3話 若鳥の羽ばたき(3)
東ローマ軍左翼では勝敗が決していた。
「ファラス様、そろそろ右に行く準備をしたほうがいいんじゃないすか」
「そうだな」
...(今朝のこと、訓示の後)
「ちょっといいかな?」
「はっ、なんでしょうかベリサリウス将軍」
「ファラス、君に特命を言い渡す。君は左翼での決着がついたら右翼に向かう準備をしておいてくれ。右から敵本陣に向かって大勢が出て行ったら合図だ。その騎馬の列に隠れて右翼に向かい敵を奇襲しろ」
「このファラス、へルリ族と帝国軍人の誇りにかけてその役目、全うさせていただきます」
...
「総員、移動準備。右翼の動きに合わせて出る!」
「ファラス、待て、まだ敵が来る!」
「うっとしい、ウジの様に湧くな」
東ローマ軍右翼ではヨハネス、キュリルスらの正規の東ローマ軍騎兵とスニカス、アイガンらのフン族騎兵が共闘し奮戦していた。
「怯むな!なんとしてもここを守り切れ!」
ヨハネスが檄を飛ばす。
「ヨハネス、まだ来ないんですかね、彼らは」
「仕方ないだろあっちに一万の援軍がいっちまったから離れられないんだろう。持ち堪えるぞキュリルス」
ベリサリウスは敵が歩兵一万を左翼にぶつけてきたことを受け、ファラスに伝令を送った。
「予定とはちょっと違うが、仕方がないのでプランBに変更だな」
「右翼側に出る。一万を連れて行く。残りの二千で中央を守る。まぁ敵は中央にこないと思うが」
「敵が中央に来たらどうなさるのですか?」
「来ない。そういえば君は気が済むかな?見ておけばいい、来ないから。まぁ来ちゃったらそんときで考えるよ」
敵中央に向かったマルケルスは敵中央軍の右側背で攻撃しては離脱を繰り返していた。
「こんなところで死ぬな!俺たちは相手を削るだけでいい」
「将軍、中央軍が右に出てきています」
「潮時だ。戻ろうか」
ファラスは敵の歩兵一万が左翼に来たため足止めを喰らっていた。
「外側から袋の鼠を絞め潰す!血祭りだァ!」
左翼の戦いはいよいよ決着が迫っていた。ペルシア軍右翼の将軍・ピテュアクセスは抵抗する力をなくし、ペルシア軍の組織的抵抗は終わった。
「ファラス、もう行っていいぞ」
「あとは任せます。ブゼスの旦那」
右翼では依然苦戦が続いた。騎兵と歩兵では圧倒的に騎兵に分がある。時にペルシアの騎兵はローマの正規騎兵よりも強かった。
「歩兵部隊が局地的に騎兵を打ち破っております!」
「それは良かった。でもまだ決定的な一撃が加えられない」
「マルケルス将軍の部隊です!」
「いいところに戻ってきたね、いい判断だ」
「ベリサリウス将軍!城の背後から騎馬隊が来ます!」
「何?敵か?」