温かな草原
風に吹かれ草がなびく。
さわさわという合唱が私を迎えてくれる。
ここがどこかという疑問は浮かばない。
都会生まれ都会育ちの私が自然と触れあえるのはここ――――夢の中だけだから。
人の手で作られた灰色の森の中で生活していたら絶対に経験できないこの非日常さが、私をより一層高ぶらせてくれる。暖かいけどどこか冷たさのあるあそことは違って、ここは暖かく、温かい。流れているそよ風もとても気持ちいい。
私はここに来るといつも、あることをする。でも急ぎはしない。時間はたっぷりあるのだから。
左手で右手首をもって、そのままゆっくり、高く持ち上げる。背中を反らせて体を伸ばす。眠っているときに目を覚ますようなことをするのはちょっと変だけど、したくなるから仕方ない。んーって思わず声が出るけど、ここには私しかいないから恥ずかしくないし、大丈夫だよね。
力をゆるめて息を吸うと、嫌なにおいも埃もない、新鮮な空気が肺いっぱいを満たしてくれる。優しくて、体の中から和ませてくれる。ふぅと脱力して息を吐くと一緒に疲れも出ていくよう。背中は優しさに支えられている。
でも。
どさっと後ろに倒れる。青々と生い茂る芝のような植物が、チクチクと突かれる不快さなく包み込んでくれる。天然のベッド、というよりは絨毯のような感触だけど、それがまた日常から離れさせてくれる。
これこそが私の、ここに来たときの定番。広大な自然の中でポカポカとした陽気に包まれながら寝転がるなんて夢のような……まあ夢なのだけど。社会や関係、他人の目を気にしないで自由に過ごせる空間は、自然がもたらしてくれる癒やし以上に疲れを解してくれる。
まったりとした時間の流れるところで眠くならない道理はないと思う。
横になって少し。微睡み始める体とそれを勿体ながる心とが葛藤を始める。
きっとまた来れる。だけど、既にここは眠りの中だから寝る必要はない。
そんなことを考えているともっと眠くなって、体を丸くする。
いいや。このまま寝てしまおう。
気を緩めた私は、二度目の眠りに落ちていった。