わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第九十回
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「ううん。この情報は、くずだ。これもね。」
シモンズは、相変わらず、大量の情報に溺れるようにしながら、なんとかいくらかでも、真実を掴もうとしていた。
「なかなか、ガード堅いよなあ。すぐそばに近寄ってるのに、肝心なところが見えないな。まあ、さすが女王と言うべきか。もう少し、多様な情報源が欲しいが、アニーさんもせっかく仲良しになってるのに、いまいちはっきりしない。なんだか、みんなに、少しずつバカにされてるようだな。くそ!」
いまいましげにコンピューターの画像をなじってみたが、それでどうなると言うものではない。
「『ヒロコ』さんは、ぼくの究極の味方だろうけど、今は怪物に戻ってるんだろう。あの妹、つまり『タルレジャ王国第2王女=地球帝国総統』も、その怪物の支配下にある。『ヒロシ』は、そもそも『不感応者』なんだろうか・・・、まあ、こっちに付いてると言えるだろう。ぼくは表向きは女王の部下だけどね。給料もらってるから、実質も、かな。まあ、そこらあたりは、だいたい女王自身がわかってぼくにやらせている。その目的は、自分の正体を知りたいがためだ。なんか、ここがもう変だよなあ。さらに、『ヒロシ』は二卵性の双子で、その妹は病気でベッドから起き上がれないし、コミュニケーションも取れない。しかし、どうも、この『ユキコ』という娘は気になる。半分は勘のようなものだけどね。ここは、まだ探らないとな。」
弘志は、シモンズに雪子のことはあまり語っていない。
「さらに、一番下の妹が、日本名『トモコ』。『タルレジャ王国第3王女』。『地球帝国皇帝』。これがまた不可思議だ。ぼくは、『ヘレナ』つまり『ヒロコ』つまりあの『宇宙怪物』が、この妹に忠誠を誓うところを見た。とはいえ、あれはポーズにすぎないんだろう。つまり、実際に地球を支配しているのは、『ヘレナ』に憑依しているという『怪物』に違いないんだ。それは『女王』と同一のものだろう。と、ここまでは、きっと正しい線を行っていると思うんだ。」
「そこに、自称火星人の『ダレル』と『リリカ』というのが絡んでいるが、この二人の事も、実はまだよくわからない。ここは、アニーさんにもっと聞きたいが、あまり教えてくれない、と。だいたい、アニーさんって、そもそも、なんだい。そこに『宇宙警察』というのが出て来てる。まだ会ってもいないが。もちろん偵察衛星はあの店に張り付かせたから、おいおい、いくらかは判るだろうけれども。これが、どっちに・・・、つまり女王か、ぼくたちか、だけど、に付くかは、まだよくわからない。」
「あの、『女将さん』という存在も、これまた不可思議だ。ふうん・・・『宇宙怪物ブリューリ』と言うのもいるぞ。これは、女王の敵らしい。敵の敵は味方・・・とも簡単にはゆかないようだ。『紅バラ組』とかいう『少女不良群団』というものも出て来ているが、これはどうやら、おおかた女王の部下らしい。さらに、『超能力者』のグループがいるらしいことも分かっている。彼らは地球を守ろうとしているのかもしれないが、もしかしたら人類に置き換わろうと言うような、野望があるかもしれないし、このグループも、複数あって、内部で対立があるように思える。」
「さて、ぼくの目標は、地球から地球の支配をもくろむような連中を、すべて排除することだよ。ならば、『宇宙警察』さんは、まだ、ちょっとわきに置いといても、なんだか、みんな敵じゃないかしら、みたいな気もするよな。いったい誰と、真に仲良くするべきなのか。最初は、すべて、ある一部の『人類』がやってる、たくらみだと思っていたが、あんな恐竜とかが出てくるとなると、常識の範囲では、もう収まらないのは明らかだし。恐竜が出れば、火星人が出たっておかしくはない・・・か? さらに、もっと他のが出てくるんだろうな。きっとなあ。次に『金星人』が出て来ても、当然くらいか。しかし、ぼくの立場は大いにあやしい。大体本国のお偉方自体が、女王の奴隷になってるんだぞ。ぼくに引き上げ命令が出ない事自体も、すっきり納得がゆくよなあ。くそ。ダブル・トラブルばっかしだ。」
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「第1王女様と、第2王女様が、御到着になりました。」
日本の千早に似た、真っ白な貫頭衣をまとい、顔自体もさらに真っ白な布で覆った、ひとりの女性が報告した。
目も隠している。
この島専属の、巫女の一人であるが、その正体は第1王女様以外には、誰にもわからない。
「よろしい。お迎えしよう。そなたも、まいれ。」
大奉贄典が、おごそかに弟子に言った。
二人は、大理石で覆われた、あたかもシェルターのような大広間に出向いた。
内部から入る通路はあるが、外から通じる道はない。
しかし、そこに2人の王女が、すでに到着していた。
「よく、おいでになりました。」
大奉贄典が歓迎の辞を述べ、まず第1王女に行うべき礼を行った。
3回大きくひれ伏し、彼女の、いつも素足の右足の親指に軽く接吻をする。
第2王女には、1回ひれ伏するだけである。
「この度は、大いなる神の御啓示により、御婚約の儀を行う事、まことに喜ばしい事でございます。」
「ありがとう。そなたも元気そうで何よりじゃ。」
第1王女が答えた。
「はい。またこのたびは、第2王女様もご同行とお伺いし、実に喜ばしく思いまする。ああ、こちらは、弟子でございます。」
若い弟子は、緊張して膠着状態のまま、深くお辞儀をした。
それから、やっと気が付いたように、ようやく行うべき儀礼を実施した。
かなり、ぎこちなくて、偉大な師匠のようにかっこよくは見えなかったが。
「未来の、大奉贄典様じゃのう。」
第1王女が、弟子を見下げながら言った。
「は・・・はは・は。」
弟子は、ますます緊張してしまった。
無理もない。
このふたりが、これから先に行う事を考えたら、そうもなる。
「では、すでに、準備はできておりますゆえ、どうぞ。こちらに。」
「わかりました。」
第1王女はそう告げ、やはり、少し緊張気味の、妹の左手を握った。
2人は、いつのまにか、巫女の衣装に成り変わっていたのである。
ただし、頭巾は被ってはいない。
このふたりは、タルレジャ教団の『巫女』の中でも、圧倒的に高い身分にあった。
それでも、頭巾を被っている巫女は、この島にいるだけなのである。
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アヤ姫様は、湖のほとりで、暗い湖面をじっと眺めていた。
普通、人間の目には見えないが。
幸子さんが近寄ってきて言った。
「アヤ姫様ぁ。もっとお饅頭食べて、元気出しましょう。」
「ああ、幸子さんか。ありがとう。いつも、幸子さんがいると、元気になります。」
「またあ、アヤ姫様ったら、お世辞ばっかし。でも、ねえ、アヤ姫様。今回は、本当に来るべき時が来たのでしょうか?」
「ううん。そうね。幸子さんは、わたくしよりも、ずっと古い、お池の女神様ですものね。女王様とのお付き合いだって、遥かに古くからですものね。そうだなあ。あの、おふたりの王女様は、わたくしの子孫ですから、心配ではあります。宿命とは言え、つらい役回りでしょう。これが、最後の試練なのかどうかは、わたくしにもまだわかりません。長く続く試練の、始まりなだけかも、しれないのです。でも、もう少し立てば、もっとよくわかって来るでしょう。」
「今は、見てるだけ?」
「そうですね。当面は、見守りのお役目を果たしていましょう。でも、もしかしたら、・・・・」
「もしかしたら?」
「幸子さんのお力が、求められるかもしれません。その時は・・・・」
「まっかせてください。そのために、毎日お饅頭とお酒ぱっくで鍛えてますから。」
「まあまあ。そうですね。お饅頭は、力の源ですね。」
「はい!」
アヤ姫様は、楽しそうに笑った。
とはいえ、幸子さんの力が、もし本当に全て発揮されたら、この世は終わるかもしれなかったが。
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