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雨月様。
「・・・雨月様」
消え入るような小さな声で雪は雨月の名を口にし、血だらけの獣の首に小さな顔を深く埋め込んだ。
雪に抱きつかれた獣は唸り声を上げはしたものの雪を払い除けるようなことはしなかった。
獣は虎ほどもある大きな黒い猫の姿をし、ふさりとした長い尾は五つに裂けていた。
「雨月様・・・ごめんなさい。・・・僕のせいで・・・雨月様に迷惑を掛けて・・・ごめんなさい。・・・僕が側にいるせいで・・・雨月様を傷つけて・・・ごめんなさいっ!」
雪は獣の首に抱きついたまま泣き崩れ、嗚咽を繰り返した。
ああ、まただ・・・。
僕はまた雨月様を困らせてしまっている・・・。
本当は泣いちゃいけないのに。
本当なら何も言わずに居なくならなくちゃいけないのに・・・。
僕のせいで雨月様が困るようなことがあっちゃいけないのに・・・。
雨月様だけには嫌われたくないのに・・・。