わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第九十六回
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「くそ! どうなってるんだ。」
シモンズは二人の王女を、常時追いかけていた。
ご自慢の偵察用超小型衛星は、松村家の中にも配置していた。
これは、違法行為である。
しかし、結局のところ、どうもうまく作動していない雰囲気なのだ。
「覗きする気はないぞ。個室の中には入らないさ。・・・くそ、ばかな。やはり、同じ映像しか来ない。」
椅子の背中にもたれながら、シモンズはつぶやいた。
そうなのだ、どの衛星からも、同じ決まった映像しか来ないのだ。
いくら広大な屋敷とは言え、ちょっと不自然すぎる。
「完全に遊ばれてるかな。まったくあの王女は、やなやつだ。もう、これはやめよう。無駄だよな。」
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「この男、いいですわ。」
第1王女が、その、目の前にいる、かなりの大男の体を、手でゆったりとなでながら言った。
「ほら、あなたも触って御覧なさい。」
「はい、お姉さま。」
第2王女は、大分慣れてはきたが、まだ少しおっかなびっくりと言う感じで、男の分厚い胸のあたりをさわったが、すぐに手を引っ込めてしまった。
「ばかね、ね、・・・ほら。このくらい、してみたらいいわよ。よくわかるから。」
第1王女は、男の胸に、ぎゅっと抱きついた。
「ううん、いい感じ。男の香り・・・このまま抱きしめてほしいなあ。」
その男の体は、言われるままに、その第1王女を、ぐっと抱きしめたのだ。
「あああ、うん。いい。」
「ああ、お姉さまだけ、ずるい。」
「ほらほら、あなたにも、替わってあげるから。」
第1王女が、妹の手を取って、男の懐に改めて、差し入れた。
「ううん・・・いい感じですわあ・・・。」
「でしょう? もっと、ぎゅっとしてもらう?」
男は、第2王女の大きな胸を、自分に強く引き寄せた。
「うぎゃ・・・」
第2王女は、頭をその男の胸に、摺り寄せていた。
この男は、例のスパイだったのである。
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「だ、だいたんな・・・・」
彼女が言った。
「確かに、品定めにしては、いささか異質な行為だ。まてよ、もしかしたら、確かめているのかも。おかしなものを持ち込んでないかとか。」
「まさかあ。・・・・あ、ううん・・・でも、第1王女ならば、やりかねないかもね。うん・・・あ。。」
「ああ、君、それにしてもこの感覚は危険だ。ぼくは降りる。男に抱きしめられたって、まったく、しょうもない。」
「そう・・・・、そうかな・・・・ううん・・・これ・・わるくないかも。うん・・・」
「こらこら。」
「ごほん。ああ、ちょっと感覚を遮断。数値化のみにします。」
「よしなに。彼が最後だね。」
「ふう・・・結局のところは、どうやって、決めるんだろうか?」
「見ていたら、すぐに解るだろうよ。きっとね。」
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「ああ、では、王女様、ひとまず、御着席を。」
大奉贄典が、厳かに、言った。
ふたりの王女は、いったん巨大なソファーに戻ったのだ。
「しからば、伝統により、結論に至りましたらば、第一王女様は、お手をお上げください。」
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王女二人は、静かに密談していた。
『・・・・なのですわ。ね!』
『じゃあ、スパイ・・・・』
『しっ! まあ、よくあることよ。でもね、このままお家に帰したら、さらに傷は広まるわ。だから、いいわね。このさい、食べちゃいましょう。』
『はい、わかりました。お姉さま。』
第2王女は、きっぱりと答えた。
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それから、第一王女は、右手を肘から先だけ挙げた。
『お決まりですか、では、いよいよ、審判の時であります。』
弟子が、ドわ~ん~・じゃらじゃら~~、と、鳴り物を鳴らした。
『第一王女様は、聖なる候補者の後ろに御回りください。気高く清き『巫女様』に、肩を掴まれたものこそが、今回の尊き貢物となるのであります。』
第一王女は、候補者たちの後ろに入った。
そうして、選んだ男の肩を、順次、触っていったのだ。
10人のうち、今回は6人が選ばれた。
そこには、あのスパイも、含まれていた。
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「やた、選ばれたわ。」
「喜ぶべき事かい?」
「いいえ・・・でも、確実な証拠が手に入る事になるわ。」
「ならば、いいがなあ・・・。とりあえず、議員には報告しよう。」
「ええ。」
「突入部隊の準備を、最終確認。」
「了解。」
「何時、実際に、どのような行為を行うのか・・・当日だとは思うが、もしかしたら事前なのかもしれないな。殺される寸前を狙わばければな。しかし、いったい、何を、どう、されるかがわかってないのが、いかにもネックだよな。」
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「選ばれしもの以外は、このまま、静かに、帰宅せよ。他言は勿論、無用である。次の機会を待つが良い。ここまで来たことだけでも、最高の栄誉である。心せよ。」
選に漏れた男たちは、ふたたび、あの真っ白な生き物らしきものに先導されて、その部屋から出た。
もっとも、彼らが、この地下宮殿から抜け出した時には、ここでの記憶は、すべて消し去られているのだが。
一方、選ばれしものたちは、部屋の中で、いまだ、ただ、立ち尽くしていた。
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