甘い罪のプロローグ
お久しぶりです!
第二章開始にあたり、変化している設定がいくつかございます!
ローザリアの髪色 プラチナブロンド→シルバーブロンド
ジラルド 栗色の髪、同色の瞳→鳶色の髪、同色の瞳。眼鏡キャラ。
◇過去の所業や尾ひれのついた噂により、『薔薇姫』と同時に『極悪令嬢』とも囁かれている。
◇ローザリアはカディオに一目惚れしておらず、告白もまだ。
◇レンヴィルドは二人の仲を応援する立ち位置から、特に手助けしない傍観スタンスに。
動向を見守りつつ、何を考えているのか……?的な立ち位置。
これらを元に第二章を進めていきますので、ご了承くださいませ。
詳しく知りたい方は書籍をよろしくお願いいたします!(土下座)
国内貴族のほとんどの子息息女が通う、王立レスティリア学園。
文武に秀でた者を、あるいは素晴らしい淑女を世に送り出す、歴史の古い学舎だ。
そこに現在、腫れ物のように扱われる生徒が二人在籍していた。
一人は特待生として市井から入学してきた少女、ルーティエ。
優秀な成績を修め難関の特待生枠を掴んだ秀才なのだが、いかんせん貴族ばかりの学園においては浮いてしまう存在だった。
彼女自身の人懐っこさによる目に余る行動のためでもあるが、最近は学園内の校規に則した振る舞いをするようになったと専らの評判だ。
もう一人の問題児は、陰で『極悪令嬢』と囁かれている侯爵家令嬢、ローザリア・セルトフェル。
セルトフェル邸から一歩も出ることなく生涯を終えるはずだった『薔薇姫』という存在であるのに、自らの意志と行動により学園への編入を果たした。
周囲の生徒達からすればいい迷惑といったところだが、本人は遠巻きにされることさえ全く気にせず学園生活を謳歌している。
ある事件をきっかけに、学園内の問題児二人は関わりを持つこととなった。
互いの胸の内を明かし合い、傷付けるような言葉もぶつけた。その末に、仲を深めるに至ったのだ。
今ではクラス内でも、行動を共にすることが多くなっていた。
本日の授業も無事に終了し、放課後。
ルーティエが、ローザリアの席に近付いてきた。
「ローザリアさん、もう行ける? あ、間違えた。もう行けますか?」
「ルーティエさん……」
普段はくだけた口調の彼女も、教室内ではつたないながらも敬語で話す。
完璧には程遠いが、公の場で最低限の振る舞いができるようになったのは目覚ましい進歩だった。
「身分を問わない学園内とはいえ、目下の者から話しかけてはならないといつも言っておりますのに」
「あ。大変失礼しました」
「うっかりが多すぎますわ」
「はい、すみません」
子犬のような風情で落ち込むルーティエに、ローザリアは嘆息した。
人の目がある場所では、互いに本音で話せない。
それは貴族令嬢として育ったローザリアにとって日常であったはずなのに、今は少し歯痒く感じる。
「残念ですが、少々所用がございますの。先に向かっていてくださる?」
今日はこのあと、お茶会の約束があるのだ。
はじめの質問に答えると、ルーティエは寂しそうにしながらも素直に頷いた。
「分かりました。先に行ってますね」
「えぇ。くれぐれも、アレイシスを連れていくことを忘れないように」
「目的地が同じなのに、忘れるわけないですよ。ローザリア様ったら心配性ですね」
最後には笑顔で、彼女は離れていった。義弟であるアレイシスと何やら楽しそうに話している。
彼は問題児のように見えてかなりしっかりしているし、来年度の生徒会入りは確実とされている。アレイシスがついているなら安心だ。
それを見届けてから、ローザリアもようやく席を立った。
周囲の怯えが混じった視線をものともせず、一人廊下を進んでいく。
目的地は、校舎裏。
馬鹿馬鹿しいほどありきたりで、呼び出した相手の程度も知れるというもの。
遠目から観察してみると、目を尖らせた女生徒が三人、威圧感満載で待ちわびていた。
ーーああいった手合いは、徒党を組むのがお好きなのかしら。物好きな。
警戒する価値さえないと判断したローザリアは、さっさと片付けてしまうことにした。
「ごきげんよう」
故意にゆっくりと言葉を紡ぐ。
少女達は、予想外の事態にギョッとしている。
「な……何であんた、いえ、ローザリア様が……」
「嫌ですわ、知り合いでもないのに。どうかわたくしのことは、家名でお呼びくださいませ」
冷たい笑みに、女生徒達はみるみる顔色を失っていった。
「ルーティエ様は大切なご予定があるそうなので、わたくしが代わりに参りましたの。わざわざお呼び立てするほど重要な用件がございますのに、無視をしては失礼にあたるかと思いまして」
ローザリアはことさら勿体ぶり、けれど決して歩みを止めることなく近付いていく。
それはまるで、蛙を捕食する蛇のような。
「ーーそれで? 一体何のご用かしら?」
『極悪令嬢』が登場した時点で戦意を喪失していた少女達は、離脱も素早かった。
「たっ、たいへん失礼いたしました……!」
まだ話はついていないというのに、身を翻して駆けていく女生徒達。
振り返った時には既に背中が遠ざかっていた。
「全く、骨のないこと」
二度とこんな呼び出しをしないよう釘を差し損ねたが、ああも怯えていたならもう手出しをしてくることはないだろう。
実はローザリアは、未だルーティエを蔑視する輩から彼女を守っていた。
それほど多くはないが、何日かに一度手紙で呼び出されていたルーティエ。
彼女がそのたび落ち込むために、気取られぬようこっそり代わってやるようになっていた。
人助けのため、友情のため、という殊勝な気持ちからではない。
全てはこのあとのお茶会を心から楽しむため。
どうせレンヴィルドにからかわれるであろう言いわけを頭の中で並べながら、ローザリアは談話室に向かった。
そこには既に全員が集まっていて、各々穏やかに談笑していた。
ルーティエは、アレイシスと公爵家子息であるフォルセ・メレッツェン、次期宰相候補の呼び声高いジラルド・アルバに囲まれ、賑やかに紅茶の準備をしていた。
席についてくつろいでいるのは、王弟であるレンヴィルド・ヴァールヘルム・レスティリア。
そして彼のすぐ後ろに控えているのは、王立騎士団の中でも花形である近衛騎士団に所属している、カディオ・グラントだった。
「やあ、ローザリア嬢。今日は早かったようだね」
王弟殿下からの言外の指摘に、ローザリアはすぐさま笑みを返した。
「レンヴィルド様こそ、今日は執行部の仕事を押し付けられなかったようで何よりですわね」
「押し付けられた分を予定までに終わらせるのが、できる男というものだよ」
「できる男性はそもそも仕事を押し付けられないと思いますけれど」
こんな嫌みの応酬ができるのも、確実に仲裁してくれる人間がいるからこそだ。
予想通り、慌てた様子で割って入ったのは気の優しいカディオだった。
「お二人とも、今日はその辺りにしてください」
「まぁ、カディオ様がそこまでおっしゃるなら」
あっさり矛を収めたローザリアは、紅茶を待ちきれずテーブルに並ぶクッキーに手を伸ばした。
今日のクッキーは素朴なバタークッキーだが、ルーティエの手作りだ。男性陣による熾烈な取り合いになるのは必至だった。
「それにしてもレンヴィルド様、最近押し付けられる仕事量が尋常ではごさいませんこと?」
「私もそれには同感だよ。これでは執行部の役員とほぼ変わらないのではないかとね」
執行部の役員を決める選挙は、現執行部員二名からの推薦を受けた数名が票を争う仕組みとなっている。
新年度に変わっておよそ一か月ほどで告示されるので、最近の学園内は選挙一色に染まりつつあった。
枯れきったため息をつく二人の元に、ルーティエがやって来た。
「ローザリアさん、レンヴィルド様。今話してたんだけど、最近街にオープンしたばかりのドルーヴに、みんなで行ってみない?」
「ドルーヴ?」
「うん! 王都初の複合型施設なの!」
首を傾げるローザリアと異なり、カディオは明るい顔で頷いた。
「あぁ、ドルーヴなら俺も聞いたことがあります。確か、以前遊びに行ったショコラ店も支店を出しているそうですよ」
「そうなのですか」
何でも、色々な店舗が一カ所に集まった大規模な複合型施設らしい。
食事店や甘味店、衣料品店など出店店舗の種類は多岐にわたり、目新しいもの好きの間で話題になっているという。
「カディオ様は、もう行かれたのですか?」
「ものすごく混んでるので、残念ながら一度も。最新の甘味があるらしいので興味はありますけどね」
ローザリアと同じくかなり甘党なので、気になるのだろう。
ーー他の方々はそれほど甘いものが得意ではありませんし、あわよくば二人きりで……なんて。
今まで大人数で出かけたことはあったが、デートの経験はない。
ローザリアは、ようやくカディオへの想いを自覚したばかりだ。
しかし自覚したからには何とか策を弄して攻め落としたいと、不穏な考えを持つようになっていた。
「それでね、ローザリアさん」
物思いに沈んでいたローザリアは、ルーティエの声にハッと我に返った。
デートの前に、まずは全員で遊びに行く予定を話していたのだった。
彼女はしばらくモジモジしていたが、しっかり目を合わせると思いきったように口を開いた。
「あのね、その……もし可愛い小物があったら、お揃いでどうかなって……。もちろん、ローザリアさんの目に叶うものを庶民の私が買えるか分からないんだけど!」
直球を投げ込まれ、ローザリアは面食らった。
ルーティエのこういった素直なところは、見習わなければと思うほどの美点だ。
とはいえ親しくなったばかりだからか、毎日どぎまぎさせられっぱなしなのだが。
ニヤニヤするレンヴィルドをあえて無視しながら、ローザリアはことさら顎を反らした。
「わたくし、高価であるほど素晴らしいなどと考える、底の浅い人間ではありませんわ」
「? つまり……?」
「……わたくしも、嬉しいです」
なぜここまで言わねば分からないのかと八つ当たり気味に考えるも、輝くような笑顔を見れば文句が出てこない。
ローザリアは僅かに頬を染めながら、誤魔化すようにチョコレートを取った。
「やはり疲れている時は、チョコレートよね」
彼女の甘すぎる真っ直ぐさは、心臓に悪い。
校舎裏への呼び出し以上に感情を揺らすのだ。
ルーティエが、心配そうに顔を曇らせた。
「ローザリアさん、疲れてるの?」
「えぇ、一仕事して参りましたので」
「仕事?」
「そうね。ーー『極悪令嬢』の嗜み、といったところかしら?」
ローザリアは安心させるように微笑みを返すと、オレンジピールのチョコレートを口に含む。
ビターチョコレートの控えめな甘みが口一杯に広がると、あとからオレンジの果皮のほろ苦さと、鼻に抜ける爽やかな香りが追いかけてくる。
その甘美さを知ってしまえば、もう一度手を伸ばさずにいられないのだから。
甘いものとは何とも罪深い。
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真面目な男子高校生がほんわかぽっちゃり藍子さんに恋をするというほぼファンタジーなお話ですので、普段現代恋愛ものは読まないという方もぜひお気軽にお試しください!
カクヨム様にて大量試し読みを公開しております!(他サイトの宣伝すみません)
また、『TS転生ボスと七人の元養い子達』も連載再開しました!
完結(第一章終了)まで毎日更新いたしますので、そちらも併せてよろしくお願いいたしますー!




