぉぉぉぉぉぉぉっ!」


チヒロは走りだし、針を全て翼で受け止めると、その爆発の力を下に受け流し、それをも利用して跳躍した。


チヒロ「ウイングスラぁッシュっ!!」


交差した翼の間にホクゲの身体を挟むと、一気に翼を広げた。


真っ二つになるホクゲ

勢い余って転がるチヒロ


そんなチヒロの耳に小さい声が聞こえ、その言葉を発した方へ振り向きながら起き上がろうとした。


しかし、その目には大きく爆発する爆炎だけが映った。


チヒロ「ああ・・わかったよ先生・・絶対だ・・絶対そいつを倒してやるよ・・」


チヒロは片膝をついたまま、最後に聞いた言葉への返事を力強く言った。



『小川と渡辺に謝っておいてくれ!死ぬなよ・・』

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