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ねじれの位置で勇者は価値を問う  作者: 水無月透花
8/10

復讐

 追放されてからの悲願が遂に叶うときがきた。何度も視察に向かい,事前準備は万全な都市機能攻略。揃えに揃えた魔物の軍勢。勝利条件は都市内のヒトの消滅。


「では指示通りに,各部隊進めー!」


 部隊指揮官はドワーフが担当。奴らは事前に出してある指示に従って与えられた魔物を動かす。基本的に生物が敵として見なせるような状態にはならないので臨機応変な対応を迫られることは少ないはずだ。


 都市の防衛機能があるとはいうものの,その量にも限りがある。まずはそれらの攻撃対象になる大型の魔物を突撃させる。尖兵はいずれも耐久力と機動力に優れたものであり,直接戦闘では盾役を担える種族。


「敵性反応を検知。処理します。」


 思惑通り,都市は最前線の魔物を標的にした攻撃を開始する。その多くは魔法兵器であり,彼らに掛けられた魔法防御によって大幅に減衰されている。


「今のうちに入るぞ。」


 俺を含む部隊は小柄で耐久性は低いが局所的な爆発力を持った魔物が集められている。元々は危険度が高くなかった動物が環境適応で対抗武器を手に入れた結果だという。おとりがいなければ俺らが焼き殺されていただろう。


「この中を進むんですか!?」


 無言で頷き前進を促す。都市周辺には魔砲攻撃が乱れ打ち状態になり,あちこちが焼け焦げ,クレーターが形成されている。風化してほとんどその名残はなくなっていたが,かつての戦争でも同じような光景が繰り広げられていたのだろうか。


 その攻撃網をかいくぐり,都市への進入路に到達する。ここは外敵向けの兵器からは死角になる分,別の防衛装置が仕掛けられている。


「Stain!」


 一番外側に設置された監視機と防衛装置を同時に破壊する。監視機が残ればこちらの正体が向こうに伝達され,防衛装置が残れば問答無用で攻撃が飛んでくるからだ。そしていずれにしても後続の連中が倒されてしまえば攻略は不可能になる。


 構造は追放された当時から何も変わっていない様子で,その設計図通りに破壊していったら何の問題もなく第一目的地に到達した。


 侵入するまでには嫌気が差すほどの防衛装置が配備されているのだが,肝心の演算室には1つも設置されていない。せいぜいが全体を確認できる監視機がある程度。しかもそれらはここにあるモニターでしか確認できないとか,設計者は何を考えていたんだ。


「よし,じゃあこの機械を破壊してくれ。特にこの部分を重点的にな。」


 都市保安装置の中央演算機。その重要性に応じて強固な素材が使用されている。だが,魔物の人外の力にかかれば……。


「よし。そこまでだ。外の部隊も総員撤退せよ。」


 予想に反し,さすがに強固な外殻なだけあって魔物の馬鹿力をもってしても破壊には時間を要した。それでもようやく内部が剥き出しになり煩雑な回路の分解に取り組むことができるようになる。


「お前らも下がっておけ。」


 正直横にいられると邪魔だからだ。回路の分解をしながらシステムの終了もしていかないと手の付けられない状態になって都市内部での戦闘が不利になる。その罠があることは早期に分かっていたのだが,解体手順を組むのに時間がかかったわけだ。1つでも失敗すれば即終了。回路を1つ2つと切断しては時間内に特定のセキュリティシステムを停止させることを繰り返す。それぞれ壊すことが認可されていることを確かめるためのもので,失敗すると都市内部の防衛装置に侵入者の情報が送られた上で入力を受け付けなくなる。



「……ふー。」


 長時間にわたる操作の末,都市全域の防衛機能を完全に停止,終了させることに成功した。一時停止程度ならばこんな手間はかからないのだが,完全停止に解体しか用意していないのは制作者の頭がおかしいとしか言えない。停止はメンテナンス用で,元から解体するつもりはなかったようだ。


「作戦段階が移行した。総員突撃。王城を除く人間を殲滅せよ。」


「逃げ出した場合は?」


「都市の外に出た連中は逃がしておけ。必要以上に追いかけるな。」


 外で待機していた部隊に通信で指示を与える。

「俺らは王城へ乗り込む。そこで王を討つ。」


 率いた魔物は護衛の者で足止めを食らわずに殲滅していくためのものだ。この演算室からならば王城内に直接乗り込む道があったはずだ。随分と古くなって何度も写しを取った地図を元に道を選んでいく。区画が変わる毎に地面からの高度が上昇していく。半空中都市であることも攻め込みにくい要因だ。


「ここから地上に出るはずだ。」


 正面の扉を開くと王城の地上階に出るのだから,どちらかと言えば出入りの部屋そのものが地上ではあるか。ともかく,ここに本来あるべきセキュリティロックはもう使い物になっていない。力尽くで扉をこじ開ける。


「そこまでだ!」


 2人の武装した人間が武器をこちらに構えていた。


「やはり待ち伏せしていたか。やれ!」


 魔物の1体に指示を出すと,2人に対して攻撃を仕掛ける。その隙をついて残りを率いて階段を目指して走り出す。


「くそ! ああ,お前どけ!」


 兵士の罵声を尻目に王の間を目指す。あちこちに配置された兵士に魔物をけしかけながら。その数はあるところから一定になる。戦闘順序が早かった個体が部隊に戻ってきているからだ。


「王はいるか!」


「なんだね!? 君が都市中を騒がせている侵入者かね!?」


「ああ,そうだ。」


 玉座に座ってびくびくと怯え続けるその姿は実に滑稽だ。護衛の者は全て出払い,主のために魔物と戦っているか,或いは既に退場しているか。こいつを守るものはいない。


「何者なんだ!?」


「ニコラウス・カレンベルグ。処刑者一覧名簿でも調べれば名前が出てくるだろうよ。」


 久しぶりに名乗ったものだから一瞬名前が出てこなかった。それどころか別の名前を口走りそうだだった。


「何が目的だ! 私にできることならなんでもしよう,だからどうか命だけは!」


「物わかりが悪いようだからはじめから説明してやろう。俺は随分昔にこの都市に住んでいた。都市の生活を良くして,人々に活気を取り戻そうとした。」


「それはいいことじゃないか。その頃の心を取り戻さないか?」


 人らしい一面を垣間見て王は少しだけ安堵の表情を見せる。


「だが! 以前の王は俺を処刑した! 都市の平和を乱す反乱分子として!」


「……そうか,それは申し訳ないな。だからといってこんなことをする必要はないだろう?」


 自分の命がかかっていると感じ取っているのか,自分のことでもないのにやけに素直に謝った。


「確かにな。1度のみだったら俺が勝手に始めたことだったし,恨みもしなかったさ。」


「どういうことかね? 処刑は1度きりじゃないのかね?」


「この世界ではな。忘れていればよかったのに,処刑されたときに思い出したのさ。前世でも王に理不尽な形で殺されたことをな! 俺は勇者として魔王を倒した。だというのにあの王は俺を火刑に処した!」


「……それって逆恨みじゃないのかね?」


「ああ,逆恨みだ。あんた個人には何の恨みもない。」


「なら……!」


 希望に満ちた表情でこちらを見つめる。決して救いなどないというのに。


「人は俺が不要になったらすぐに切り捨ててきた。だから俺もこの都市には王などという独裁権力は不要だと断じるまでだ。」


 最後の一撃に向けて武器を構える。後はこれを振り下ろせば憎たらしい王は潰える。


「え……? いや待ってくれ! 殺さないでくれ,殺さないでくれ!」


 玉座に座ったまま彼の顔から一気に血の気が引き,目は見開く。手足をばたつかせ,近寄らせまいと抵抗をする。


「なんだ,遺言があるなら聞いてやる。」


「お願いだ,その剣を下ろしてくれ! 私に恨みはないんだろう,なあ! これでも殺すなんて魔王じゃないか!」


 その,とは言うが全身が震えているせいで正確に指さすこともできなくなっている。


「そうか,ならば死ね。」


 最後の1撃はあのときと同じようにあまりにも呆気なかった。恐怖に引きつった王の頭部は跳ね飛ばされ床に転がる。切断面からは勢いよく血が噴き出し,玉座を真っ赤に染める。ひっきりなしに動いていた手足の動きはやがて止まり,玉座から滑り落ちる。


「お前ら,物足りないかもしれんが,あそこの死体を食っていいぞ。」


 許可を出すと最も飢えていたらしい魔物が真っ先に飛び出して体に食らいついた。その一方で別の個体が頭部を丸呑みしていた。


「そちらはどうだ?」


「都市にいた人間は全員殺されるか,都市を脱出しました。」


「そうか。じゃああとは好きにしろ。都市を荒らしてもいい。残った死体を食べてもいい。只今をもって戦争は終了し,軍は解体だ。」


「はっ。」


 どれだけの兵が残っていたのかは把握していない。そんなのは把握する必要がない作戦だったからだ。都市内部に安全に入り込めるものが少しでもいたならばこちらの勝利が確定する。そういう戦争だった。


「王城内の人間を始末してこい。」


 最後の片付け。どこかの部屋に人が潜んでいるかもしれない。魔物と共に王城内をくまなく探索する。


「いや,いやぁああー!」


 そして籠もっていた人を見つけては魔物に殺させる。建物が血に染まっていくが後で綺麗にすればいい。何部屋かは窓が開いたままになっていたりと王城から逃げ出した痕跡があった。運良く外まで逃げることができたのならば,周囲の魔物は内部に集まっているので生きながらえているだろう。そうでないのなら他の人間と同じこと。


「よし,もう解散だ。Loschen.」


 軍に属していた魔物に描けていた幾つかの強化魔法をその瞬間,魔物の1体が襲いかかってきた。


「おっと,俺に刃向かおうだなんて思うなよ?」


 その魔物は空中で岩に貫かれ,勢いを失って墜落した。奴らに襲われるよりも先に制御できる力がある。だから間に何も挟まずにこうして統制をとっていた。本能的に危険と判断した魔物は残った魔物の死骸の状態を確認もしないで散開していった。おそらく都市に残った死肉でも食べてから元の住処に帰るのだろう。

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