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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第九章 


 杖出首相は、かなり苛立っていた。

 彼は、実のところ「不感応」だったのだ。

 しかし、政府の閣僚の中に、他に不感応者はいないらしかった。

 官邸の職員にも、それらしきは見当たらない。

 周囲にあふれかえっているのは、地球皇帝に対する礼賛論ばかりだった。 

 この状態で、もし首相が「不感応」であると公になると、いささか問題である。

 もちろん、それで首相の座からすぐに降ろされるという事には、今のところなってはいない。

 制度上の問題は、何もない。


 しかしながら、現在国連で間もなく採択されることになるのは、核兵器と生物化学兵器の完全廃棄である。

 これまで、かたくなに拒否してきた、核保有国も、その友好国も、すべてが皇帝陛下に従って、核廃絶に舵を切った。

 現在これに、表立って猛反発しているのは、タルレジャ王国だけである。

 ところが、杖出首相は態度をいまだ、はっきりさせていなかった。

 そこで、与党内からも、なぜ核廃絶にはっきり同意を示さないのかと言う不満の声が上がりかけてきている。

 早めに対処しないと、それこそ内閣が危ない、と側近は言ってきていた。

 しかし、杖出首相は決断しかねていた。

 本当に、大丈夫なのか?

 同意したとたんに、ミサイル攻撃されたのではたまったものではない。

 だいたい、誰が「火星人と」闘うんだ?


 そこで、首相は、ポー・カー新大統領に電話会談を申し込んだ。


 一方で、ポー・カー新大統領は、普通の感応者だった。

 だから、地球皇帝に逆らう気持ちには、どうしてもなれなかったし、そう言う考えが、この世の中に存在すること自体が認められなかった。

 ただし、彼は、タルレジャ王国の国王とは、若き学者時代からの親友であり、同志だった。

 独裁政権と言うものは、認められないものだと信じてきた。

 

 でも、今は少し違う。

 地球皇帝による全体的な統一は、独裁ではない。民主国家と地球帝国とは矛盾しないのだ、と自然に受け入れてしまっていた。

 それは、地球に重力があるのと同じように、当たり前の事柄としか思えない。

 タルレジャ国王との、歴史的な電話会談でも、彼は主張した。

「王国と同じなんだよ。あなたが国王として君臨している事と変わらない。我々の民主主義は完全で素晴らしい。何も変わらないんだ。我々のすべてと、まったく矛盾しない。」

「あなたは、火星人に操られているんです。そこに気が付いてほしい。」

 タルレジャ国王は、さかんに説明したが、大統領の脳は、一切受け入れることが出来なかった。

 

 そこで、国王は、すぐに杖出首相と話し合った。

 二人は、長い長い友好関係の再確認をした。

 しかし、その先のことは、二人だけの秘密とされた。

 タルレジャ国王が、なんらかの秘策を持ちかけた可能性があったが、細かい話の前に、国王は逮捕されてしまったのである。


         ***   ***   ***  


 ダレルは、実際、かなり気をもんでいた。

「この小さな豆粒みたいな二つの国だけで、地球上の全国家のGDPの一割近くを占めてしまう。ばかにならない。何やら秘密兵器をまだ持っていそうだしな。いったい、どういう話をしたかが、こちらでは掴めなかった。アニーも、盗聴できなかったらしい。まあ、もともとヘレナが作った、極秘の通信方法なんだろうから、無理もない。この父親が、バケモノの娘の弱点をどこまで知っているのか、まったく分からない。何しろ2千年近く音沙汰がなかったが、存在し続けている謎の国王だ。しかもヘレナ自身が国王だったこともあると思われる。油断は出来まい。杖出首相を逮捕させる手もあるが、タルレジャ王国と違って、うまく理屈が付かない。民主主義国家はこれだからやりにくい。やっかいだ。それにしても、その地球を飲み込む爆弾と言うのは、どこにある?支配後のヘレナにも聞いたが、『あら、知りませんわ・・』だと。くそ。実は、ただバカにされているだけなのかもしれないな。あやしい・・・」



 結局のところ、杖出首相と、ポー・カー大統領の話し合いは、すれ違っただけだった。

 あれほど『同盟』をお互いに謳っていたのに、『核など必要ない』の一言でおしまいだった。

『地球は、火星が守ってくれるのだ。なぜ、そのような兵器が必要なのか?地球人は、『必要最低限』のもの以外は武装解除すべきなのだ。それで、歴史上かつてない平和がやって来る。素晴らしいではないか。』

 杖出首相は、『タルレジャ王国』以外の仲間は、もはや地球上にはいない、と悟るしかなかった。

 この二国で、火星人と最終決戦するのか?

 しかし、国内にでさえ、彼の味方は、もはやごく少数しかいないと考えられるのだ。


 **********   **********


 第一王女は、『マツムラ・コーポレーション総合病院』に担ぎ込まれた。

 実家の経営する、多くの事業のひとつであり、マツムラ本社のすぐ隣にある壮大な総合病院だった。

 世界で唯一の、コンピューターが総合診療と自動治療を行う、『グランド・トータル・メディカル・システム』を、ここと、タルレジャ王国とで、仮稼働させていた。

 実のところ、バックアップには、アニーが付いていたのだが、それは第一王女だけが知る、絶対秘密事項だった。

 そのアニーが不調の状態では、システムの信頼性に大きな疑問があったものの、医師たちにも、エンジニアにも、まったく感知する問題ではなかった。


「これは、未知の病原体ですなあ。火星人が持ち込んだのかもしれない。」

「冗談でしょう。あやや、ううん、確かに、これはなんだろう・・・」

 医師たちは、第一王女様の、とりあえずの検査結果に頭を抱えていた。

「他の大使館の人も同じ症状です。」

「この際、G.T.M.S.を通してみませんか?」

 一人の医師が言った。

「しかし、ご本人の同意か、ご家族の同意が必要です、しかも、第一王女様はまだ未成年です。王国ではともかくも、ここでは、ご家族の同意が必要ですよ。まあ、幸いお家からは歩いても来られる。お呼びしましょう。大至急。」

 第一王女の実家に、連絡が入った。


 急を知らされて駆けつけたのは、二女の明子と、弟の弘志、そうして実家に戻っていた第二王女(道子)だった。

「容態は、良くないです。しかし、未知の病原体の様で、治療方法がわかりません。G.T.M.S.に通そうと思うのですが、同意していただけますか?」

 医師部長が説明した。

「まだ、本格稼働前のシステムですが、開発には第一王女様ご自身が大きく関わっておられます。」

「ええ、わかっております。わが社製ですから。この際、やってみてください。実のところ、この機械の底力は、計り知れないところがあるのです。」

 医師は、しくじった、と思いながら答えた。

「はい、他の対処療法も行います。呼吸がかなり困難になってきて、おります。体力は抜群にあることが、救いですね。」

「他の大使館の方もいらっしゃるのですね?」

「そうです、この機械は同時に、二人は診療が可能です。大使様を同時に見たいと思いますが・・・」

「先生、大変です!」

 そこに駆けつけてきた看護士さんがいた。

「都内で、かなり多くの患者さんが出ているようです、ものすごい勢いで感染が広がっています。他の病院にも患者さんが集まってきているようです。普通の病気じゃないです。後の人ほど、状態が良くないようですから・・・。」

「病原体が、変化しているのかもしれない・・・より、強力に。」

 医師たちは、顔を見合わせた。

「急ごう。とにかく。」

「はい。」


 マムル医師は、空港に到着した。

 夜中の東京は、あいかわらず、きらきらと明るい。


 ************     ************





 





 


  

 
























 






 

 


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