わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第九十一回
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「タルレジャ王国は、核攻撃されたと言う事実を、見落としてはなりませんよ。」
杖出首相が電話で、国連事務総長に言った。
彼は、初代『地球帝国首相』になることが、すでに決まっている。
副首相には、オーストライヒェン自由統合国のアンナ首相が指名される見通しである。
彼女が、首相になるのではないかとも言われていたが、皇帝も総督も女性であり、ちょっとバランスが悪いという意識も全体的に働いたらしかった。
また、核保有国を中心とした巨大国の指導者は、皇帝陛下のご意向が働いて、立候補をしなかったとも言われているが、そこのところの事情は、一切公表されていなかった。
「本土直撃ではなかったが、島が一つ消滅し、また一部に大きな被害が出ました。」
『ううむ。その島には、『第1王女様』にとって重要なものが収蔵されていたとも聞きますが。それは事実ですか?』
事務総長が尋ねた。
「そうらしいですな。実物はぼくも、知りませんよ。しかし、我が国が得ていた情報では、どうやら宗教的な『秘宝』とかいうものらしいですな。考古学的な意味も大変大きいだろう、と言われていました。王国にとっては、すくなくとも『王家』や『教会庁』にとっては、非常に大切なものであった可能性が高いですな。」
「それであれば、なおさらすっきりとは、いかないですなあ。しかし、なぜ、あの北島でなくて、沖合の島に?」
「まあ、我が国にもそうした重要な島が存在しますゆえ。おかしくはない。実際、その島は、『タルレジャ教会』の所有になっていましたから。もっとはっきり言えば、事実上、『第1王女様』の個人所有ですよ。」
『ええ、あなたがおっしゃることは解りますよ。でも、なんでそれが、核廃絶反対につながるのですか?賛成の方向に行きそうなものを。』
「あの王国が、核融合に成功しているらしいという、うわさは、あなたもご存じでしょう?」
『しかし、原子力発電も持たず、もともと核兵器などを作る能力がないあの王国が、そのようなことが出来るはずがない。』
「そこです。」
『と、いうと?』
「いやあ、・・・・これはアメリカ国あたりから聞いてないですか?」
『さああて・・・』
事務総長は、すっとぼけたのである。
「まあ、ここは電話で言えることではないですな。いずれにせよ、核攻撃されたと言う事実が、王国政府には、とくに『第1王女様』には、大きくひっかかっている。しかし、『第3王女様』は、以前から積極的な核廃絶主義者でした。その王女様は、いままさに、皇帝陛下であらせられるのです!」
『おおお! 畏れ多い事であります。』
『ほらみろ!』と、杖出首相は内心で思った。
「わたくしは、実は、あの王国の『国王陛下』とは、大学時代の学友でしてね。」
『 なんと! あの、幻の国王とですか?』
「まあ、『国王陛下』としては、難しいお立場にあります。王国政府側には、そのように、核攻撃されたと言う事実があり、特に『第1王女様』は、非常に快く思っておられません。発射したのが誰か? まだ正式には明らかにされていませんよね。まあ、わかってはいるが。あの状況だから、仕方がないと言って済ますわけにも行かないのでしょう。国民が実際の被害を受けています。『第1王女様』は、相手にきっと報復したいと考えているわけですな。そのためには、それなりの報復手段が必要です。まあ、さすがの皇帝陛下も、『第1王女様』を無視することはできない。なにせ、あの王国の実権は現在、『第1王女様』の手の中にある。とは言っても、『地球帝国』としては、王国の反対の受け入れなんかは、出来ないでしょう。このままでは、『皇帝陛下』が『第1王女様』に対する強硬手段に出るかも知れないと、ぼくは思うんですがねぇ。しかし、万が一、そうなれば、ますますその結果は、少し怖いですなあ。『第1王女様』と言うのは、宗教的に絶大な権力がおありだ。また、あの王国の力は、そもそも無視できませんが、その多くの技術を短時間で開発したのは、あの『王女様』ですぞ。あなたも、あの『火星人』との戦いで繰り出された『兵器』はご覧になったたでしょう? 実際に、核以上に恐ろしい兵器を、なぜか、すでに持っています。『人工衛星』も打ち上げた実績が確認できていない国が。どうして? そこらあたりは、まったく事実解明できていませんが、火星人繋がりかもしれないですがねぇ。ここは、非常に解せない。あなた、どうお思いでしょうか。またく、不思議ですなあ・・・まあ、おそらく皇帝陛下も、真相をご存知なのかもしれませんねぇ・・・・・。まあ、そこでですな・・・もし、王国が、何らかの手段ですぐにでも核兵器のようなものを製造できる、あるいは持っている。使う意志を担保しておきたい。のだとしたら? ね。・・・だから、是非核廃絶には、とにかく、タルレジャ王国には、是非、賛成してもらいたいですよね。今後の為にも。まあ、ぼくとしては、いささか関係の深い王国の事でもあり、もし王国が最終的に反対するのならば、我が国としても、反対とはいかないまでも、やはり独自の立場を主張せざるを得なくなるかもしれないですしなあ。」
『ええ。ぜひ賛成してもらいたい。だから、あなたにお願いしているのです。確かに、日本は王国との関係が深いですからな。あなたも、当初は反対したわけですよね。そこは、なぜ? 貴国としては、筋が通らないでしょうに。』
「だから、王国の立場を重視したわけですよ。最大の『同盟国』であり、『兄妹国』ですからな。」
『ふうん、それだけ?』
「それだけ。」
『・・・・・なるほど。いや、あなたは、あの『第1王女様』とも懇意であると、おうかがいしますが。』
「いやあ、親しくはないですが、なにしろ我が国の国民でもありますからなあ。我が国としては、『第1王女様』を国民として、お守りする責務もあるわけです。まあ、そこで、『第1王女様』を説得するしかないですなあ。今は、我が国内におられますし。」
『実は、『地球帝国政府』としては、あなたに、それなりのお立場を用意するべきだろうと言う意見が、現在多くなってきておりますし、私も、そのように思うのであります。『副首相』がふたりになることは、帝国憲法上にも、必要があれば認められるとされている。貴国は、その役割を担うに条件が良い。』
「まあ、ぼくは、地位は欲しくなんか、ないですがね。あえて、辞退する理由はないでしょうな。しかし、『皇帝陛下』が同意なさっているのでしょうか?」
『いやあ、そこがまだなのです。しかし、『総督閣下』周辺からは、好意的な反応があったようなので、まず通るでしょう。もちろん、急ぎます。一両日中には、決めたいと思っております。』
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「ねえ、雪子。聞いてもいいかなあ。」
弘志が、ややおずおずと言った。
「はい。」
「雪子は、何なのかなあ。」
「お兄様、雪子は、雪子です。」
「それだけ?」
「はい。」
「ふうん・・・・・・・」
「お疑いでしょうか?」
「疑うと言うよりも、不思議だから。」
「なるほど。でも、雪子は雪子。もちろん、多少、『能力』がありますけれど。」
「多少ねぇ・・・・弘子姉さんみたいに、ぼくをすっかり女の子に変えたりできる?」
「それは、できます。元にも戻したでしょう?」
「そうだよな。弘子姉さんよりも、力がある?」
「ううん。時と場合によりけりですね。」
「あるんだ?」
「まあ、そう思っていただいても、良いと思います。でも、内緒ですよ。」
「弘子姉さんは、判っているの? アニーさんは知ってるの?」
「いいえ。そこが大切なのです。ですから、絶対に内緒ですよ。お兄様が口頭で言わなければ、お姉さまには読めないのですから。」
「ふうん。じゃ、やっぱり、雪子の中にも、なにかがいるのかな?」
「いいえ。違います。」
「違うの?」
「はい。雪子は雪子ですから。」
「ふん?」
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