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光景。
店主は雪に訊ねた。
店主の追求の問いに雪はすぐに答えを出すことができなかった。
無理もない。
雨月は心の内でそう呟き、目を閉じた。
瞼の裏であの日の光景が甦る。
寒空の下、必死で泣き叫ぶ人間の赤子・・・。
その人間の赤子を包む汚れた襤褸の着れ屑・・・。
飢えた狼の咆哮と嘲笑・・・。
その人間の赤子を抱き上げる自分・・・。
そして、深々と降りしきる雪・・・。
私は・・・いや、俺は随分と変わった。
あの小さかった赤子にここまで変えられるとは思ってもみなかった。
人間は愚かで浅ましく、罪深な生き物だ。
そして、人間は脆く弱く、面白い・・・。
「・・・ごめんなさい。今の僕にはどちらを選べばいいのかわかりません」
雪は俯きそう言った。
雪のその言葉に雨月は内心、ホッと胸を撫で下ろした。
それでいい・・・。
すぐに決断すべきことではないし、時間はまだある。
「それでいい。ゆっくり考えればいい」
雨月の言葉に雪ははにかみつつ、こくりと頷いた。




