1.Dive in
はじめまして。
元々読み専でしたが、何となく書きたくなって始めました。
第五話までは連続投稿します。
では、開幕です。
世界初のVRMMO、『Another World Online』。
このゲームは、事前情報が全く無く、ある日突然発表、翌日発売された。
モニター画面を覗きこみ、コントローラーで操作する従来のゲームとはもはや別次元に存在する、新たなゲーム。
従来のものは、VRを謳っていてもとても『仮想現実』とは到底いえるものではなかった。初期のものはゴーグルを被って映像を見るだけであって、実際の自身の体を動かすものに過ぎなかった。
その後発表された『最先端技術の結晶』を謳うものも、常に違和感が付きまとい、一部の感覚は感じることさえ出来なかった。いっそ、大型筐体のアーケードゲームの方がリアルだった程に。
しかし、このゲームは違う。
自分の2つ目の体、【アバター】を現実と同じように動かし、見て、聞いて、触って、食べて、嗅いで。まるで、実際に異世界に来たかのような臨場感。それが、このゲーム。
あらゆる感覚は現実と同様。痛覚の調整は一部可能ではあるが、その中でプレイヤー達は、所謂『剣と魔法の世界』を生きていく。
この世界では何をしていてもいい。冒険者になって未開の地の探索へ行こうと、商人として稼ごうと、物作りを極めようと、研究ばかりしていようと、村人としてただ地味な一個人でいようと。全ては各々の選択に委ねられている。そのタイトルの通り、『もう一つの人生』を楽しみ、生きるものである。
また、従来のゲームでNPC、ノンプレイヤーキャラクターと呼ばれる存在は自我を有し、その世界で『生きている』。そんなゲーム世界の住人達は、喜び、悲しみ、苦しみ、幸福……そんな感情を宿し、このゲームの世界、彼らにとっての『現実』を過ごしている。生活を営んでいる。そして、彼らにとっての『現実』であるが故に、その世界にとっての客人であるプレイヤー達にのみ許された特権、『死に戻り』等というものは存在しない。
そんなゲームのサービス開始日からおよそ1ヶ月。
とある物語が始まる──
□■□
今日は、やっとできる、世界初のVRMMO、『Another Life Online』、通称ALOの初プレイ日。色々あって1ヶ月も遅れたが、やっとのことでできる。公式サイトによれば、ゲーム内では時間が4倍に加速されているためにリアルの1日=ゲーム内の4日となり、既に4ヶ月も経ってしまっているらしい。
待ち遠しすぎて説明書を読……もうとして、分厚い+小難しすぎて断念した。丁寧なのはいいが分かりづらい! 辞書レベルってどうにかならないのか?と思う。今の私はただでさえ読みづらいというのに。
ただ、純粋に楽しみたかったから掲示板やまとめサイトは見ないでおいて、公式サイトのみ流し読みした。事前に情報を得ていると、一部のスキル、アイテムとかが劣化した状態でしか手に入らないことがあるらしいし。つまり、『ネタバレして浅く広く』か『運任せ』か、ということだ。……私はネタバレが嫌いだ。
とりあえず開始の仕方、メニューの開き方等、必要最低限の情報だけ頭に入れておいた。チュートリアルとかで説明もあるだろうし。
さて、そろそろ始めようか。
早速専用のヘルメット型のダイブ用装置を頭に被って固定して、と。
「──Dive in」
◇◆◇
さて、開始したようだ。
「いらっしゃい、渡界人さん」
一瞬の暗闇の後、気付くと真っ白な立方体(一辺約5m程?)の中らしき場所にいた。自分の姿はリアルと変わっていないままらしい。どうやら、この殺風景な場所からこのゲームは始まるらしい。
そんな中、話しかけてきて私に一礼したのは、その立方体の中で私以外に唯一色のついた存在。ふわっふわな毛並みの、お洒落な服を着た二足歩行している身長1m程の兎だった。
……モフりたい。
こういうのを見ると、否が応でもファンタジー感が強まる。ちなみに、『渡界人』とは、ゲーム内でのプレイヤーを指す言葉、らしい。『世"界"間を"渡"り歩く"人"々』の略だそうな。
「貴方は? あと、ここは一体?」
「ボクはこの世界の案内役、イナバっていうよー。ここは君達、渡界人の言葉で『キャラクターエディット』をする場所だよー」
その白い兎─イナバは、簡潔だが丁寧に説明してくれた。
……因幡の白兎、だよな? どう考えても。パクりか、パクりなのか?……まあ、そこはどうでもいいか。神話に著作権なぞないだろうからな。そんなことよりモフりたい。表情には出さないが。
「名前はー?」
「カムイで」
「わかったー。んじゃカムイ君、これから姿の決定をしてねー」
……君付けなのか。あと、間延びした話し方だな。
それはともかく、その言葉を聞くと同時に高さ2.5m程の楕円形の姿見が現れた。
「元々の姿は選べないけど、大きく変わり過ぎる姿もムリー。せいぜい変更できるのは髪型や髪色、眼の色、体型が少しくらい。この鏡で細かいとこまで確認できるから、好きなように使っていいよー。あと、完成後、若干の補整が加わるよー。男は男らしく、女は女らしくねー。あー、補整要らないんなら言ってねー」
つまり、ほぼリアル準拠で色変更のみ可能、と。リアバレ防止兼、現実との違和感防止か? まあ、私にはあまり関係の無いことではあるが。
私は大体のイメージは決めていたので、ほとんど悩まずササッと決定。
髪色は白金。金色はあまり強くなく、僅かに反射光として発する程度。背中の半ばまでの長髪を首の後ろあたりでくくり、眼は蒼色。一般男性平均より少し低い身長は、仕方ないのでそのままで。変更できないし。
「細部まで」とはどういうことか、と思ったら、鏡にドラッグ操作で回転やら拡大が出来た。分かりやすくて楽だ。まあほぼ変更はできない上に、最終的に補整もかかるので、確認しなくともいいだろう。
「次は、種族と職の決定だねー」
今度は、目の前に半透明のパネルが2枚現れた。
右のパネルの一番上には《選択》と表示、2種族各6種、全12種の職とその説明文が。
左のパネルの一番上には《ランダム》と表示、『レア職の可能性あり』との説明文。その他は特に無し。
「《選択》に出てる選択肢は、所謂『初期職』っていうものー。大まかに言えば、『人間族』は物理職、『精霊族』は魔法職だよー。分化はある程度されるけどー、これからの行動、獲得スキルとかでその先はバラバラさー」
『人間族』には【戦士】【軽戦士】【騎士】【拳士】【斥候】【職人見習い】が、『精霊族』には【火使い】【風使い】【水使い】【土使い】【木使い】【金使い】が、それぞれある。……よくある四大元素じゃなく、五行+風らしい。何故かは知らんが。
イナバが言った『分化していく』というのは、恐らく【戦士】が剣に特化すれば【剣士】に、盾を持って守りに特化すれば【盾士】に、というような感じでだろう。予想だが。
「左の《ランダム》は、どうしても決めきれない人かー、それともレア職狙いの人が選ぶかなー。結局ー、種族は『人間族』『精霊族』の2つしかないけどー。ただー、レア職は扱いは難しいけどメリットも大きめだからねー。まあ、確率はめっちゃくちゃ低いから承知しといてねー。あとそれと、3回やったらその中から選んでねー。《選択》からは選べないよー」
……それなら、《ランダム》一択だな。
気に入らなくても3択までではあるが変えられるようだし、レア職もありならこれしかないだろう。
「《ランダム》で」
「そっかー、実はあんまり《ランダム》選ぶ人いなかったんだけど。そんじゃいってみよー」
随分と軽い性格らしい。
そして、僅かに空間が歪んで出てきたのは、ガチャ。デパートとかに置いてあるアレだ。……何故だ。分かりやすいが。もう少しファンタジーらしくできなかったものか。
「あ、3回一気に引いてみる?1回ずつ?」
「…一気で」
「りょーかーい」
……やはり軽い。こんなので務まるのか?とは思ったものの……まあ1ヶ月、こちらの時間で4ヶ月の間やってきてるし、平気なんだろうが。
「ひとぉーつ、ふたぁーつ、みぃー……ん? おぉー!レア職出たよー!いやぁ、確率かなり低いのにねー。ボクの担当で初めて見たよー」
驚きの声を出すイナバの方をみると、3つのパネルが浮いていた。1つ目には『人間族』【戦士】、2つ目には『精霊族』【風使い】、最後に『精霊族』【竜戦士】が。つまり最後のこれがレア職、だな。
あと、話から察するに、キャラクターエディット担当はこのイナバ1人──1匹?──では無いらしい。
「この【竜戦士】はけっこー、というかレア職の中で一番クセが強くてねー。【竜転身】ってスキルで体をホントーにドラゴンに変えれるんだけど、まービックリする程扱いづらくてねー。使いこなせれば低レベルのまま二、三次職とでも戦えるくらいになれるけどねー」
「じゃあそれで」
「……決めるの早いねー?」
「楽しそうだからな」
どうせならロマンを求めた方が面白い。『Another Life』を謳うのだから、その名の通り第二の、もう一つの人生を自由に楽しめばいい、そう思う。
「んじゃ、次はスキルだねー。スキルポイント15の中で選んでねー。種族、職毎にできることとかバラバラだから、取得ポイントもバラバラだよー。あ、【竜戦士】のスキル【竜転身】はポイント無しで自動的に取れるからねー」
バラバラ、というのは恐らく『人間族』ならば【武術】系統のスキルポイントは低く、【魔術】系統のスキルポイントは多くかかる、といったものであろう。あと、【軽戦士】は大剣等の大型武器スキルが取れない、とかもあるだろう。他にもステータス値等、条件があるかも知れないが。
そして再び表示された半透明のパネル。スキル一覧、と書かれているが、多い。剣系統だけでも【短剣】【長剣】【大剣】【刀】【刺突剣】等々……【フランベルジュ】とか使える奴いるのか? 波打った刺突剣、だったはずだが。それは【刺突剣】には入れないのか?
……せめて、ソートぐらいは出来ないのか?
「ソート機能とかはないのか?」
「あるよー? この空間だとー、けっこー考えたことがそのままできるからー、色々やってみてもいいよー」
便利なことだ。まあ、ありがたい。それは兎も角、
「オススメとかはあるのか?」
「あるよー?」
……あるんかい。
では教えたまえ。自分で全て選ぶのも良いが、こういう話を聞くのも良い。
◇◆◇
暫くして、決定。
こんな感じになった。
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《カムイ》
『精霊族』【竜戦士】
Lv.1
MP:130/130
EP:70/70
STR:10
VIT:10
AGI:10
INT:15
MIN:15
DEX:10
〔ユニークスキル〕
【竜転身 Lv.1】
〔スキル〕
【刀 Lv.1】2【糸 Lv.1】3【雷魔術 Lv.1】4【梟の眼 Lv.1】4【調合 Lv.1】1【料理 Lv.1】1【物品鑑定 Lv.1】3
〔称号〕
〈渡界人〉〈最初の竜戦士〉
〔祝福〕
〈異界神の加護〉
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ステータスについては『人間族』か『精霊族』かで決まる、職は関係ないらしい。
それぞれのスキルの後の数字はスキルポイントの消費量だ。これでピッタリ20。スキルの数を減らしてポイントを注いでスキルレベルを上げることもできるそうだが、レベルを上げるよりスキルを取得する方が大変そうだからレベルにはポイントを使わない。
【糸】はイナバのオススメの1つだ。何でも、魔力を通して操るらしい。こういう、リアルでは絶対に出来ないものの方が楽しそうだからな。
【雷魔術】は、スピードとロマンで決定。ある程度、本人の適性(?)によってリストの魔術も増減するらしいから珍しいと思われるものをチョイス。ポイントはかなり持っていかれたけれど、致し方なし。
【梟の眼】は、暗視能力、遠視能力等の複合スキル。【雷魔術】と同等に高いが、後々役立つだろう。ちなみにこのスキルはパッシブ、つまり常時発動型である。意識せずとも発動している。レベルが上がれば、意識的に発動する能力も得るかも知れない。
私はほぼソロで活動予定の為、ポーション等の回復アイテムを自作するために【調合】。もしかしたら爆発物等、攻撃用アイテムも作れるかも知れない。後々挑戦予定だ。
【料理】は、完全に趣味だ。旨い物が食いたい。せっかくのVRMMO、好きなことを好きなだけして何が悪い? 買い食いも食べ歩きも良いが、自作でも味を極めてみたい。スキルが無かろうと料理はできるしそのうちスキルを得られるそうだが、他に必要なスキルがなさそうだから選択。
【物品鑑定】は、人や動物についてはわからないが、物については情報を得られる。レベルアップ毎に情報量も増えるらしい。ただ、自分に所有権があるアイテムについては、条件が必要、とか以外はほぼ100%わかるそうな。ただ、【生物鑑定】はLv.1ですら何故か15ポイントも必要だった為、諦めた。取らせないようにしているようにしか思えない。他を削れば取れるだろうが、なくても強さは気配とかである程度探れるだろう、確実に優先順位は低い。
〔称号〕の〈渡界人〉は今はまだ効果不明。
〔祝福〕の〈異界神の加護〉は、プレイヤーは全員持つらしい。これのお陰で、『死に戻り』等といったことができる、らしい。住人は他の何らかの神の〈加護〉を持つそうな。
「そーそー、見たと思うけどー、称号〈最初の竜戦士〉にボーナスがあるよー」
「ボーナス?」
「うん、全職の最初の人にねー。スキルかアイテムか称号かわかんないけどー、完全ランダムだよー。次のチュートリアルの所かそのあとで確認してねー」
ふむ、やはり【竜戦士】を選んで正解だったと思われる。せっかくのレア職、活かさなければ損というものだ。
「んじゃー、またねー」
「ああ、また会う機会があったら」
のんびりとしたその言葉に返答した後、足元に魔法陣らしきものが展開され、一瞬の光によって視界がゼロになった直後に私はその場から消えた。
とりあえず、キャラクターエディット回。
イナバは、私もモフリたい。