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「攻撃」

ほんの少し前


小川美紅は、家のリビングで、大好きなパック牛乳をストローでチューチューと音をたてながら飲んでいた。


いつも母親には『牛乳ばっかり飲んでたら、おっぱいばっかり大きくなるわよ!』と、訳の解らない説を言われるが、これだけは辞められななかったし、そう言う母親も常にストックしてくれていた。


「癒されるぅ~」


心の声を思いっきり口に出し、制服のスカートの裾も気にせずソファに大の字になって寝転んだ瞬間、スマホが鳴って飛び起きた。


『小川っち、1人で学校に来て!1人じゃヤバそう!』


後に早乙女先生が『文章が悪かったわ』と、顔を伏せながら呟いていたメールが届いた。


美紅は素早く立ち上がると、牛乳を一気に飲み干し、パックを台所にいた母親に渡すと


「先生が呼んでるから学校行ってくる!」


と、急いで玄関まで行き、爪先をトントンしながら靴を履くと、花を連れて行くことも忘れて家を飛び出した。



「美紅ちゃ~ん!」


学校に向かって小走っていた美紅の真上から声がして、急に緋色チヒロが真横に現れた。

ステルス状態で空から降り、美紅の近くで変身を解いた為、突然チヒロが横に現れたようになった。


「ひっ!ヒロっ!!急に出て来ないでよ!危うく悲鳴上げるところじゃんっ!」


ビクッと怯みながらも小走りな美紅


「ごめんごめん!って、どした?急いでるみたいだけど?」


パーツを3個見つけて家に帰る途中、美紅を発見したチヒロ


「早乙女先生が呼んでるから学校に急いでるんだけどね・・・」


もちろん変身すればすぐに行けるが、また後遺症の脱力で意識を失っては意味がないので走っていたのだが・・


「任せて!あ!ちょっと先に行ってて!」


チヒロはそう言って立ち止まると、全身を光らせて変身した。

その右腕と左足に、先程まではなかった外装があった。

見つけたばかりのパーツの内の2つであろう。


「お!右手と左足に外装があるぞ!」


「あとの1つは左足強化みたいだね」


チヒロの肩から降りたあおいが、見上げながら言った。


「ナイス!あ・・でも外装ある方、ちょっと高くなってる・・歩きにくっ!」


左足だけ靴底が厚い靴を履いたみたいになっていた。


「歩くのもままならなくなった?・・・これ・・・余計弱くなったんじゃね・・・」


内心、苦笑を浮かべつつ、左足だけで軽くジャンプをしてみた。


「うおっ!凄っ!」


周りの家が眼下にある。

小さいあおいが、さらに小さくなって見上げている。

優に15メートルは跳ねているであろう。


「あ!でも、降りる時に強化してない右足を着いてしまったら大惨事なんだよな・・・」


翼を出してホバリングしながら言い、上空から、だいぶ先まで走って行ってしまった美紅を見つけると、狙いを付けて翔んだ。


『決してスケベ心ではないっ!』


内心、そう偽りながら美紅の胸の下を後ろから抱えると、一気に上に飛んだ。


「きゃーっ?!ひ、ヒロっ!!」


まるで痴漢に遭遇したかのような悲鳴を上げ、抱えられた腕を振りほどこうとしたが、空を飛んでることに気付いて止めた。


「スカートスカート!下からパンツ丸見えっ!!」


「大丈夫!ステルスしてるから!」


「・・・む、胸は触らないでよっ!」


美紅は、空を飛んでいることの感動と、チヒロに後ろから抱きしめられていることの恥ずかしさやらなんやらでテンパっているのを誤魔化す様に言った。


チヒロはチヒロで、股関節強化外装があってくれてよかったと、つくづく思っていた。



「・・・普通、忘れていくかな?」


急に跳ねたと思ったら飛んで行ってしまったチヒロの消えた方向を見ながら、ぼそっと呟くあおいであった。




春日乃北高等学校

学年、クラスごとの教室がある北校舎と、専門教科ごとの教室がある南校舎に別れ、両校舎を繋ぐように西側に渡り廊下のある作りで、どこに行くにもいちいち渡り廊下を通らねばならず、在校生徒にはかなり不評な学校であった。


その渡り廊下のさらに西側にある体育館の裏に降りたチヒロと美紅は、早乙女玲子のいる東側はずれにあるガレージとは逆の位置に降りてしまった為、どこにいるのかわからなかった。


「どこにいるのかな?」


美紅は、先程まで後ろから抱きしめられていた恥ずかしさで、チヒロと目を合わせられずにキョロキョロしながら言った。


「美術準備室か職員室かな?」


チヒロも美紅と目を合わせられないまま言い、1階の渡り廊下に入った。


その時

北校舎と南校舎の間の中庭に、突然硬い物が落ちる音がし、アスファルトを滑ってチヒロ達に近付いてきた。


「えっ?!何っ?!」


声と同時に振り向いた2人は、近くで止まった『それ』を凝視する。


『それ』は、きれいにM字開脚をした『産まれたままの姿』の早乙女玲子先生であった。


正確に言うと、落下の衝撃から身を守る為にした後部防御特化の反動で、前面は裸で足を開き膝を立てて寝転ぶ早乙女玲子であった。


一瞬の沈黙

そして身を起こそうとした玲子と目が合う。

いや、早乙女玲子と目が合ったのは美紅であって、チヒロはもちろん違う所を見ていた。


「さ、早乙女せんせ?」


やっと美紅が我に返り、隣でチヒロがガン見していることに気付く


「み、見ちゃダメぇ~っ!!」


「ぶばおっ!」


一点を見つめ続けるチヒロの右頬に、美紅の掌底がクリーンヒットし、チヒロは回転しながら吹っ飛ぶと同時に意識を失った。


後からわかった話であるが、スーツは装着していなくても影響があるようで、美紅の場合は常人よりも反射神経等の伝達反応が早く、力も少し強くなっていた。


「え?ヒロ?え?」


顔を背けさせるつもりの掌底で、ぐったりと寝転んで身動き1つしなくなったチヒロに、焦って駆け寄る美紅


「やっぱり正夢になったやん・・・」


そんな2人のやりとりを文字通り尻目に、泣き笑いのような呟きと共に足を閉じ、寝返りをして横を向いた玲子

今朝、寝汗ぐっしょりで見た夢が、正にチヒロへのM字大サービスであった。

装備を解いたのか、紫色の下着・グレーのキャミソール・白のYシャツ・黒のパンツスーツの順番で徐々に現れて着ていった。


「恐るべし、ヒイロンのラッキースケベ・・・いや、うちのアンラッキースケベとゆーべきか・・」


立ち上がりながらため息混じりに言い、飛ばされて来た方を見た。


肥大した上半身のせいでゆっくりとしか動けなくなった『小西徹だった者』が近付いてきている。


「小川っち、くるで!」


そう言われた美紅が、玲子の見ている方向を見ると、人ではない何かが近付いて来ていた。


「え?ちょっとヒロがっ!」


「大丈夫や!当たりどころが悪ぅて気ぃ失ってるだけやわ!生きとる生きとる!」


「それならいいんですけど・・・って、いいのっ?」


「うちの姫を見た罰や!それよりこっちの方がヤバいで!『G』っ!」


1人ノリツッコミの美紅をよそに、掛け声と共に全身を光らせてブロンズ色の防御特化型スーツに変身した。


「あいつ、めっちゃ硬いねんっ!小川っち、スピードでかき回してくれへん?たぶんイケる作戦があるんやわ!」


「はぁ・・」


意味が今一つ理解できない美紅


「ちなみにあいつ、小西徹やで!」


玲子は、美紅にやる気を出させる名前であると確信しながら言い、そしてそれは見事にハマッた。


「私は素早く攻撃すればいいんですねっ?」


美紅が怒りの表情を浮かべ、手を握り締めながら立ち上がった。


「女子の胸ばっかり見るし、理由をつけては身体を触ってくる変態教師が異世界人なら、遠慮も躊躇もなくおもいっきり頑張りますっ!」


漫画であれば目が燃えているような表現であろう美紅が、変身した玲子の横に立ち、小西徹だった者を睨む。


「あれ~?小川までいるのか~?」


近付いてきた腕のバケモノが笑いながら続ける


「ちょうどいいや~2人共いろんな意味で食べちゃお~っと~!」


「小川っち、さすがにここはマズいわ!裏山まで連れてくで!」


下品なバケモノに寒気を感じながら小声で言った。


「はいっ!」


小西の言葉に、あからさまに嫌な顔をした美紅が、両手の中指と薬指だけを握り、腕をクロスさせて下に向けた


「トゥインクルスター!」


両肘を曲げ、顔の横に手をもってくると、光りに包まれ純白のスーツを纏った。

美紅の純白のスピード特化型ビキニスーツの胸が、両肘に挟まれ存在感を増す。


「・・小川っち・・いや美紅りん!」


「はい?」


「それ、めっちゃ胸を強調するから、ヒイロンの前ではやめときや・・」


「・・はぁ・・今度からじゃあバージョンCにします・・」


「・・天然やね・・」


苦笑する玲子の言葉が言い終わる前に美紅の姿が消える。

美紅は、素早く小西の背後にまわると、全力で蹴った。

セクハラ教師に対しての力の籠った会心の蹴りがヒットする。


が、鈍い音と共に美紅の足が弾かれる。


「か、硬っ!!」


思わず言いながら素早く離れる。


「ん~?早いなぁ~でも、それが攻撃かぁ~?全然効かないよぉ~!」


美紅の姿を探して、巨大化した右腕を起点に振り返る小西


『今やっ!』


玲子は盾を出すと、小西の攻撃を塞いだ時の要領で、地面の代わりに小西の右腕に突き立てようと走った。


が、玲子の動きは読まれ、小西の左腕がなぎ払うように襲う。


「先生、それ貸ります!」


玲子が小西の攻撃を躱そうと動くよりも先に、美紅が玲子を抱えて移動し、パンチの届かない位置に玲子を置くと、盾を持ってジャンプした。


小西の空を切った左上腕に、美紅の全体重と重力を乗せた盾が突き刺さり、その勢いのまま左腕を切り落とした。


「よしっ!」


素早く玲子の前に移動して盾を構える美紅


「ちょ~!美紅りん、めっちゃええなぁ~」


一瞬にして玲子の戦術を理解し、素早く実践に移った美紅に驚きの声をあげた。


「グアァァァァァッっ!!なんだぁっ?!何が起きたぁ~っ?」


正直、なぜ左腕が切断されて転がっているのか、小西には全く理解できていなかった。

美紅のスーツのスピードは、スーツを着ている玲子ですらギリギリ認識できるぐらいの速さであった。


「お、小川かぁ~っ!!許さんぞ~っ!!」


「このまま裏の林まで行くでっ!」


「・は、はいっ・・」


美紅にとっては超ゆっくり走り、中庭を抜けて北側の裏山へと向かった。

怒り狂った小西が、片腕を失ったことでさらにゆっくりとした速度で追いかけてきている為、早く走りすぎると見失われそうだと思ったからである。


「先生・・」


「ん?なんや?」


「勢いで腕切っちゃったけど・・」


「ん?どないしたん?」


異世界人だとはいえ、先生だった者の腕を切断してしまったことに、美紅が躊躇いを感じたのかと思い、走りながら美紅の方を見るが、フルフェイスの仮面のせいで顔は見えなかった。


「どないした?」


「先生・・ぐ、グロすぎるよっ!!」


「ぶはっ!なんや!笑てもぉたわっ!」


「・・血、紫色って・・」


「確かにグロかったわ!わっはっは!」





『おかしいで・・』


美紅と共に林に走りながら、玲子は違和感を感じていた。


『ガレージにおる時から、さんざんやかましくしてんのに、なんで誰にも気付かれてへんのやろ?校舎にまだ生徒も先生もおるはずやのに・・・』


2人分の感覚・・スーツと一体化しているキューの感覚と、玲子の常人離れした感覚が相まって、小西以外のなにかしらの危険を感じ取っていた。






『北倉さん、どうっスか?』


「いやぁ、あの先生セクシーすぎるだろ」


『・・・そうじゃないっス・・うまくいってるんスか?』


「あの全裸になるスーツは反則だな!セクシーの極み!なんてったってあの巨乳よ!あれを見せられたら私でも負けるね!」


『・・・貧乳で悪かったっスね!』


「い、いやっ!マ、マキはマキでいいぞっ!美人だしお尻かわいいしっ!!」


『動揺しなくていいっス!そんなことよりうまくいってるんスか?』


「ああ!首尾は上々!来てよかったよ」


『巨乳を見れたからスか?』


「そうそう、凄いぞ!マキにも見せてあげたかったぞ」


『・・・帰ってきたら殴っていいっスか?』


「ご、ごめんごめんっ!あ!目の前通るから黙るぞ!」


北倉がマキと通信しているイヤホンに触れながら、校舎の隅、北側校舎の東角に立っていた。


その目の前を、玲子と美紅が通りすぎて行く。

視界には入っている。が、気付かずに通りすぎて行く。

少し遅れて小西徹も通りすぎて行った。


北倉は校舎に寄りかかり立っているだけである。

しかし誰1人として気付かずに通りすぎて行く。


空間が歪まされていた。


北倉は、玲子や美紅、小西徹がいるところの空間を歪ませ、他とは干渉できないようにしていた。

外から見えていたとしても、それを認識することができなくしていた。

校舎の中の生徒が、仮に中庭を見ていたとしても、その空間内の玲子達の姿はもちろん音すらも認識することはできなくしていた。


その空間を作っているのは北倉

北倉だけが両方見えていた。


「結構疲れるんだぞ!」


北倉がイヤホンに話しかける。


『じゃあ、エロおやじになってないで集中するっス』


「・・マ、マキはスタイルいいし美人だし・・」


『もういいっスっ!』


「世間に私達やスーツの存在がバレるのは、まだ困るからなぁ・・小西さんは、オレら側じゃないし・・」


『どうするんスか?』


「たぶん負けるだろ!あの白いビキニの娘、凄く早いし巨乳だし」


『・・もうツッこまないっス』


「って、まて!」


急に周りを伺いだす北倉


「マキ、もう1人いないか?のびてる緋色くん以外に!」


『あ!いるっス!あいつっス!もう1人のスーツアクターっス!』


「なんとなく気付いているのか?不味いな!この空間、少しでも干渉されれば消えてしまう」


北倉が作っている空間の範囲に侵入されれば、この空間は跡形もなく消える。

もちろん空間内から外に出ても同じである。

北倉が気付かれないように一時黙ったのもその為であった。


『どうするんスか?』


「消されたら戻るぞ!まだ私がバレるのは不味い!やはりガレージの時から空間隔離するべきだったか」


『了解っス』


マキからの通信が切れた。


「あとは緋色くんにラブレターでも渡しておこうか」


北倉は笑いながらゆっくりと歩きだした。





玲子と美紅が林に入った途端に『それ』は起こった。


彼女達の目には、『空が割れた』もしくは『空が砕けた』ように見えた。

北倉の作った隔離空間が壊された為にそう見えたのだが、それは玲子達にはわからない。


「空がっ・・」


「な、なんや?」


足を止め、木々の隙間から見える空を見上げる2人に、砕け散った偽物の空が消え、本物の空が見えた。


「なんやったんや?」


「先生っ、後ろっ!校舎の上っ!!」


小西が気になり振り返った美紅が叫ぶ。

その視界の先、足を止めて空を見上げている小西の背後の校舎の屋上に、1つの人影があった。


全身真っ黒く光るスーツを着た人物が立っている。


「次から次からなんやねんっ?!」


「先生、とりあえず隠れよ!」


訳がわからない事続きでボヤく玲子のブロンズ色の防御特化型スーツの腕を引き、美紅達は木陰に隠れる。

美紅は、スピード特化型スーツのおかげで、反射速度も思考速度も早くなっている為、いち早く状況判断をして行動に移せていた。


「やっぱり隠れてやがったかっ!バケモンがっ!!」


黒く光るスーツの男・・

たぶん声からして男と思われる人物が言い、小西が振り返る。

その黒スーツは、玲子の見るからに頑丈そうな角張ったスーツに似てはいるが、こちらは頭、肩から胸、そして腕と膝から下だけ守られているが、他はチヒロの初期の全身黒タイツスーツの様にむき出しで弱そうであった。


「お前、これから来る『大ボス』の名前を言う気はあるか?」


突然現れて言うセリフなのか?と、美紅が脳内で素早く突っ込む。


「なんだ君はぁ~訳がわからないなぁ~」


片腕ゴリラ小西も同じ事を思ったらしく、何故か美紅は同意して頷いた。


「喋り方ウザいな!とりあえず死ね!」


黒スーツ男の発言に、頷きかけた美紅と玲子が驚いて身構えた時、男が両腕を小西に向けた。


両腕の手首の甲のあたりが開き、何かが顔をだした。


咄嗟に林に向かって走り出す小西


「逃がすかっ!死ねっ!」


その腕から、小さな筒のようなモノが片腕10発ずつ、計20発が小西に向かって発射された。


「せ、先生っ!盾っ!!」


美紅が叫び、玲子が反応した途端、そのミサイルは直撃した小西を木っ端微塵に破壊し、周りを含めて爆発した。





その日、深夜遅くに鎮火した校舎裏の林は、跡形もなく完全に焼け野原となった。

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