『うさぎとジョニーと攻撃特化』
「そう!私が必死で穴を掘ったの!それで先生とそこに入った途端にドカーンてきて、私の上で先生が盾で蓋をして前面防御特化までしてくれてたみたいで、先生の生のお尻を触っちゃって、凄く柔らかかったぁ~・・・・」
チヒロが美紅の声で意識を取り戻したのは、夜10時頃であった。
見慣れぬ部屋の中で、子猫あおいを抱いたゴスロリ花、テーブルを挟んで小川美紅が椅子に腰掛けて話している。
「お?やっと目ぇ覚ましよったで!」
すぐ頭の上で声がし、身体を起こしながら見てみると、チヒロの寝ている高そうなソファの端で、玲子が缶ビールを片手にチヒロを見ていた。
「えらい目におーたなぁ?まぁ、うちの裸を見た罰やけどなっ!」
後半は怒りぎみに言った。
「えっと・・ここは?」
「玲子先生の家!あの例の駅前の高層マンションの最上階だよ!!」
『こんな高そうなマンション誰が住むんだ?』と、出来た時に学校中で話題になった、超高級高層マンションであった。
「ごめんねヒロ・・ほっぺた痛くない?」
美紅が、近付いてきてチヒロの右頬に触れる。
「ん~・・・確か、学校で・・」
何故美紅が謝ってきているのかどころか、玲子の裸開脚から全く記憶がないチヒロは、なぜかちょっと痛い右頬に自分も触れ、必死で考えながら言った。
「M字のことはもう忘れや!ほんま恥ずかしすぎやわっ!ダーリンでも彼氏でもない奴にタダで大サービスなんかした日にゃ、飲まずにはやってられへんっちゅーねんっ!」
グビグビっと、ビールを飲む玲子の顔が、恥ずかしいからか酔ったからかはわからないが赤くなっている。
「大変だったんだよ!エロ小西も化け物だったし!」
「う~ん・・とりあえず最初から説明して欲しいかな・・・」
訳がわからず、眉間に皺を寄せるチヒロ。
「えっと~、じゃあ、わかりやすく説明するとねぇ~・・」
そして、美紅の都合の悪いところは誤魔化した話に、玲子の擬音ばかりの相槌が入った、とてもわかりにくい説明が始まった。
「攻撃特化型スーツの奴・・・かなりヤバい奴だな・・・」
理解が着いていかずに黙って説明を聞いていたチヒロが、最初に思ったことを口にした。
「うん・・たぶん私達には気付いてなかったからだとは思うけど・・」
「それにしても学校でミサイルって!!」
爆弾針ネズミを同じ場所で退治したチヒロが怒りながら言った。
「まだ火ぃ消えてないみたいやしなぁ。裏の林は全焼みたいやで!」
玲子が、缶ビールを持つ手でテレビを指差した。
学校裏の林が突然爆発炎上したと、ニュースで大々的に報じている。
大勢の消防救急警察の制服に混じって、なぜか軍服の外国人達が映像に映っている。
レポーターが言う。
『昔の大戦時代の不発弾が爆発したようだ』と・・・
「あの外国人・・えっと・・ジョニーだったっけ?」
チヒロがテレビを見ながら言った。
「そう!たぶん攻撃特化型は、ジョニーの組織と組んだみたいだね!」
それまで黙って聞いていたあおいが口を開いた。
「その組織、素早く情報操作したみたいやな!うちの親父とお爺ちゃんに電話したんやけど、何も知らん!何も言わへん!お前も何も言うな!って、めっちゃ口止めされたわっ!」
玲子が舌打ちしながら言い、ビールをグビグビ飲んだ。
ボタンを外して着崩れたシャツから、大きな胸の谷間がチラと見え、チヒロが咄嗟に目を反らしたのを美紅は見逃さなかった。
「調べてみたけど、完全に隠蔽されてるね!」
あおいの尻尾が、チヒロのスマホに接続されている。
「ジョニー・・なんか軽そうな外国人っぽかったけど、後ろに凄い組織がついてるみたいだな」
美紅に睨まれていることに気付かないチヒロが言った。
「・・・そうだね・・・」
下を向き、誰にも聞こえないぐらいの小さな声で
「・・ふみ・・なのかな・・」
と呟く子猫の背中を、優しく撫でるゴスロリ花と、目を合わせて頷く神妙な顔の玲子。
それにチヒロは気付いていない。
そして美紅もそれに気付かず、玲子の胸と自分の小さくはないが玲子には負ける胸とを、何度も何度も見比べては寄せて上げたりしていた。
同じ頃、白一色で統一された無機質な基地内の廊下を、ジョニーが早足で歩いていた。
ジョニーの所属する組織の日本基地とかではなく、今回の『4つの反応』の為に作られた、急こしらえの拠点なのだが、そうとは思えないぐらい広く綺麗な建物であった。
元々海沿いにあった倉庫の内装を改造しただけなのだが、たった2日で作られたとは思えないぐらいの技術力と完成度であった。
広さを比較する時によく使われる『某ドーム』で例えると、基地自体は3個分の広さがあり、その周りに張り巡らされた柵まで入れると、5個分はあった。
「無駄に広いんだよ・・・」
ジョニーは、何度か舌打ちをしながら、ドアの上の札を見ては扉を通りすぎて行く。
正直、容姿は悪くはないので、歩き方次第ではモデルのように見えたかもしれないが、残念ながらガニマタで・・・
さらに、怒っているのか眉間には皺を寄せ、両腕は強張り、左の拳は硬く握りしめているせいで、変な歩き方になっている為、誰も近付けないオーラを醸し出していた。
実際、ジョニーはかなり怒っていた。
八つ当たりで壁でも叩きそうな勢いではあったが、ひと目で自分の手が負けるとわかる『固そうな壁』なのでさすがにやめていた。
「技術力の無駄使いとはこのことだぜっ!」
さらに何回か舌打ちをしつつ、扉の上に『来客用』と書かれた札がある所で立ち止まると、右手に持っていたカードキーをかざしておもむろに扉を開けた。
「おいっ!お前っ・・」
部屋に入った途端、すかさず文句を言ってやろうとしていたジョニーであったが、目に入った人物に言葉が途切れる。
そこには、シャワーを浴びた後なのか、バスタオルで肩ぐらいまでの茶色い髪を拭いている女性が立っていた。
少し明るさを落としているのか薄明かりの中、上は裸で真っ赤なレースのパンティを履いた女性は、タオルに隠れて片目だけの目でジョニーを睨んでいる。
「なんか用?」
その女性・・まだ二十歳すぎぐらいの日本人女性は、とっさに身体を隠す訳でもなく、言い終わるとジョニーから目を逸らし、両腕で髪をタオルで挟んでポンポンと拭きだした。
「お、お前、女だったのか・・・」
ジョニーは女性から視界を外す訳でもなく、驚いた顔をしながら何回か上から下まで視線を往復させた。
途中、ヘソのピアスが黒く光っているのが目に入る。
「女ですが?それよりまだ見るつもり?お金取るよ!」
裸を見られていても全く恥ずかしがる感じもなく言い、タオルを頭に巻いて髪を束ねると、パンティとお揃いの真っ赤なブラジャーを手に取り、さすがに背を向けてブラを着けた。
ジョニーはそんな女性をずっと見続けている。
女性は、見られているのを気にすることもなくベッドに乱暴に腰掛ける。
「で、何か用?本当に裸を見に来たの?また脱ごうか?」
半笑いで下から見上げるようにジョニーを睨む。
また脱ごうにも、まだ下着しか着ていないし、女性だと今知ったジョニーが裸を見に来るはずがないのだが、そんな矛盾も気にせず胸の谷間を見せつけていた。
「・・・お前、やりすぎだっ!」
ジョニーも睨みつけ、女の話と谷間を無視して言った。
「民間人まで巻き込むところだっ!」
口調は、部屋に入ってきた時の勢いから幾分かは柔らかくはなってはいるが、怒りを殺しているのか左手は強く握られている。
ジョニーは左利きであり、怒りの表現が利き腕の拳に現れるわかりやすい性格であった。
その手を見た女は、ジョニーから目を反らすと
「首、だるいしっ!」
2メートル弱はあるジョニーを座って下から見上げていた感想を述べると、そのまま後ろに倒れてベッドに寝転んだ。
「わかってる!わかってるよ!さすがにやりすぎた!冷静さに欠けた!」
その女性・・
『藍田聖』は、やっと表情を崩し申し訳なさそうに言った。
「姿が見えなくてムカついたんだよ!ただでさえ奴らはムカつくのにっ!」
聖は、右手でヘソの黒く光るピアスを撫でながら言った。
そのヘソピは、『チヒロのブレスレット』『美紅のネックレス』と同じように、スーツに変身できるピアスであった。
「こっちは家族全員奴らにヤラれてるんだっ・・・」
天井を見ながら言う。
「気持ちはわかるが・・・」
ジョニーの表情が、睨みから真顔に変わる。
強く握っていた拳もやっと力が抜ける。
「やりすぎたのは認める!でも、けが人はいないんだろ?」
「・・ああ!いない!なんとか死者も怪我人もいない・・そして奴もな!」
「・・えっ?どうゆうことっ?!」
聖が突然身を起こす。
ブラの右ストラップがズレているが、そのまま聞き返す。
「まさか、あのバケモノ死んでないのかっ?!」
逃げ場はないぐらいのミサイルを撃ち込んだす。
跡形もなく砕け散らしたつもりであった。
「今までの奴らはあれで死んでたのにっ!」
聖は、スーツを手に入れてから、奴らを5体倒していた。
家族を殺した奴ではなかったが、次々と倒していけば
いつかは奴に辿り着くと思った。
「奴等は核を破壊しない限り死なない!今まではたまたま破壊できていたんだろう。」
ジョニーが冷たく言う。
「・・くそっ・・・」
聖がベッドを叩いた。
その勢いのまま立ち上がると、ベッドの隅に無造作に置かれたロングスカートを手に持つと足を通して履いた。
その様子を見ていたジョニーが、やっと本題を語りだす。
「おかげでウチの隊員が1人行方不明だ!」
「!!」
「たぶん死にかけの奴に身体を喰われて乗っ取られたんだろうな」
「・・・」
聖はそれをよく知っていた。
奴らは食べた人間の姿になれた。
家族を殺した奴は、目の前で、父の姿で母を食べ、母の姿で弟を食べて弟の姿になった。
そして『お姉ちゃん』と血塗れの口で笑った。
「クソぉぉっ!!」
聖が叫び、まだ若干あどけなさの残る顔を怒りで歪ませながら、シャツを着てジャケットを羽織った時であった。
ズズズン
重い音と共に地響きがし、部屋全体が一瞬揺れた。
「まさかっ?」
ジョニーが振り返って扉の方に向く。
「どうした?何があった?」
左耳に付けているイヤホンに触れながら叫ぶ。
しかし雑音が大ボリュームで耳に刺さり、咄嗟にイヤホンを外す。
「やられたっ!隊員の姿で基地内に入りやがったかっ!」
走り出し、扉から廊下に出るジョニー。
聖も、まだ裸足のまま走りだし、ジョニーに続いて廊下に出ようとした時、目の前が光に包まれた。
「くっ・・・」
突然の眩しい光を、目を閉じて左手で遮りながら咄嗟に身構える。
右手は、服の上からヘソピに触れようとした。
「すまんすまん!」
「!!」
視界が回復するよりも早く、聞き覚えのある声が目の前から聞こえた。
「やりすぎてしもうた!はっはっは!」
必死で瞬きを繰り返して視力を取り戻そうとしている聖の前で、その聞き覚えのある少女のような声が笑っている。
「忍びこんだ奴に新型を試してみたんじゃが、まさかの通信室まで破壊してしもうた!わっはっは!」
視界を取り戻すと、『うさぎの着ぐるみ』を着た満面の笑みの少女が立っていた。
「はぁ~さっきの基地破壊はボスの仕業か~」
ジョニーがゆっくり歩いて近付き、呆れながら言った。
「で、その着ぐるみは何なんです?」
「お!よくぞ聞いてくれたのう!これは、こすぷれってやつじゃ!」
その『ピンクのうさぎの着ぐるみ』が、両腕を腰にあててドヤっている。
顔の部分には着ぐるみはなく、普通にドヤ顔の少女の顔が見えている。
片方だけ立っているうさ耳を入れても160センチの聖よりも小さかった。
「おい、娘!嫁入り前に、なんて格好をしとるんじゃ!」
少女は、裸足で頭にタオルを巻いたままの聖を見て言った。
「あ・・・」
靴を履くのも頭のタオルを外すのも忘れていた聖。
「最近の小娘はっ!嫁入り前はちゃんとしないといかんっ!」
「は、はぁ・・・」
先ほどまでパンイチやったとは言えない聖。
「ボス、奴と一緒に通信室まで破壊したくせにドヤるのはどうなんですかね?」
ジョニーが笑いながら言う。
「やかましいっ!わしはいいんじゃっ!」
ジョニーに怒りながら言い
「わしはこう見えても人妻じゃからのう!人妻はどんな格好をしてもいいんじゃっ!」
頭に片手を当て、腰をくねらせながら言った。
セクシーポーズのつもりなんだろうが、うさぎの着ぐるみのせいか少女だからか、そうは全く見えなかった。
「いくらわしが魅力的でも、絶対浮気はせんぞ!旦那様一筋じゃからのう!」
「・・ボス・・・」
困惑で失笑のジョニーと、呆気に取られる聖。
「それより、じょにぃよ・・ぼすって言うなと言っとるじゃろっ!」
少女はジョニーを睨むと
「『ふぅみん』と呼べと言っとるじゃろうが!『ふぅみん』とっ!!」
と、少女・・・
『緋色ふみ』が頬を膨らませて言った。




