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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第八十九回



  ************   ************



 2時間ばかり、みっちり『しべこん』の練習をした弘子は、双子の妹に意志を送った。


『・・・お風呂にいらっしゃいな。ちょっと話もあるし!』


 帰って来たのはこうだった。


『なんで、いまどきですか?時差というものをお考え下さいませ。』


 そこで、弘子はこう言った。


『総督閣下に時間は関係ございませんわ。』



    **********   **********


 

 弘志は、真夜中に雪子に呼ばれた。


 おかしなことではない。


 よくあることだ。


 まして、あんな冒険をしたあとである。


 姉に見つかるとやっかいかな、と思いつつも、弘志は自分の双子の妹の部屋に向かった。



   ***   ***   *** 



 雪子は、自分ではほとんど動けない。


 生まれたときからそうだった。


 言葉で意思を伝えることもできないから、彼女の意志と直接話ができるのは、現状、弘志だけだ。


 なぜか、万能の弘子でさえ、それが出来ないでいるらしい。


 つまり、雪子は不感応者であろう。


 にもかかわらず、弘志に語り掛けてくるのは不思議だった。


 答えは一つしか思いつかない。


 雪子は、いわゆる、ミュータントなのかもしれない。


 一旦、心を皇帝や総督に・・・つまり、姉や妹に奪われたが、雪子のおかげで弘志は目覚めている。


 不思議なことに、弘子はそこに気が付いていないようにも思える。


 もちちろん、あえて弘志から、確認を求める事項ではないけれど。


 ものの言い方に気をつけてはいるが、弘子自身から普通にやれと命じられた以上、普通にやっていておかしくはないわけだ。


 ある意味、弘子=ヘレナは、自分の仕掛けた罠にハマっているのかもしれなかったのだ。


『お兄様、弘子お姉さまは、お出かけです。ご心配には及びません。』


『この真夜中に、またどこに行ったんだろう?』


『王国です。儀式の生贄を選ぶためです。』


『いけにえって・・・誰の?』


『もちろん、弘子お姉さまにご自身に捧げる生贄です。その品定めに出かけたのです。』


 弘志は、さすがに、いささかのショックを受けた。


『いけにえというのは、生きた生き物を、神などに捧げたりするんだよ。』


『はい、そうです。お姉さまは、ある意味、王国では、神と同格です。そうでしょう? お兄様は、神の弟君です。まあ、わたしもですが。』


『そりゃあ、宗教上は、神の代理だよ。でも、神じゃあない。』


『もちろん、現代においては、あくまで象徴的な、真理の反映という意味合いとされています、表向きは。』


『裏向きは、違うと?』


『はい、そうです。少なくとも、北島においては真実そのものです。もちろん、今は、疑いを抱く人はいますよ。でも、多くの場合は、そうではありません。おわかりでしょう? お兄様ならば。』


『まあ。。。ね。』


『お兄様だって、王位継承権を持っていることは事実です。もし王になれば、神になります。』


『ありえないよ。』


『お父様だって、そう。あり得なかったのに、そうなったのです。』


『まあ、確かに。でも、弘子姉さんに、何の生贄が捧げられるの?まさか、ワニとかさ。』


『人間です。』


 弘志は、その言葉が返ってくるのが怖かったのだ。


『まさか。うそだろう?』


『事実なのです。お姉さまは、人間を食べます。ずっとね。』




   **********   **********



 その少し前。


 弘子と道子は、自宅の巨大なお風呂に入っていた。


 道子が、つまり、総督閣下が来ているなんて、誰も知らないし、そんなことは思わない。


「ねえ、ルイーザ様、やはりお家のお風呂が良いでしょう?」


 弘子が、妹の美しい、完璧な背中を流しながら言った。


「はい、お姉さま、最高ですわ。」


「そうよねぇ。やっぱり。」


「でも、いささかすっきりしませんわ。なんで、自宅のお風呂に、お忍びで入らなければならないのか?」


「まあ、総督閣下なんだからね。そう言う覚悟でしょう?」


 これだけのお風呂場を維持するのは、実際大変なのである。


 松村家だから、可能なことなのではある。


 すでに、成熟したふたりの体は、しかしお風呂の中では、なおさら区別がつかない。


「ちょっと、情報をつかむのに苦労したけど、どうやら、アリムさんは、帝国の創設セレモニーで、友子さまを殺すおつもりみたいね。」


「まあ!」


「知らなかったでしょう?」


「はい、もちろん。」


「まあね。でも、そうみたいなんだなあ。そこで、こっちも、すこし細工しないとね。」


「どのような・・・細工ですか?」


「まあ、頭の中に送ったげるわ、あとでね。」


「はい・・・でも、陛下に死なれては、こまりますわ。」


「そうそう。こうしたことは、上手に利用しなければなりませんわ。」


「はい。お姉さま。」


「ときに、あなた、このあと、わたくしに付き合いなさい。」


「どこに行くと言うのですか、お姉さま。」


「王国です。」


「は?」


「北島の北の北の島。わたくし以外は、普段は、けして入れない場所です。そこに入るのは、あそこの終身従事者以外では、まあいくらかの例外を除いては、数えるくらいしかいません。あなたは、久しぶりなのですよ。」


「なぜ、・・・そこは、お姉さまの神聖な祈りの島ですよね。神のお許しがなければ、入れない島です。」


「そう。お許しが出たのですもの。」


「なるほど。お姉さまがそうおっしゃるのならば。わたくしに何か言うべき言葉はございませんけれど。その、例外って、なんですの?」


「そうねぇ。あのね、あなたは、『婚約の儀』の後、実際また、そこに入ることになるのです。正晴様と武様もね。アヤ姫様以来のできごとですの。でも。やはり、あなたは特別なのです。なぜならば、あなたは、わたくしだから。でしょ?」


「まあ、そういわれれば、そうですが。たしかに、わたくしは、お姉さまご自身です。」


「そうよ。だから、ちょっと、見てほしいの。いっしょにね。」


「何をですの?」


「人間たち。あなた、欲しがってたでしょう?」


「う・・・・」


「我慢しなくていいわ。いよいよ、その時がくるのですもの。なに。大したことではないわ。いいわね?」


 弘子は、抗弁を許す感じではなく、妹に・・・分身に、告げた。


 いくらか、ごくりと唾を飲み込むように、道子は答えた。


「はい。お姉さま。喜んで。」






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