『防御特化』
春日乃北高校
チヒロがかなり頑張って入った『美紅ちゃんと同じ』高校。
裏に小さな森があり、『ビルに囲まれてるよりかはいい環境で学問に励めるだろう』と考えて作ったんだろうな・・と、チヒロは思っていた。
まぁ、裏以外は道路を挟んでビルに囲まれているのだが・・・。
今年はなぜかクラス替えもなく、美紅ちゃんと同じクラスで歓喜したチヒロであったが、全校集会がいつもと違っていた。
それは、校長の横に、紹介を待つスーツ姿の美女が立っていたからである。
いつにも増してざわつく男子達。
それもそのはずであった。
長身小顔に脚長、服を着ていてもわかるぐらいの大きな胸とくびれたウエスト。
モデルや芸能人と紹介されても誰も疑わないような美女が、頭がバーコードのちんちくりん体型の校長の横に立っているのである。
決して身長は175センチと低くはない校長なのだが、その腰のあたりに美女の脚の付け根があった。
女子はそれを見てざわざわと笑っている。
『昨日の巨乳お姉さんだ』
鼻の下を伸ばした男子の中で、チヒロだけが真顔で見ていた。
直人「チヒロ!お前は美紅ちゃん以外は興味なしか?」
後ろで、小学校からの腐れ縁の『本田直人』が小声で話してきた。
チヒロ「お前っ!」
直人「美紅ちゃんより巨乳だぞ!」
チヒロ「直人っ!」
黙らそうと振り返った時、少し離れた所にいる美紅と、中学からの腐れ縁女子『渡辺恵美』が一緒にこそこそ話をしている事に気が付いた。
目が合った途端、冷たい視線になる美紅。
『どーせ、またこのド変態共は・・』
と、思われているような気がして、目を合わせたまま大きく首を横に降るチヒロ。
校長「注目!今学期から来て頂けることになった先生を紹介します!」
マイクを通してスピーカーから聞こえてきた声に、美紅から首を振りながら目をそらし、直人を一睨みして前を見るチヒロ。
校長「まぁ、既に皆さん注目しているとは思いますが・・・」
女性「では、私から!」
校長がマイクから離れ、女性がスタンドマイクに手を添えた。
『おい・・なんかあの手、ヤラしくないか?』
と、男子の誰かが誰もが思った事をズバリと小声で言った。
女性「私、早乙女玲子と言います。教科は美術です。」
静まる生徒達
玲子「関西から来たので、普段は関西弁になると思いますが、怖くないので気楽に話しかけてきてください」
微笑んで一礼する早乙女玲子先生に、拍手をする女子と名前を呼ぶ男子の声が収まった頃、全校集会は終わった。
チヒロのクラス、2年A組の担任は、1年の時と同じで久家先生・・
ひょろっとした体型で、白髪もなく、かなり若くは見えるが五十代後半
右頬にあるホクロから毛が出ているので、みんなからはホクゲと呼ばれているが剃ることもなく、逆に生徒からニックネームで呼ばれていることが嬉しいと思っているようであった。
生徒からも結構好かれている先生なので、チヒロもよかったと思っていた。
しかし、副担任は、早乙女玲子であった。
『なにか仕組まれてる気がするよなぁ・・』
と、チヒロはなんとなくそう感じていた。
チヒロ「美紅ちゃん!あの先生・・・」
教室での先生の説明後、帰り出すクラスメイト達の中、そっと美紅に話しかけようとしたが、後ろに座っていた恵美に気付かれた。
恵美「さっき、まーた直人と変態トークしてた?」
チヒロ「変態トークって・・」
苦笑するチヒロの視界の隅に、冷たい視線の美紅が写った。
美紅「ヒロ、すっごい変態だし!」
チヒロ「待って!誤解っ!」
美紅「え?誤解ぃ?パ!は?パっ!」
取り返したパンティを想像しながら睨む美紅
チヒロ「パって・・略しちゃったか・・・」
恵美「何々?パって?」
かなり気まずい空気になってきたので、逃げ際に小声で
チヒロ「昨日、言ってた人、あの先生だ。気を付けて!」
美紅「う、うん!」
昨日、パーツをくれた謎の女性がいたことは話していた。
敵意は感じなかったけど用心してと。
ジョニーのこともあった為、美紅はすぐに理解した。
チヒロは、美紅ちゃんに手を振り、家路につこうとして、出口でホクゲ(久家先生)にぶつかった。
ホクゲ「緋色か!気を付けろよ!」
チヒロ「すいません」
ホクゲはすぐに教室に入って行き、チヒロは廊下を階段に向かって歩こうとした。
そのチヒロの耳に、ホクゲの声が聞こえてきた。
ホクゲ「おお!小川!まだいたか!丁度よかった!」
美紅「はい?」
ホクゲ「それをどこで見つけた?」
美紅「何をですか?」
ホクゲ「どこで見つけたって聞いてるんだっ!」
美紅「何を・・」
ホクゲ「とぼけるなっ!そのスーツだよっ!」
いつになく激しいホクゲの口調に、急いで教室に戻ってきたチヒロは、入り口から覗きこんだ。
戸惑っている美紅と恵美に、今にも殴りかかりそうなホクゲを見て、イヤな予感がした。
それは、何故だかわからないが、とにかくイヤな予感だった。
ホクゲ「駄々漏れなんだよっ!そのスーツの気配はっ!」
美紅「・・・」
『まさか?』
チヒロの脳裏に変身スーツがよぎる。
そしてもちろん美紅の脳裏にも。
ホクゲ「1年の時は持ってなかったよなぁ?どこで手に入れたっ?」
ホクゲ・・久家先生は、徐々に異質の物に変わりつつあった。
毛は少しづつ逆立ち、顔色は黒く変色し、手は異常に長くなっていた。
ホクゲ「スーツが来たってことは、またあの御方達が攻めてくるからか?そうだろ?そうなんだろ?」
耳まで裂けた口に笑みが浮かぶ。
美紅「な、何っ?」
恵美「きゃぁぁぁぁっ!」
状況を飲み込めずに狼狽えている美紅の後ろで、堪えきれなくなった恵美が悲鳴を上げた。
ホクゲ「やかましいぃぃぃっ!!黙れぇっ!!」
言うと同時にホクゲの髪が針のようになり飛んだ。
恵美は悲鳴を上げた時点で気絶していたようであった。
しかし、起きていたとしても、いくら反射神経がよかったとしても避けようがない早さで飛んだ。
一直線に恵美の胸のあたりに突き刺さった針は、その軌道のまま突き抜け、後ろの壁に当たり小さく爆発した。
美紅「え?恵美?」
恵美の服に小さく染みだした血は、みるみる噴き出し、床と美紅を朱に染めた。
美紅「い、イヤぁぁぁぁっ・・・」
恵美の胸と背中を両手で押さえて血を止めようとする美紅だが、そんな事で止まるはずもなく、服はみるみる赤く染まっていく。
チヒロ「な、なんっ・・・」
無意識にそう発するのが精一杯であった。
当然であった。
担任の先生が急に化け物に豹変し、生徒である美紅と恵美を襲うなど、誰が想像したであろうか。
玲子「やっぱりあんたか!」
絶句するチヒロの後ろに、いつのまにか早乙女玲子が来ていた。
ホクゲ「なんだお前はっ?」
玲子「はぁ・・正直イヤやけど、いきなり職を失うのはイヤやから、いくで!」
ホクゲの問いを無視して教室に入った玲子は、突然光に包まれた。
ホクゲ「何ぃっ!!」
不意をつかれたホクゲは、光る玲子に殴られると、勢いよく吹っ飛んで窓硝子を突き破り、階下へと消えていった。
玲子「まだ間に合うで!」
玲子は、美紅と恵美に近付くと、恵美の身体の針が通り抜けた部分に触れた。
全身を包んでいた光が、今は手だけが光っている。
玲子「応急措置はしたから、小川っちは変身して子猫ちゃんのとこに行き!なんとかしてくれるわぁ!」
美紅「え?え?」
玲子「奴はまかせとき!早く子猫ちゃんとこに行かな、ナベちゃん死ぬでぇ!」
その一言で美紅の顔に表情が戻った。
玲子「よし!あんたの装備なら間に合うわ!はよ行き!」
美紅「はいっ!」
なぜか説得力のある玲子の言葉に、美紅は立ち上がると
美紅「トゥインクルスター!」
光に包まれ純白のセクシースーツに変身した美紅は、恵美を軽く抱えると忽然と消えた。
ただ凄い早さでチヒロの家に向かって移動しただけなのだが、チヒロの目には消えたとしか見えなかった。
玲子「変身の掛け声って、ええなぁ!うちも考えとこ!」
そう笑いながらチヒロを見ると
玲子「ほれ!ヒイロン!行くで!」
チヒロ「ひいろん?」
正直、美紅ちゃんと恵美を助けてくれたとは思うが、訳がわからないせいで無意識に身構えてしまっていた。
状況が把握できない。
いつものことながら頭が着いていかない。
そんなチヒロに気付いたのか
玲子「うちは仲間やで!スーツを貰った仲間や!」
チヒロ「え?仲間?」
玲子「色々ワケアリやし、やる気はないんやけどな!」
玲子は、ウインクしながら笑った。
玲子「ほら!あんな化け物、ほっとかれへんから行くで!」
チヒロの腕を掴むと、割れた窓に向かって走り出す
チヒロ「えぇっ?!ちょっ!3階っ・・」
玲子「まかせときっ!おっぱい触らんといてや!」
そう言ってチヒロをおんぶすると、窓から飛び降りた。
下で、完全に化け物となったホクゲが、うずくまって悶えているのが見えた。
もちろん2人も重力には逆らえず、普通に落下した。
玲子「あらよっと」
着地の直前、掛け声と共に光に包まれると、ブロンズに輝く装備を纏った。
チヒロをおんぶしたまま、軽く着地すると
玲子「ほら!大丈夫やったやろ?って、もう降りてや!」
チヒロ「あ!すいません・・」
背中から降り、玲子を見ると、少し重装備ぎみだが、ブロンズに美しく輝くスーツに包まれていた。
見るからにジョニーの重装備とは違う、気品と美しいフォルムの装備であった。
玲子「喋らんかったら、うちってわからんやろ?」
玲子は残念そうに続けた
玲子「うちの、美しい顔やナイスボディが全くわからへんやろ?」
チヒロ「・・・」
玲子「だからイヤやねん!やる気でぇへんねんっ!」
チヒロ「・・・」
玲子「小川っちのスーツみたいにセクシーなんやったら、まだやる気がでるんやけどなぁ・・・」
ため息混じりに言い
玲子「お!うちの後ろに隠れときや!立ち上がりよったわ!」
チヒロを背に隠し、ホクゲを見た。
チヒロもチラッと見てみると、右腕が砕けるように力なく垂れている
玲子に教室から弾き飛ばされた時に殴られた顔も、少し歪んでへこんでいる。
玲子「右から落ちたんか!あんた、打たれ弱そやなぁ?」
ホクゲ「・・よ、よくもやってくれたなぁぁぁっ!!」
ホクゲの全身に真っ黒な毛が生え、それが全て逆立つ
玲子「針ネズミタイプ?」
ホクゲ「黙れぇぇっ!あの御方らが来る前に、お前ら全員殺してやるわっ!!」
奇声を発すると同時に針が飛んできた。
針は、玲子の装備に当たると、小さく爆発したが刺さることもなく、ただそれだけであった。
玲子「さすが防御特化とゆうべきやな!痛くも痒くもないわ!」
ホクゲ「クソおぉぉぉぉっ!!」
マシンガンのように、次々と飛んできては小爆発する針
玲子「痛くないけどうっとおしいなぁ・・」
チヒロ「ちょっ・・」
玲子の装備に当たりもしなかった針が、チヒロの後ろの校舎に当たって爆発する為、チヒロが焦って声を出した。
玲子「あ!ゴメンゴメン!」
笑いながら両腕を横に上げると
玲子「前面防御特化や!」
玲子の装備の前面が、みるみる拡がり、防御の面積が広くなった。
チヒロ「え?先生?」
チヒロが声をかけたが、爆発音で届かない。
チヒロ「せ、先生・・・」
装備の前面が拡がった分、装備の後ろの面がなくなり、玲子の美しく流れる背中からお尻までの裸体が見えていた。