わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第九十八回
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『婚約の儀』に選ばれた、肉体派で、しかもなかなかの美男子でもあるかの青年は、ひとりだけそこから連れ出された。
もちろん、彼は普通に会話ができるのだが、ここでは一切の会話は禁じられている。
一言でも発したら、失格である。
もし、失格になったら、どうなるのか・・・・・
そうした実例は、村にはまったく伝わってはいない。
なかったことなのか、どうか、ということさえも、何ら情報は、まったく、なかったのである。
ただし、選に漏れたという以外の理由で、つまり、『失格』して帰って来たというような話は、一切伝わってはいなかった。
彼は、そうした話がないこと、は当然知ってはいたが、自分が『失格』するような行動をとった覚えは、それこそ、まったくないのだ。
もしあるとしたら、自分が情報提供者であると言う、絶対に知られてはならない事実だけである。
なので、彼は当然覚悟を決めていた。
おそらく、王女様に見破られたのだろう。
それは、実際に、正しかったのだけれど。
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真っ白な人間三人に引きずられるように、これまた真っ白な通路を歩かされた。
照明もないのに、通路自体が、白く淡く輝いているのだ。
やがて、行き止まりになった。
そこには、タルレジャ教団の紋章がはめ込まれていたが、それ以外は、白い行き止まりである。
これが、あまた宇宙に張り巡らされた、時空トンネルの一部であることは、ここにいる誰も、まだ知らなかった。
実際、誘導者たちも、何も話さない。
これも、儀礼である。
不思議なことに、・・・・といっても、ここは不思議な事しか起こらないが、・・・壁がすっと消滅して、大きなエレベーターくらいの空間が空いた。
白い誘導者は、そこに入る様に手で合図をした。
男に、逆らう余地はない。
協力者が見てくれているに違いないと言うこと以外に、彼にはよりどころとなるものは無くなっていた。
本来ならば、『信仰』というものが支えてくれたはずだが、余計な情報を知ってしまったおかげで、かなり、役に立たなくなっている。
『信仰』は、余計なことを知らないことと、大切な何かを失うことで成り立つ側面が大きい。
もちろん、それを、どう評価するかによって、さらに大きな価値を生み出すこともあるのだが。
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「さて、失った信仰を、取り戻させてさしあげましょう。」
第一の巫女=第一王女≒ヘレナ=弘子、が言った。
「取り戻す? 彼は不感応者ですか?」
第二王女が確認した。
「作られた不感応者ね。もともとはそうじゃなかったのですわ。でないと、北島の住民にはなれないですものね。感応者を不感応者に改造する悪魔がいるのです。秘かにね。それは、しばらく前から分かってはいたの。罪のない我が子たちを、病気に感染させる、まあ、ブリューリみたいなものだけれど、もっと違う性質のミュータントですわ。」
「誰、なのですか?」
「さああて、そこが問題なんだなあ。パブロ議員さんが噛んでるのは間違いないけど、実に慎重でね。日本の、変わり種警察官さんを『お池の女神様』のお婿さんにしてやって、さぐったりもしてたんだけどね。」
「ああ、あの『不思議が池の幸子さん』ですか。」
「そうそう。でも、なかなかしっぽを出さんのじゃ。今回は掴んでやる。シモンズ様も、ぼちぼち行き着いてるんじゃないかのう。」
「え? シモンズ様ですか。」
「そうよ。あたくしの、大切なしもべ『そのⅠ』だもの。本人は、そうは思ってないけどね。」
「なるほど。さすがは、お姉さまですわ。」
「ほほほほほ。あなた、普通にほめちゃだめよ。わかっとるじゃろが? わいは、けなされるのが大好きじゃけん。」
「じゃあ、さすがは、お姉さま、悪魔、鬼、悪い魔女さん、ですわ。」
「ほーほほほほほほ! うれしいなあ。最高じゃ。さて、そんじゃ、勢いが付いたところで、儀式に向かおうぞ。わし自身でもある、わが妹よ。」
「はい、お姉さま。・・・あの、なに、するのですか?」
「まあ、だまって、見とれ!」
「はい、お姉さま・・・」
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「おかしいなあ、ひとりだけ、外されたみたいだ。」
男が言った。
「はあ、ううん・・・・ばれたかな。あやしいな・・・」
「いやあ、どうなんだろうかなあ。どこかに連れて行かれてるな。他に見えない?」
「いえ、この真っ白な虚偽の世界だけよ。あ、なにかエレベータみたいなものに入ったわ。まずい、空間を転移するわ。」
「ついてける?」
「ええ、大丈夫みたいね。ちょっとそっちの画像は乱れるかも。」
たしかに、テレビ画面は大きく揺れた。
「どこに出るんだ?」
「待って、追ってるから。あの世に行くのかも。」
「まさか。」
「ううん・・・・・あ、止まった。ドアが開く。」
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明るい光に満ちた、美しく花咲き乱れるという、そこは、まさに『天国』だった。
向こう側に、緑の丘があって、色とりどりの花たちに囲まれたゆるやかな坂道が続き、その先には、『真っ白な家』が建っているのだった。
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「やた~~~~! 幸子出たあ~~~~~~~!!!ねねね、やましんさん、出た!」
「はいはいはい。出ましたねぇ。良かったねぇ。」
「はい・・うるうる・・・・・」
「感動的ですね。」
「次回です。問題は、幸子の準主役の座が確立されるのです!」
「ああ、・・そうです・・か。」
「はい! ぜったいに、そうです。」
「やましんも、多少期待した時期もあったなあ。ちょっとは、昇進するんじゃないかと。」
「しましたか?」
「いえ、20年近く、ただひたすら平行移動でした。」
「幸子は、負けません。絶対、準主役を取ります!」
「ああ、はい。はい。うん。そうですね。・・・・どうしよう・・・」
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