質問
「やはり、私に心開くのは雨月に申し訳なく感じますか?」
「え?」
慌てた様子の雪に店主はにこりと微笑むとゆっくりと歩きはじめた。
「私に心開くことに躊躇いがあるのでしょう?」
「いえ・・・。そんな・・・ことは・・・」
「隠す必要はありませんし、責めているつもりもありません」
そう言った店主の声音は確かに雪を責めているものではなかった。
しかし、それが雪には辛く感じられた。
いっそのこと責められた方が楽かも知れない。
雪は心の内でそんなことを呟き、幼い子供にしては深刻な溜め息を吐き出した。
それを聞いて店主は愉快そうに微笑んだ。
「・・・先生に心開くのが嫌なわけではないんです。けれど、先生に頼ったり、何かをお願いしたりするのは何だか引っ掛かりがあるように感じるんです。それが・・・どうしてなのか僕にもよくわからないんですけれど・・・」
雪は店主のことを『先生』と呼び、一方の店主は雪を名前で呼んでいた。
店主は色々なことをよく知っていたし、雪から投げ掛けられる何気ない疑問にも嫌な顔をすることなく丁寧に答えてくれていた。
それに対して雪は尊敬と親しみを込めて店主を『先生』と呼ぶようになっていた。
「雪は雨月のことが好きですか?」
「はい」
雪の返答に店主はどこか意地の悪い笑みを浮かべ、質問を続けた。
「では、雨月の恐ろしい妖の本性を知ってもその気持ちは変わらない自信がありますか? 」
店主のその質問に雪は苦い笑みを浮かべ『わかりません』と声を発した。
雪のその声音は消え入りそうなほど小さく、僅かに震えていた。