第2話 おはよう異世界 バイバイ人生
2話です!ここで大きく物語が主人公に展開が訪れます。
少しでも多くの方の目にとまると嬉しいです!!
pt、ブクマ、感想、レビューも非常に作者の励みに繋がりますので良ければ宜しくおねがいします!
(…いてて、なんだったんだ今のは?)
突然、足元が光ると同時に視界が真っ白になって意識が飛んだ。
大河を前にした緊張の余り、幻覚でも見て気絶したのかと疑ったが…
周りの異様な雰囲気に気付いて顔を上げる。
「っ…!なんだ…ここは!?」
目に付いたのは真っ赤で重厚な絨毯、
金銀の装飾をなされた豪華な壁に…
頭上には荘厳な天井画と大きなシャンデリアが目につく。
しかし何よりも驚いたのは自分の他にも草薙天馬、狐野優香、毒島巳理愛、大河勝信の4人がいたことと……
フード付きの白いローブを着た怪しげな集団と全身を甲冑で包んでいる騎士達、
赤いマントに冠を被った威厳のある初老の男性、
そして薄ピンクのドレスで身を包み、
頭には黄金色のティアラをのっけた美少女が僕達の周りを取り囲んでいたことだった。
まるで物語に出てきそうな集団はざわざわと声を立て、何かを口々に言っている。
…一応、僕以外の皆も意識はあるようだが、
誰もがこの異様な状況を飲み込めていないみたいだ。
そんな中、白いローブを着た集団の中から1人の老人が前に出る。
「おお、全員お目覚めのようですな…!
ワタクシはレミール王国宮廷魔導師長、ジャイロ・マシュー・ロドリゲスと申します。
ワタクシ達の召喚に応じて頂けた事を心より感謝を申し上げます!異界の勇者様!」
…もしこのジャイロという男の言ってる事が本当ならよく見る異世界ものの小説と同じ出来事が僕たちに?
僕はこの状況を恐怖に感じる反面目の前の老人の言葉に少し期待を抱く。
「なっなっ…!!何を意味のわからねぇことを言ってやがるっ!今すぐここから帰してくれ!!」
そんなことを考えていると気の強い大河が一番早くジャイロの言葉に応える。
「…申し訳ございません勇者様。ワタクシ達の技量では勇者様を元に返すことが不可能なのです。」
老人の返答に大河の顔が真っ赤に染まる。
「っふざけんな!!」という大声と共に大河はジャイロに殴りかかる。
「落ち着きなさい!大河!!」
殴りかかろうとしていた大河を毒島が間髪をいれずに止める。
毒島の言葉で頭に血が上っていた大河にも周りの状況が良く見えたようだ。
ジャイロという男に殴りかかろうとした大河の周りには甲冑を着て待機していた騎士が剣を抜いて大河に切っ先を向けていた。
「よい!剣を下げよ!」
今まで沈黙を貫いていたドレスを着た美少女が声を上げた。
「私たちは勇者様を急に異界からおよびしたのです。
勇者様が困惑するのも無理はありません…。
ジャイロ宮廷魔導師長。勇者様への説明は今から私が変わります。」
ジャイロはそれを聞くと返事をして後ろへと下がる。
「申し遅れました勇者様。私はレミール王国第1王女エレナ・ノントール・レミールです。
…勇者の皆様には私たちの不手際でご迷惑をおかけした非礼を第1王女の私が変わって謝罪します。
大変申し訳ございませんでした…。
…ですが、私たちが勇者様をおよびしたのにも理由があるのです。
どうか聞くだけでも…お願い致します。」
そう言うとエレナという王女はこの世界の現状を語り出した…
王女の言った事を簡潔に簡潔にまとめると、
この世界には人族と敵対する魔族なら存在がおり、その王、魔王の復活が近い。
魔王を倒すためには勇者の力が必要。
だが勇者の発現を待つには長い時間がかかる。
その為、勇者の力を持った人間を異界から召喚魔法にて呼び寄せることにした。
だから僕たちに力を貸して欲しい…と。
ざっとこんな感じの流れだった。
もちろん、ただで貸して欲しいとは王女も言わず、
対価として金銀財宝、美男美女、領地、この世界での名声どんなものでも思うがままに差し上げましょうと言うと、
反対気味だった大河も目の色を変える。
結局、僕たち5人は話し合った結果、
力を貸し、その場で世界を救うことを誓った。
レミール王国と契約を交わしてすぐ確認されたのは僕たちのスキルと称号。
この世界には地球と違いスキルや称号というものが存在しているらしい。
普通では出せないような技術や力をスキルによって出すことができるらしく、
更に称号は神が直接授けたものでスキルに似ているがスキルより強大な効力を持つとのことだ。
そして勇者も称号の一つに含まれる。
スキルの確認は最初に大河、次に毒島、優香、天馬と順に調べられていく。
皆、勇者の恩恵もあってか最初から強力なスキルを保有してることも確認され、レミール王国の兵士から一部歓声が上がる。
特に天馬のスキルには最初から、
多くの戦闘系スキルと補助スキルがあり国王とエレナ王女ですら驚いていた。
…そしていよいよ、僕の番が回ってきた。
鑑定のスキルにより、僕のスキルと称号が映し出される。
ドクン…ドクン…。
緊張で興奮で鼓動の音が聴こえてくる。
もしかすると天馬以上のスキルがあるかもしれない。
そんな期待を抱きつつ、僕が目を開けると……
………ない?!
そう、『ない』のだ。
スキルも、勇者という称号すらも。
いや正確に言えば、称号の欄に『勇者の卵』というものはあるのだが、
皆が持つ勇者の称号は無く、
戦闘系スキルも魔法系スキルも補助系スキルもなにも持ってはいなかった。
「そんな…!あり得ない!!言い伝えでは異世界から召還された者は絶対に勇者の称号があるはず…!」
皮肉にも天馬の測定時以上の反応をエレナ王女が悪い意味で見せる。
「いやしかし、何も無いとは…これでは伝承にある災いの…」
「ジャイロッ!!口を閉じなさい!まだそうと決まった訳ではないわ。」
スキルの確認に立ち会っていたジャイロ魔術師長がが何かを言おうとしたが、
エレナ女王がそれを遮る。
「……フシミ イッセイ様。私たちには貴方のスキル、称号が何も確認できないのですが、
もしや貴方様だけにしか見えないスキルや称号というのは確認できますでしょうか?」
本人にしか見えないスキルや称号と言うのが、非常にごく稀にあるらしい。
そしてどうやら王女たちは僕の『勇者の卵』のスキルを見れないようだった。
「はい…称号に勇者の卵というスキルがあります。
あの、、これって異常なことなんですかね?やっぱり。」
それを聞くと、エレナ王女は少しホッとしたように溜め息ついた。
「いえ、問題ありません。一応その称号がどんなものか私たちに教えて頂くことはできますか?」
「分かりました!やってみます。」
自身のスキルや称号の調べ方はそのスキルの名を深く念じ頭で復唱するだけらしい。
(…勇者の卵…勇者の卵…勇者の卵…勇…)
「…どんなスキルか分かりました。
勇者の卵は勇者の素質を持った人間が勇者に覚醒する前の称号。
自分の中の限界を超えた時卵の殻が割れ勇者として目覚めることができるみたいです。」
「なるほど…。初めて聞くスキルですね。
しかし、それが本当なら……今まで勇者が突然現れてきたことに納得できます。」
僕の言葉に応えたエレナ王女の声が少し弱々しく疑いにかかるような言い方に聴こえたのが少し気になった。
(…さっきのジャイロさんの言葉と何関係あるんだろうか。)
しかしそれ以上何も言われないまま、
僕のスキルと称号の確認は5人の中で最悪の結果で終わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから十数日はレミール王国の王城でこの世界の様々なことの学び、
来たる戦闘に備えて訓練をする。この繰り返しだった。
この十数日間。メキメキと力を付け勇者の素質を見せる4人に対して、
僕だけが全く成長出来ないでいる。
勇者の卵の説明通りなら限界を乗り越えれば勇者になれる。
そう信じて5人の中では特にキツイ訓練を僕は行っていた。
しかし結果は勇者として目覚めるどころか、
異世界最高の環境でありながらスキルの1つも覚えられないという、凡人以下の成績を残していた。
更に最悪だったのは異世界に来て一度は収まった毒島と大河のイビリもそのことでまた再燃したということだ。
見知らぬ異世界に飛ばされて精神的ストレスを全く感じない人なんていないだろう。
僕はそんなストレスを解消する為のはけ口として日々、
陰湿なまでに2人の罵詈雑言と暴力を受け続けた。
勇者の指導係に命じられた教官も毒島と大河の行動を把握していたが、
勇者でもなんでもない僕がどうなってようが、関係ない。そんな風だ。
(これでは異世界に来る前と同じじゃないか…。)
しかし実際はそれどころか、
何故か親友の天馬と優香ともこの世界に来てからまともに口を聞いてない。
僕の現状は異世界に来る前と同じどころか下手するとそれ以下だった。
…そして1カ月が過ぎる。
この日、レミール王国は初めて勇者一行を王城内からレミール王国領にあるダンジョンへの遠征訓練を命じた。
理由としては勇者たちの力が充分ついてきたことと、
勇者が最も成長するのは実戦であるということ。
そして最後に未だに勇者として目覚めることが出来ていない僕のいい刺激材料とする為であった。
「はぁ……でもこの遠征でも結果を出せなかったら。」
そんなことを1人訓練場でつぶやいて暗い顔をしていると、最近余り口を聞いていなかった天馬と優香が声をかけてくる。
「一生、そんな暗い顔してると勇者の力も逃げちまうぞ。
お前にも勇者の素質があるんだろ?
なら勇者らしくドンと構えとけばいい。」
「天馬君の言う通りだよ!きっと一生君にも勇者の力が目覚めるって私信じてるんだから!」
「…天馬、優香……ありがとう。でもなんでここ最近ずっと口を聞いてくれなかったんだ?」
僕の言葉に優香が一瞬動揺したように見えた。
「…それはね、、ここ最近訓練が忙しくて私も天馬も頭がいっぱいいっぱいになってて…自分のことで精一杯だったの。
決してわざと無視してた訳じゃないんだよ…!!
一生に寂しい思いさせてごめんね…。」
「一生、俺から謝る。すまなかった。」
優香と天馬が涙を目にためながらそう言うとそんなことで悩んでいた自分の小ささに申し訳なくなる。
「いやいや!そんな大層な事じゃ無いから謝らなくて大丈夫だって!」
僕は慌ててそう言った反面よくよく冷静になるとどこか違和感を感じた。
何かは分からないがなんだか嘘くさい…。
(いや無二の親友を何疑ってんだ僕は…いきなりこんな異世界に連れて来られたんだ。
そりゃ天馬や優香でも混乱するよな…。)
僕は半ば無理やり、
自分でそう納得すると天馬と優香と一緒にダンジョンに向けての遠征準備を始めた。
遠征当日、僕たち勇者はまだ公に存在を公開されてないらしく、馬車でダンジョンへと向かう。
もちろん遠征には勇者だけでなく王国騎士団精鋭20名も動員することとなっており、
この一団が馬車で移動する姿は壮観な眺めだ。
僕の乗る馬車には僕を含めたクラスメイトの4人と1人の騎士が護衛に当たっていたのだが、
毒島と大河が僕を前にして何も言わずにただ座っていたのが不気味で仕方がなかった。
僕は気分を変えようと外の景色を覗く。
広がる大地、青い空。
空には見たこともない鳥が飛んでいた。
(この世界の外はこんなに美しかったんだ……。)
僕はそう思いつつまさか今見てる景色が生きてる内に最後に見る外の景色になるとはついぞ思わなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お、おい嘘だろ…!何するんだよ…天馬…。」
目標のダンジョン10階層まで達成した僕たちは今から帰還する。
…そのはずだった。
だが何故か俺は親友の天馬の剣で腹を貫かれている。
周りはその様子を見ていたが騎士や他の3人から全く助けようとする気配が感じられない。
「おー、、ごめんごめんww手が滑ったよ!一生君ww」
天馬が僕に刺していた剣を抜き取ると今までに無いくらい残酷な笑みを浮かべてそう言った。
頭が追いつかない。
「クスクス…この状況でまだ自分の立場が理解できないなんて一生ってホント馬鹿だねぇ。
一生ってなんでも信じるんだもの…
昨日の遠征準備の時も余りにも面白くて涙が出るわで、ふふっ…笑いを堪えるのが大変だったのよ。」
あの優しい優香から信じられない言葉が出る。
「そんな…!!なんで!嘘だろ……優香と天馬俺たちは昔からの親友だろ!!」
「あら、あなたはこの2人の引き立て役としていただけだと私は思っていたけど気付いてなかったのかしら?
私はてっきりそれを踏まえながら2人の横にいるんだと思ってたわ。」
毒島の言葉に僕は絶句する。
そんな嘘だ…!
そう思う一心で天馬と優香の方を見る。
「巳理愛さんの言う通りだよ一生♡
一生わー、、私たちの人気取りに丁度良かったんだよねぇ。
ほらー、カースト底辺に優しくしてやってる聖人君子を演出するためにはさぁwwww」
優香が高らかに笑い声を上げる。
僕は全てを理解して絶望に打ちひしがれた。
「えげつないねぇ…あんた達。でも大河と私にはそのことバラしちゃって良かったの?」
「ええ、あなた方に善人面を装ったところで無意味ですし、
それにこの一生の野郎をいつか殺してやりたいと思ってたんですよ俺。
…軽々しく俺の優香に触れやがって!」
「天馬ごめんよー…。
トイレでの時に一生の手を握ったのはやり過ぎだったね。
心配しなくても優香は天馬の優香だよ♡」
毒島、天馬、優香がそんな会話をしている
と、
「で、コイツまだしぶとく生きてるっぽいけど、トドメってもし良ければ俺がやっちゃても良いすか?w」
大河がニヤニヤと笑みを浮かべながら恐ろしい事を言う。
「…や、やめろ!死にたくない!嫌だああああ!!」
顔をぐしゃぐしゃに崩し、涙と鼻水でドロドロになりながら僕は叫ぶ。
「一生の言う通りだ!ダメだよ大河。
賭けには俺が勝ったんだからトドメを刺すのは俺だ。そう決めただろ?」
「チェッ…これなら俺もコイツが10階層まで致命傷を負わない方に賭けておけば良かったぜ…
まさかのこのクズがここまで生き残るなんてなぁ。」
「…お、おい賭けってなんだよ…
なんで僕が死ぬことが…前々から決められてるんだ…」
僕は天馬と大河に聞くと大河が笑いなが
らその問いに答えた。
「お前を助けねぇ王国の騎士を見てまだ分かんねえのか??www
お前はレミール王国から捨てられたんだよ!
全く才能のない時間だけを潰す無能はいらないとのことだぜwwww」
…余りにもの事実に目の前が真っ暗になる。
(はははっ…結局僕はどこへ行っても居場所はないんだ…ううっう…あんまりだ……なんで僕ばかりこんな理不尽な目に…!)
ふと過去を振り返ると今までの自分への仕打ちに激しい憤りを感じた。
両親に、
教師に、
クラスメイトに、
元親友に、
学校に、
人に、
国に、
世界に、
そして自分の運命に…。
その瞬間少年にしか見えない称号 勇者の卵にヒビが入る。
…パッパラパー!
軽快な音と共に称号 勇者へと覚醒したことを知らせた。
(………遅いよ。)
ここまで不運が重なると最早僕は笑うことしか出来なかった。
狂ったような笑い声がダンジョンの中で響く。
僕の奇行にさっきまで嘲笑っていた4人も驚いて顔から笑いが消える。
「アーッハッハッハ…ククク…っろしてやる!お前ら全員…殺してやるッ!!」
「…いきなり笑い出したと思えば、今度は負け犬の遠吠えですか……
もう飽きましたし、殺しちゃいましょうかね。」
死にかけの負け犬の鳴き声にしては妙に重みがあったことが天馬を不快にさせた。
ザシュッ!天馬が心臓を一突きすると負け犬は何も喋らなくなった。
「…化けて出られても嫌ですし、念には念を入れておきましょうか。」
天馬は近くにあったダンジョンの落とし穴に僕の死体を投げ入れる。
死体はそのまま穴の底へと落下していき、僕は闇な中に消える……。
…
……
……ロシテヤルッ!
………許サナイッ…
………ヤツラニ復讐スルチカラヲ…!
何も見えない闇の中で人でない何かが胎動をしていた…。
・ー個体名=伏見 一生の死亡処理が受理されましたー・
・ーこれより個体名=伏見 一生に与えられた称号 勇者の回収を開始しますー・
・ーERRORが発生しました個体名=伏見 一生の称号 勇者の回収ができませんー・
・ーERRORが発生しました個体名=伏見 一生が種族 人からアンデット種の種族 スケルトンへ変更したことを確認ー・
・ーERRORが発生しました個体名=伏見 一生に称号 災禍の御子が追加されましたー・
・ーERRORが発生しました個体名=伏見 一生に称号 魂喰らいが追加されましたー・
とうとう主人公覚醒です。