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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第九十二回


 ************   ************



 『接続者』は、事態の推移を注意深く見守っていた。


 彼の考えでは、地球帝国の発足自体を妨害する力は、自分たちには、まだないということだった。


 したがって、帝国発足以降の『修正作業』が自分たちの役割である、と。


 いまは、自分たちの存在をいささかアピールするだけでよい。


 そう思っていた。


 キャニアは、自分が2億5千万年以上にわたって生きてきた存在であり、その、はるかな『歴史以前』の時代に、当時のビュリア、つまり、おそらく現在のヘレナと関わったのだと言うことは、秘密のままにしていた。


 彼女は、シブヤに例の女将さんがいることを知っていたし、番頭さんが同じように生き抜いていることも知っていた。


 はっきり言えば、彼らの間には、ネットワークがあったのである。


 個人というものが、ひとつの『会社』などの集団にのみ、存在していると考えたら、おそらくは正しくないだろう。


 その人は、趣味の団体にも参加しているかもしれないし、パートであれば、かけもち勤務していてもおかしくはない。

 

 町内会の役員かもしれない。


 会社では平社員でも、町内少年野球チームの、監督かもしれない。


 キャニアもそうしたものだし、大体『接続者』だって、表向きは、ひとつの会社の社長である。


 多くの、経営者団体の会員であり、合唱団のテナーの歌い手でもある。


 ひとは、様々な顔を持っていて、むしろ当たり前なのだ。


 ミュータントだからと言って、隠れて生きているわけではない。


 それで普通なのだ。


 しかし、『地球帝国』の成立は、そうした当たり前の姿を、危うくしてしまいそうだった。


 確かに、あの王女の言うように、核兵器は実際廃絶されそうだし、国の間の不平等や、飢饉や、病気などの問題は、大幅に改善されるかもしれない。


 でも、新たな不平等が生まれようとしている。


 『接続者』は、そう考えていた。


 そこを修正して、よりよい社会にしようとすることは、正当な事だ。



  ***   ***   ***



 とはいえ、同じミュータントでも、帝国の成立を阻止したい存在もあった。


「『地球自身』は、どうやら、しくじったようだな。」


 彼女は言った。


「はい。」


 側近が答えた。


「まあ、あれほど、慎重に行動するように助言し、我々と共同するように進言したのだ。仕方がない。」


「そうですね。」


「帝国の成立は、阻止する。準備は?」


「大丈夫です。成立式典は、成立しませんよ。予定通り、破壊します。全世界が、それを見るでしょう。」


「ならば、まあ、大方はよいことです。犠牲者は出るが、・・・決して仕方がないとは思わないけれど、人類の未来を築く偉大な犠牲となるのですから。」


「第1王女は、相当警戒しています。第3王女の計略は見破られたようです。しかし、『彼女』に動揺はない。いたって普通に行動しています。演奏会も実施予定のままです。」


「そこが、彼女の普通じゃないところだ。昔からそうです。」


「ええ。それと、火星のリリカが、横やりを入れて来そうですが。」


「あの女は、見た目よりも危険だ。拘束の準備は?」


「今夜、実行します。」



 **********   **********



 リリカは、一旦、太陽系の辺境地帯に退いていたが、いよいよ地球に戻ろうとしていた。


 アリーシャは、情報の収集に忙しかった。


「ダレルさんは、まだ拘束されたままのようです。式典にはそこから直接呼ばれるでしょう。」


「まあ、仕方がないわ、本人が良くない。」


「ですね。ソーは?」


「それが、雲隠れしたままですね。『潜入』しているという報告はありましたが、内容は解らないです。半分逃げている、というところかな。」




  **********   **********



「総統、ついに出口が見つかったようです。」


 情報局長が真っ先に報告した。


 ブリアニデスは、筋力トレーニングに勤しんでいたのだ。


「どこに出る?」


「さあ、そこは、出て見ないと分からないですよ。」


「失敗だったらやり直しか。」


「ええ。しかし、そんなに時間は立っていない。あの星を出発して、まだ15年です。大したことない。」


「まあ。そうとも言えるが、これを見ずに行ったも多いのだ。」


「それは、事実ですな。」


「よし、いつ出る?」


「あと、30分後。」


「全軍に、臨戦態勢。出たとたんに攻撃されても驚くな。しかし、対話の準備も抜かりなくな。」


「ええ。ずっとそうでしたからね。」


「まあな。なあ、情報局長さん、みんな、そろそろ温泉にも入りたいだろう? 本物の。」


「そうですな。残った連中は、どうなったのでしょうかねぇ。」


「うん。でも、あのヘレナリアがいるんだ。幸せ以外が待っていたはずがない。」


「そうですね。」


 その時、『ワン』は大きく揺れた。


「あらら。何かあったかな。見て来ます。」


「ああ、頼むよ。ここでエンストは困るから。」


 情報局長は飛ぶように消えた。




 ************   ************



 『時間の隙間』、と言っても良いような状況だった。


 ヘレナは、自室から出発した直後に戻る算段をしていた。


 この程度なら、難しくもない。


「どうぞ、お入りください。」


 大奉贄典は、このとき以外にはけっして使われない部屋・・・奇麗に管理はされていたが・・・に『第1王女』と『第2王女』を案内した。


 大きなソファがふたつ並んでいた。


 もちろん、二人のためのものだ。


 装飾品は、ほとんど見られない。


 向こうの壁に、大きな絵が一つ掲げられている。


 シモンズに譲られた絵に、実際そっくりな絵である。


 そこに、ヘレナとルイーザは腰かけた。


 ふたりとも、やや派手な、王国独自の民族衣装姿になっている。


 露出部の方が圧倒的に多いが、あまりに二人が美しく清冽なのものだから、全体的に言えば、とても高貴な雰囲気が漂っていた。


 ふたりの、薄い褐色の肌が、きらきらと輝いていた。


 けれども、今からここに並ぶ若い男たちは、表情一つ変えることは出来ない。


 最高の『巫女様』おふたりの前に、並ぶのだ。


 凛々しくなければならない。


「では、よろしいですか?」


 大奉贄典は、王女たちの、向かって右に、弟子は左に立った。


 第1王女が、おごそかに、うなずいた。


 向かって左側の第2王女は、さすがに緊張気味が、まだほぐれていない。


 白が基調の、非常に高い天井の、広い広いこの部屋の大きな豪華なドアが、静かに開けられた。





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