わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第九十七回
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控えの間に入った、第1の巫女=第一王女ヘレナ、は、すぐに大奉贄典に命じた。
「この際、本日このあとすぐに、『献体の儀』を行います。準備しなさい。」
さすがの大奉贄典も、これには少し驚いた。
「今月は、見送られると思いましたが。」
「神の意志が届いたのです。」
それは、要するに絶対の意味である。
「あの、お姉さま・・・何をなさるのですか?」
第2王女も姉の意志が伝わってこないので、困惑気味だった。
「あなたも、同席なさい。」
大奉贄典が、さらに驚愕した。
「それは、まったく前例がありません。「献体の儀」は、第一の巫女様以外は、決して見てはならない物であると・・・・」
「ふうん・・・そうね。確かにそう決めたわ。でもね、・・・そう決めたのは、この、わしじゃ。たとえ自分で決めた掟であれ、もちろん守らねばならぬ。そなたの思う通りじゃ。しかし、今は大義を、秩序を守らねばならぬ時じゃ。女王として、第一の巫女に命ずるのじゃ。」
「おお、女王さまが降りておられる。いや、たとえ第一の巫女様であろうとも、また国王様であろうとも、女王さまに背くことはできますまい。わかりました。すぐに準備をいたします。で、生贄は、いかなる者をご希望ですか。女王様。」
「こやつじゃ。」
「まあ・・・・これは・・・」
第二王女が言いかけた。
向こうの部屋が、壁を通して、透けて見えていた。
「しっ! 実に、気に入ったのでな。よいな?」
「わかりました。女王様。」
大奉贄典は、弟子を連れて、すぐに出て行ってしまった。
「あの、お姉さま。いまは、お姉さまではないのですか?」
「ばかね。わたくしは、弘子であるとき以外は、いつもわたくしですわ。わかっているのでしょう。あなたも、人が悪いことね。」
「まあ・・・はい。よかったです。」
「第一王女と第一の巫女は、職責が違う。別人のように振舞うが、本体はかわらぬのじゃ。しかし、女王は、別じゃ。人格も別の存在でなければならぬ。そなたも、そこを踏み外してはならぬ。まだ、いささか甘かったのう。まあ、そなたの人格は、わしが握っておるゆえ、それ自体が、わしの責任じゃがな。」
「申し訳ありません。」
「よい、。。。じつはな、これは、良い機会じゃったのじゃ。そなたは、この先、第一の巫女を演じる場面が、きっと、多くなることであろう。」
「そうなのですか?」
「うむ。これまでも、何度も弘子をやったであろうが。そう突飛な事ではない。違うかな?」
「いえ・・・確かに、その通りですわ。」
「弘志を女の子にしたりもしたじゃろう?」
「それは、言わないお約束でした。」
「ほほほほほ! そうじゃな。まあ、そなたはわしであり、わしはそなたでもある。わしらふたりは、実は、ひとりなのじゃから。」
「それも、秘密ですわ。」
「いやいや、双子なのじゃから、常識じゃ。違うかな?」
「いえ、違いません。」
「ほほほほほほ! では、まいろうかのう、そなたとしては、もの足りないであろうが、この際、しかたがない。誰か知らぬが、・・・スパイさんたちに、秘密の儀式を見せてさしあげましょうね。衝撃的な情報となる事でしょうね。楽しみだわ。」
「はい、お姉さま。」
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シモンズは、特ダネを見つけていた。
「ふうん・・・このふたり、なにを見てるのかと思えば、すごい映像を見てるな。どういう仕組みなんだろうなあ。まあ、張りつけといてよかったな。シブヤの集会の時から、怪しいとは思っていたんだ。おっと、ぼくは第一王女に雇われてるんだったっけかな。まあ、いいか。ぼくの究極の目的は、女王本人だって知ってるんだからなあ。お墨付きがあるんだから、問題ないさ。さて、この先、どうなるのかな。」
シモンズは、かなり甘めの、コーヒーをすすった。
コーヒーというよりは、コーヒー牛乳である。
「いずれ、第一王女は、自室に一回戻ったはずなのに、外に出かけてもいないけれど、このわけのわからない場所にも存在している。しかし、彼女の所在は、自室以外の地球上には見つからない。自室に籠ったままだよな。こんなおかしなこと、ありえるかい? 同時に、二か所に所在しているように見える。ぼくの機械の限界かもしれない。あるいは、異なる時空にいるのかな。ぼくの体験からいっても、そっちのほうがありえそうかな。もしかして、弘子さんの機械ならば、ここにも到達できるんじゃないかな。もらっといてよかったな。しかし、そうすると、この二人、現場を押さえる気だな。どっちに協力するか? ・・・・ふうん・・・」
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