2.誰がお嬢さんだ
チュートリアル回。
カムイの秘密が少々開示。
気がつくと、地平線まで続く大平原だった。サバンナよりも広大ではなかろうか? 行ったことはないので、テレビとかの映像を参考にして、だが。
そして、目の前には緑髪のガタイのいい男が一人。少なくとも、身長は私より高い。
「ようこそ、お嬢さん! 俺は──「誰がお嬢さんだ、誰が」──チュートリ……何だって?」
「だから、誰がお嬢さんだと言っている。私は男だ」
「はぁ? いや、その姿で男と言われたってなぁ...えぇ? その姿で?」
素早くツッこんでみたものの、物凄く微妙な反応。……何か嫌な予感がする。それも、とびきり嫌な。何処か、私自身の声も違う気がする。
声を出してみる。
……今までよりやや高く、より女性らしくなっているような。
下を見てみる。
……自分の胸には、確かな2つの膨らみが。巨乳という訳ではないが、B~Cくらいはあるのではなかろうか? いや、女性のカップ数なぞ詳しくないのでテキトー──知ってたら変態か何かではあるまいか?──だが。ジャンプすると僅かに揺れる。
尻を触ってみる。
……柔らかく、少し大きめなぽにょぽにょ感が。少なくとも、以前リアルで触った時よりも少し大きい。
股を確認する。
……アレはついていなかった。あと、ツルツル。生えていない。
そのまま全身をチェックする。
……私の体は、女性のものとなっていた。
「何故だッ!!!!!!」
……思わず叫んだ私は悪くないと思う。
そもそも、このゲームはリアルの体が基本である故に性別決定の項目なぞなく、ネナベもネカマも不可能なはずなのだ。一体どんな理由で──とそこまで考えて気付いた。
私は、女顔なのだ。中性的、というよりも確実に女性の顔。少なくとも今までずっと、『男装女子』と間違われ続けていた程だ。間違われる度「私は男だ」と主張してきたが、恐らく信じていない人もいると思われる。なんとなく、一人称は〝私〟を使っているし。『そういうキャラを演じてるのか』的な、イタイ子的な反応をされることばかりだった。最近は、開き直って「こういう個性だ」と言っているが。
そんな私の顔──と身体も?──を、どういう基準なのかは分からんが、ゲームが女性である、と判断したのであろう。
「……なあ」
「な、何だ?」
「キャラの作り直しとか出来んのか?」
目の前にいる、恐らくチュートリアル担当に聞いてみる。多分私は、死んだ目をしていたと思う。
「んー、変えたいなら出来ないこともないが、体型とかなら微調整しても誤差の範囲内になるぞ? 色くらいしか変えられない」
膝から崩れ落ちた。
何故ッ、何故だッ…!! 何故変更できないッ……!!
数発地面を殴るも、結局意味は無いとわかっていたことなので、諦めて立ち上がる。多少──といって正しいかはわからないが──の変化はあるが、正直見た目の変化は少ないし。
「はぁ……まぁ仕方がないのなら諦めるしかない、か」
「おう、落ち着いたか? そんじゃ、改めて。俺はジャン、チュートリアル担当だ! よろしくな」
「ああ、私はカムイだ。よろしく」
とりあえず自己紹介をば。
「それで、早速だがチュートリアル受けてくか?」
「ああ、頼む」
「おお!? ありがとな! いやぁ~、受けてく奴これまでゼロでな、正直俺も暇だったんだよ」
まあ、確認なら行ってからでもヘルプでできるし、さっさと進みたい気持ちもわかるが。私は既にこの世界の時間で4ヶ月遅れである為、気にしない。というかゼロとは逆に凄いな。
「んじゃ、これが【始まりの刀】と【始まりの糸】、所謂初心者用の武器だな。ただ、【始まり】と名の付く武器は、特殊条件下で成長の可能性がある。覚えとくといいぞ」
そう言って渡されたのは、鞘に入ったシンプルな刀と、白い糸玉。
「【刀】は速さと正確さがキモになる、比較的玄人向けの武器。【糸】は武器としちゃ珍しく、ある程度の魔力を持っていないと一定以上のVITを持つ敵には通じない、つまり【精霊族】向けの武器だ。【人間族】でも出来なくはないが、な。詳しい理由はよく知らんが、氣力だと強度は上がるが操作効率が下がるらしい。まぁ、渡界人で【糸】を選んだ変り者はあんたが初だ、使いこなせるかどうかは知らんがな」
そのあたりはイナバから聞いている。というか初なのか、糸使い。そこは聞いていなかった。『オススメ』って言ってたし、楽しそうなのに。せっかくの機会なのに、ロマンに走る系は少ないのか?
「とりあえず、【糸】から頼む」
「わかった。まずは魔力を感じるとこからだな。魔力は、血液のように全身を巡っている。これだけの雑な説明だけでわかる奴なんざそうそういないが、とりあえず試してみな。ああ、ここじゃ数十秒でMPもEPも全快する、好きなだけやりな」
本当に説明が雑だ。兎も角、やってみよう。
目を閉じて、体の内側に意識を向ける。すると、何かしらの力が流れているのが感じられた。が、細い上に薄く、更にサボっているかの如く心臓あたりで動こうとしない魔力が。……気に入らない。
動かすだけなら消費しないだろうから、さっさと動かし始める。消費しても回復するらしいし。
心臓付近に溜まった魔力も総動員して、さっき感じた流れを太くするように流す。ある程度の太さまで行くとそれ以上行かなくなったので、今度は密度を高める。
そして、一滴──この表現で合っているかは分からないが、とりあえずこう表現──たりとも無駄にせずに全身に廻せた所で、ついさっき気付いたもう1つの力、おそらく氣力?の方も同様に巡らせた所で、目を開ける。
すると、信じられない、といった表情で目を見開くジャンの姿が。
「何だ?」
「え?あ、いや、マジで初めて、なのか?」
「魔力と氣力(?)の操作のことなら、正真正銘先程のが最初だが?」
「マジか……」
そんなに驚愕された所で、リアル地球には魔力なんざ存在しない。故に、初めてでない訳がない。まあ、私が知らないだけで実際はあったのかも知れないが。
「いや、あの雑な説明だけで、しかもこの数分でこのレベルの【魔力操作】に【氣力操作】……? 天才ってレベルじゃねーぞ……」
「ふむ、誉め言葉としてありがたく受け取っておく」
「んん"っ、まぁ衝撃的なこともあったが、次の段階に移ろうか! そんな簡単に覚えるんだ、雑めで行くからな! 今巡らせた魔力をその【糸】に通して操る、それだけだ! 【糸】自体の強度は魔力とイメージ次第で変えれるし、切れない限り魔力消費は流し始めの少量だけだからな」
これまた雑。まぁわかるから構わんが。
左手に持った【始まりの糸】に魔力を流し、染み渡った所で動かしてみる。始めはフラフラと、次第に慣れてきた所で少し遊んでみる。
この【始まりの糸】は1本じゃなく、大量の糸が巻き付けられている。つまり、複数本の同時操作が可能、という訳だ。
「すまんが的とかはないのか?」
「ん? 的か。なら【木魔法】っと。これでいいか?」
その呟きと同時に目の前から猛烈な勢いで木が成長し、高さ1.7mくらいの、案山子のような雑な人型になった。
凄くファンタジー。目標はこういうもの、としておこう。
この【糸】は武器。パッと思い付く攻撃方法としては、締め上げる、絡めて投げる、とかか。
ただ、さっきジャンが『強度は魔力とイメージ次第で変えれる』と言っていた。なら、と実験してみる。
1本だけに魔力を集中。それで案山子を真っ直ぐ貫いてみる。
……アッサリ貫通。そのまま動かして、並み縫いの如くジグザグも可能だった。
またも1本だけに魔力を集中。今度は案山子に巻きつけ、強くきつく締め上げる。
……【糸】でスパッと切れた。この程度の木だろうと切断可能と判明。あとは込めた魔力次第と思われる。
「便利だし強いな、【糸】」
「それまたそんなイキナリ使いこなせるようなモンじゃねーんだがなぁ……」
呆れたようなジャンのセリフは無視。
「んじゃ、【刀】だな」
「こちらは少々使い慣れているからな、別に指導は要らんぞ」
「何でだよ……」
田舎の師匠の指導の賜物だ。古武術のな。まあ、田舎というより山の中か?
鯉口を切ってゆっくりと抜き放ち、刃を見る。……ふむ、どうやら初心者用とは言っても立派な品のようだ。まあ、この武器を突き詰めてみようか? 成長の可能性もあることだし。
袈裟斬り、横凪ぎ、切り上げ、突き、と技を素振りで繰り出して行く。重心もぶれず、いい感じだ。女体化した影響か、関節の可動範囲がやや広く、触覚が少し繊細になっているが、多少体さばきを変えれば問題ない。
そして、今度は案山子に斬りつける。
「フゥ───シッ!」
上段に構え、斬撃を放つ。
唐竹割のように垂直に切り下ろし人間でいう右腕を落とし、流れるように袈裟斬りの逆の軌道で右斜め上に振り抜いて両断。そして間髪入れずに、案山子が崩れ落ちる前に唐竹割で縦に両断。
師匠直伝の三連斬りをしてみたが、問題ないようだ。
満足して納刀。そして振り向けば、唖然としたジャンの姿が。
「どうした?」
「いや……そのレベルでできるとか思わねーだろうよ……」
「指導は要らんと言ったはずだが?」
「そうじゃ……まあいいや。んじゃ続けるぞ」
「ああ、次は【雷魔術】を頼む」
「その前に『アーツ』の説明だ」
「アーツ?」
「ああ。アンタの持ってる【刀】みたいな武術系スキルは、持ってるとその武器種にダメージボーナスがあるし武器の損耗を抑えられるが、それだけじゃない。大抵はEP、一部のアーツはMPを消費して技を放てる。所謂、必殺技的なモンだ」
「ほう……。使った方がいいのか?」
「そうと決まったモンじゃねー。別に使わなくても戦えるしな。継戦能力的に考えりゃ、無くても戦えるようにしといた方がいい、とも言える。ただ、斬撃を飛ばすとか、特殊能力を発動するとか、使った方がいい時もある。Lv.1じゃできるのは『スラッシュ』、単に一直線に振るだけだから無くてもいいか」
なら、必要なら追々考えていくとしよう。
「では次、【雷魔術】を」
「わかった。つーかまた珍しいモンを……。こっちは【魔力操作】よか余程ラクだからな、すぐ終わる。とりあえずLv.1で使えるのは『サンダー』だ。『雷』でもいいがな。兎も角、『発動する意思』と『魔術名』さえあれば最初期の魔術はそれだけでできる。杖は威力補助や操作補助だ。あと、読み方は比較的自由だ」
「随分と簡単だな」
「まぁ、【詠唱】で発動をラクにしたり【触媒】を使ったりもするのもできるが、それは後々で十分だ。こうして指導しちゃいるが、基本ならヘルプに出るからな。あと、チュートリアルを受けてない奴があんた1人しかいないだろうから渡界人にゃ知られてないと思うが、【魔力操作】でどっかに魔力を集中して、そっから放つと威力が上がる。2~3割プラスされるから、余裕があればそうした方がいいぞ。アーツだったら氣力な」
まあ既にほとんど意識せずとも魔力氣力の操作はできる為、一応忘れない程度でいいだろう。
「あ、言い忘れてた。【魔力操作】と【氣力操作】だが、腕とか脚に集中してから解放すると、一定時間腕力や脚力が上がるぞ。特に決まった名前はついてないが、『身体強化』の一種だ。魔力の方は氣力より強化倍率は低いが、使うと相手の魔力を使った攻撃……魔術とか魔力使ったアーツとかを、弾いたり相殺しやすくなるぞ」
ほう、いいことを聞いた。
とにもかくにも、初の魔術、楽しんでいこう。
「ん、的は直しとくぞ」
「ああ、すまんな。さてと……『サンダー』」
右手をジャンが直した案山子に向けて、宣言。と同時、雷が私の突き出した右手の掌から放たれ、突き刺さった。的となった案山子は多少焦げている。
「まあ、上々だな」
「こんなものか」
「そんなものだ。INT次第で威力も変わるけどな。魔術によっちゃ数や範囲もだ。一応言っとくと、基本の6属性以外の属性魔術、つまりアンタの持ってる【雷】とかは6属性より消費MPが大きい。気ィつけとけよ。あとこっちは気にしないでもいいかもしれんが、【魔術】【魔法】の類いは基本的にアストラル体への攻撃だ。金属性みたく例外はあるが、覚えといて損はない」
「アストラル体?」
「あー、自分の精神体、みたいなモンだ。俺も詳しかぁないけどな。兎も角、このエーテル界にあるアストラル体にダメージを与える物だから、MINでダメージが増減する。まぁそのダメージで肉体的にも傷つくけどな」
「ふむ、そういうものか」
「一応そういうことだが、気にしなくてもいいぞ。それと付け加えるが、【雷魔術】はちゃんとイメージしないとうまいこと敵に向かわないから気をつけろよ? 制御が難しい類いだからな」
あまり気にしたことはなかったが、ここではダメージ計算がそういうことになっているのか。他のゲームだと『何故精神を鍛えると魔法のダメージが減るんだ?』とか『弱点でない限り火と水でダメージが変わらないのは何故だ?』とか結構考えてたけども。
「そんなものか。さてと、まだ訓練していっていいか?」
「あん? 戦闘系の〔スキル〕は終わったろ?」
「私は格闘もする。蹴りとかな」
「幅広いな、アンタ……。ほれ、的だ」
「あとまだ【竜転身】も〈最初の竜戦士〉のボーナスも確認していないからな」
「!! すまん、アンタに驚き過ぎてそっちを忘れてた」
……忘れてたのか。
許可も出たことだし、始めよう。
【竜転身】は、自分の体をドラゴンに変化させるスキル。
「【竜転身】だが、体のサイズが変わって装備が破損、とかはないのか?」
今着ているのは、所謂『布の服』的なものだ。貫頭衣ではないが、シンプルな上下である。これが現在の一張羅なので、破れると困る。
「それはない。それはMPもEPも激しめに消費するタイプのスキルだが、その2つの力でドラゴン型の鎧を作るようなモンだ。体の感覚はドラゴンと同様にゃなるがな」
「体の一部、腕だけとかはどうなんだ?」
「……いや、わからん」
「何故だ?」
「そんな発想をする奴がいなかったんだ。『【竜転身】というスキルはドラゴンそのものになるもの』、という先入観があった」
先入観やら固定観念やらは敵だな。
まあ何にせよ、物は試しだ。一応右腕の袖を捲り、【竜転身】を肘から先だけに発動するよう、2種の力を操りつつイメージ。
すると、白金と蒼の混じった僅かな光を放ちつつ───素の自分の腕よりも一回り程大きな、白金の鱗を持つ竜の腕になった。5cm位ありそうな蒼色の爪も鋭く尖り、軽い貫手でも人体程度の強度ならあっさり貫けそうだ。
「出来たな」
「またあっさりと……」
ジャンが嘆いているようだが、気にしない。
このように変化させられるなら、籠手とかの格闘用防具がなければ格闘時はこのモードの方がいいだろう。生身より余程頑丈だろうからな。
まだMP、EP共に余裕があった為、左手両足を【竜転身】っと。 ジャンの言う通り『ドラゴン型の鎧を生み出す』であっているらしく、靴は脱がずにそのまま出来た。
このゲームでは、開始時に容量が500kg限定ではあるが体積以上に入れられる収納ポーチ、所謂『アイテムボックス』が配られる為、その中に刀と糸玉をしまった。
まずは型通りに。正拳、肘打ち、裏拳、ハイキックに踵落とし。蹴り上げに回し蹴り、掌底、様々なコンビネーション。【竜転身】の為に少々間合いや重心の変化等が感じられるが、慣れ次第だろう。
これでイナバのいう〝扱いが難しい〟なのか?
次はジャンが言っていた【魔力操作】【氣力操作】で身体強化してから。
リアルでは出来ないだろう、高くジャンプしてからの連続技、掌底を放ってからの魔力、氣力による鎧通しに爆破。何となく出来る気がしてやってみたが、魔力も氣力も、一定濃度以上に高めてから体外で解放すると爆発する特性があるらしい。多分氣力爆破はVIT、魔力爆破の方はMINでダメージ判定をするのだろう。
さてさて、一通り上手くいった所で、試してみたいことに挑戦。
「ジャン、離れておいた方がいいかも知れないぞ」
「は? ちょっ───」
そう言い残し、挑戦開始。なんか言ってるけど無視。
ある程度余力を残し、身体強化。そして思いっきりジャンプ、更に空中で氣力を爆破、勢いで更に上空へ。
落下開始したら、逆らわずに加速。爆破で更に加速。そして、高く振り上げた右足に、残りの魔力と氣力を込め、地面が近づいたら解放。
で───全力で降り下ろすッ!!
ゴバァァーーン!!!!!
落下エネルギーは威力で相殺し、無事に着地。
「ふぅ」
いやぁ、満足満足。想像以上にいい感じで決まったな。魔力と氣力の大幅消費で少しダルいが。
蹴りの直撃地点には、直径5mくらいのクレーターが出来ていた。【竜転身】に【魔力操作】【氣力操作】の身体強化はシナジーが結構いい。感じた限りは、魔力はエーテル体寄りのためどちらかといえば魔法防御の底上げに向く、と思う。さっきのジャンの話でもそんな感じだったしな。
満足気にしていると───
「なんて威力出しやがる……。アンタ、まだLv.1の、それも『精霊族』だろ? 人間族より物理系ステータスは低いはずだろ?」
呆れたような声が。そんな声の方を見ると、土煙で思いっきり汚れたジャンが。
「離れていた方がいい、と言ったはずだが?」
「Lv.1でここまでするたぁ思わねーだろうよ……」
「そうか? まぁ次の確認にいくか」
「マイペースだなアンタ……」
「よく言われる」
「よく言われるのか……」
友人にはな。
それはともかく、ボーナスの確認確認。
ああ、【竜転身】は解除しておこう。
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〔称号〕〈最初の竜戦士〉
渡界人で最初に『竜戦士』となった者へ贈られる称号。
《取得ボーナス》
ランダム:ユニークスキル【永続付与術】
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「【永続付与術】?」
「へぇ、かなりのレアが出たな。ってかユニークだしな」
「そうなのか?」
「ああ、そのスキルは何かアイテムに自分の持ってるスキルか魔術、もしくはステータス上昇系の能力を永続付与できるってモンだ。付与するアイテムの素材やら能力次第で付けられるモンも変わるけどな。【魔術】の『│付与』だと効果は一時的にしかかからない、【付与術】は陣とか刻む必要がある、って違いもある。勿論、アイテムのキャパ次第だが」
「ふむ?」
スキルをアイテムに付けられる、とな?
私は、ニヤッと笑った。随分とちょうどいいものだ。
「…嫌な予感がするんだが」
やはりジャンは無視。
そして、私はスキルを発動する。
付与するのは───【始まりの刀】に【竜転身】!
「んなっ!?」
「ほう……」
発動した瞬間、爆発的な光と共に刀が見えなくなり────現れたのは、先程の私の鱗と同じ白金色の刃となった、美しい刀。よく見れば、峰側にうっすらと鱗のような模様が浮かび上がっている。傾けて光を反射させてみれば、僅かに蒼色の光沢を放った。鍔は逆に、蒼色で僅かに金の光沢を持つ。
鞘の方も変化している。木製の本体に鈍色のシンプルな金具だったものが、うっすらと蒼い白の本体に鍔と同色で細工の施された蒼の金具へ。
さてと、【物品鑑定】で確認。
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《始まりの竜刀》 Rare 6
ATK45 AGI+7 DEX+9 破壊不可
《能力》
【竜斬刃】
竜の力を解放し、強大な力を発揮する。
〔消費〕
MP 2/S EP 2/S
使用者が『竜戦士』、またはその系統職の場合のみ発動可能
〈発動中〉
ATK90 AGI+7+[所持者のAGI×1.5] DEX+9+[所持者のDEX×1.5]
アーツ『竜爪』『竜飛斬』『激竜一閃』を発動可能となる
【???】
〈条件達成で解放〉
??? ???
《進化条件》
1.????
2.????
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…イキナリぶっ壊れ性能になったのは気のせいだろうか?
「……なあ、【始まりの刀】ってどんな性能だ?」
「……ATK15とDEX+3、あと保険の【破壊不可】だけだ」
「……シナジーがヤバいな」
【破壊不可】は始まりシリーズ共通で付いている、その名の通りに壊れなくなる効果。
この刀のATKが他と比べてどのくらいなのかはわからないが、発動後ならステータス補正だけでも既に最終装備並みと言えるのではないだろうか? 何しろ、私自身の成長と共に補正も上がっていくのだから。
……とんでもないことになっていました。
◇◆◇
その後、【始まりの竜刀】の検証をした段階で、ログアウト予定時間が来てしまった。残念ではあるが、また明日だ。
私は、中空に浮かぶメニュー画面、その項目の1つ『ログアウト』を選び、この世界を去った。
◇◆◇
「む……終わったか」
少し残念な気持ちを声に滲ませつつ、目を覚ます。目に写るのは、白い天井、白い壁、白いカーテン、白い布団、そして─────存在しない、私の左腕と、両足。
1ヶ月半程前に失われた、今もなおたまに幻肢痛を伴う、悲惨な事故の結果。それだけでなく、私は更なる後遺症の為に、もはや意識が不規則に途切れてしか、過ごしていられない。
ここは、病院。
点滴を受けながら、死にかけの私を延命させる施設のことを思う。
────この状況が夢であれば良かった。先程までいた、あの世界のように。
私は、思いを馳せる。まだほんの少ししか過ごしていない、『Another life』へ。自由に動き、理想さえ現実と出来る、あの世界へ。
イキナリ過ぎましたかね?
まぁ、完全に『気分次第』で書いてるので行き当たりばったりであります。