わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第八十八回
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「さてと、まあ、色々とみんな、やってくれるじゃない。」
ヘレナが体内に戻ってきている弘子が、レッスン室でヴァイオリンを抱えながらつぶやいた。
「大方の動きは読めているわ。・・・しかし、どうも弘子の脳には解せぬ部分があるらしい。気が付いてはいたが、解明が出来ぬ。なぜじゃ? わしにわからぬところがあろうはずがないのじゃが・・・まあ、いいかあ! おおい、アニーさん!」
『はいはい。なんですか、ヘレナさん。』
「ねえ、あなた、何か隠してないかなあ?」
『まさか! そのようなことがあるわけがないでしょう。コンピューター、デスヨ、アニーハ・・・』
「またまた。おとぼけしてるわね。でもね。こうなると、信用できるのは自分だけだからね。ここが勝負どころなのよ。アニーさん。地球人類すべての『相互食料化』は必要なの。火星でのやり方とは違うわ。ブリューリは介入できないの。この先、この星が生き残るためにはね、絶対必要なの。間もなく金星人が帰って来るわ。ぐんと、パワーアップしてね。一方で、そうなれば、また『光人間』の再生が進むでしょう。火星人も、再興を目指している。これには、わたくしは、ともかく協力する責務があるわ。地球人が窮地に追いやられるのは、もう目前だからね。でもね、そこを打破してこそ、栄光の未来が来るわ。お互いが食料にしあえる状況にしなければ、持たなくなるの。それも、人口が維持可能なようにね。」
『あなたの研究は、進んでいるのですか? アニーには秘密の。』
「まね。大方ね。おっと、秘密は秘密ですわ。まだ、公開できませんわ。」
『いじわるですねぇ。あなたと、アニーの仲でしょう?』
「ほほほ。まね。まあ、もう少し我慢しなさい。いい、カイヤを自由にさせてるのには、それなりの理由がある。でも、時は来る。わたくしは、第3王女を自殺させることには、賛成はできないけれど、まあ、ほんの一瞬に、ことをかたずけなければならないわ。あなた、壊れないでね。いつかみたいにね。」
『はあ????いつの事だったかなあ???』
「まあ、コンピューターのくせに、またまた、おとぼけなんかして。ほほほ。そうだ、練習済んだら、ルイーザ様呼んで、お風呂にしよ~っと。それから、ちょっと、王国に行かなくっちゃね。」
『どうぞ、ご自由に。』
広い練習室に、『しべこん』第1楽章の壮絶なカデンツァが鳴り響いた。
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一方、『第2王女=地球帝国総統』も、忙しいスケジュールの合間を縫って、練習をしていた。
カール・ニルセンの『ヴァイオリン協奏曲』である。
ヘレナの分身に支配されてはいるが、自分の意思は堅持している。
また、分身は音楽には介入して来ない。
「いよいよ、時が来ますわ。お姉さま。勝負ですわ。」
最近、忙しすぎて、あまり練習が出来ていなかった。
しかし、ヴァイオリンで、姉に負けるわけには、ゆかない。
大人しく優雅なルイーザは、実は、元々、大変気が強く、闘争心も強い。
冒頭の難所が、王宮に鳴り響いた。
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「いよいよですね、お師匠様。」
弟子が言った。
「そうである。そなたにとっても、大きな節目になるであろう。第一王女様は、間もなく、お忍びでおいでになる。候補者を村からここに連れてまいれ!」
「はい。あの・・・」
「なんじゃ。」
「本当に、引退なさるお積りなのですか。」
「そうじゃ。いささか、長すぎたのじゃ。もう、休んでも良かろうて。」
「私は、まだ、経験が足りません。」
「皆そうなのじゃ。そこを乗り越えてこそ、大奉贄典への道が開かれるのじゃ。」
「やはり、『真の都』にお入りになるのですね。」
「そのつもりである。もちろん、今回失態があれば、許されまいが。」
「そのようなことは・・・、あってはなりません。」
「よく言うた。頑張るがよいぞ。」
「はい・・・・・」
弟子は、しかし、いささか考えるところもあった。
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「やましんさん。また、幸子が出なくなりました。ひど~~~い。準主人公でしょ。ぷんぷん。」
「いやあ・・・・・暑くてねぇ・・・」
「。。。。それ、関係あるんですか?」
幸子さんが疑わし気に尋ねてきました。
「まあ、暑さというものはですね、人間の精神の制御を崩すのです。」
「もとから、崩れてるくせに。じゃあ・・・・氷をいっぱい、もってきましょう。南極あたりから。」
「あ。いや、いいです幸子さん。次、出しますから。ね。」
「ふうん・・・・・あやしい・・・・じゃあ、幸子も、いつでも、出せるようにお池に準備しましょう。」
「お池が凍りますよ。夏なのに。」
*「しべこん」=シベリウスのヴァイオリン協奏曲。
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